表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者達の集い  作者: イトー
始まり
20/173

戦いの後

「リーダーがやられた!」

「駄目だ、やっぱりかないっこねえ!」

「おい、ずらかるぞ!」

 勝敗を見たワイダル兵達は、我先にと村から飛び出していった。


 所詮ゴロツキの集まり、こうなれば統率などあったものではない。


「……クソが」

 座り込み、腕を押さえながらジャックスは恨み言を吐く。


 しかしその表情からは今までの余裕は影を潜め、若干萎縮していた。


 味方にあっさり見放されたから、なんてしおらしい理由ではなく、武器を破壊されたせいだろう。

 猛々しい態度は、魔剣からの影響もあったのかもしれない。


「やったな、リュウド」

 強い眼差しをジャックスに向けるリュウドに、ユウキとアキノが合流した。


 村長、そして回復魔法で治療されたダンギを含んだ数人のオークもそのすぐ後ろに来ている。

 ジャックスに退路は無い、完全な敗北と言えた。


「観念するんだな」

 ユウキが詰め寄る。


 肩をがっくりと落として諦める、と思いきや、

「俺は認めねえぞ」

 ジャックスは悪態をついた。


「証拠があるとか抜かしてたがな、布の切れ端が俺のマフラーの一部だとして、ルイーザが殺された時に拾ったって言えるのか?」


「なんだと?」

「俺がマフラーを外した時に真犯人が端をちょいと切り取って、死体に握らせたって事もあるんじゃねえのか?」

 本気の反論でないのは、誰の目にも一目で分かった。


「この期に及んで、そんな屁理屈が通用するとでも思っているのか?」


「その理屈が通るか通らねえかは警察が決める訳だ。で、その警察はこの件をこれ以上調べられるのか? もうよせ、とどこからかお達しが出てるんじゃないのか?」


 この男は確かに知っている。

 自分達のバックにいる権力者が警察に圧力を掛けている事を。


 殺人など知らないと言い張って時間を稼げば、捜査が有耶無耶になってやがて難を逃れられる事を。


「どんな疑いを掛けられようと俺が首を縦に振らなきゃ、それまでの事よ」

「──貴様」

 リュウドが刀の柄に手を掛ける。


「なんだ? 俺を半殺しにして、無理矢理にでも白状させるつもりか? お前らは警察の代理なんだろうに、そんな事をしてみろ、重罪だぞ」

「こいつめ、ふざけやがって!」

 完治し切っていない傷を押さえながら、ダンギが前に出た。


「こんなクズは、もっと痛め付けてやりゃあ良いんだ!」

「やってみろよ、豚ヅラ野郎が。お前ら勝ったつもりでいるようだが、こっちはこれから増援が来るんだぜ? お前らがルイーザを殺したと信じ込んで、村を潰す気満々の異界人達がな。お前らの味方した3人の

何倍もの人数をこっちは用意してんだ」


 ジャックスの顔に余裕の笑みが戻りつつある。

 ダンギの言う通り、魔剣の影響を差し引いても、性根からクズなのだ。


 ユウキが奥歯をギリッと鳴らした。

「ジャックス……あくまでも開き直るつもりなんだな」

「俺がやりましたと言わなきゃ、オークどもの仕業って事で話が落ち着く。それを王都中の皆が信じる、ただそれだけの事だろうが!」

 せせら笑うジャックス、再びユウキの奥歯が鳴った。


 ユウキの体が微かに揺れていた。怒りに、打ち震えている。


「お前、心底のクズだな。さすがに俺も頭に来たぞ。これだけは反則だから使いたくなかったが、もう容赦はいらないようだ」

 そう言うと、手の平を向けた。


 黒紫の瘴気が手から染み出すように溢れ出し、それは渦巻いて固まっていき、やがてグレープフルーツ大の球体になった。


 ジャックスはそこから敵意や殺意と言った、負の力を感じ取る。

 自分の所持していた魔剣とは比べ物にならないほどの。


「お、おい、何のつもりだ! 俺を殺そうとしたら、お前は──っ!」

 虚勢に満ちた言葉が、そこで詰まった。

 球体に真一文字の割れ目が入り、粘着質の糸を引きながら縦に開いた。

 中にあったのは、濁り切った虹彩を持つ、瞳だった。


 目覚めた人間のようにぱちぱちと瞬きすると、その瞳はジャックスを刺すように凝視した。

 途端、強烈な波動がジャックスに発せられた。


「お、おおお!」

 凍える吹雪を全身に浴びせられているような感覚。

 何かの攻撃魔法を食らったのか、と思い始めた頃にはそれは止んでいた。


 ジャックスは慌てて体中を見回すが、何ともなっていない。

「? な、なんだ、こけおどしか。そんな挑発で俺は、うぅ!」


 喉からおかしな悲鳴を上げて、ジャックスは体を痙攣させた。

 突然、数メートル先に男が現れたのだ。


 移動魔法が存在するこの世界で、ただの男が視界に出てきただけならこうも驚きはしない。


 男が着ている旅人用の服は血まみれで黒ずんでおり、その顔や手足はゾンビやグールのように腐り、酷く爛れていた。


 いや、そんなアンデッドモンスターならジャックスも知っている。

 では何故驚いたのか。


 それはこの男が、以前山中で追い剥ぎをして手に掛けた旅の行商人だったからだ。


「な、なんでここに、うぁ!」

 目を背けると、そこにもまた別の男が立っている。

 みすぼらしい服はやはり血塗られており、腐敗した顔面は崩れていた。


 この男は目障りだと言うだけで殴り付け、死体を街の下水へと叩き落した浮浪者。


 その隣にも男が立っている。

 捌かせた違法薬物の売り上げを、懐に入れて黙っていた売人だ。


 この男も散々痛め付けた挙句、他の売人への見せしめで殺した。

 そして、その横には──

「ああ、お、お前は」


 大きく裂けた、皮製の簡易な軽鎧を身に付けた女騎士。

 斬り付け、刺し殺し、部下に棍棒で散々殴り付けさせた、あの。


 鎧も、その下の衣服も、美しかった髪も全てべっとりと血で濡れている。


「な、な、なんだ!? 何が起こってる……ち、近寄るんじゃねえ!」

 亡者達は実体を持たない幽鬼のように、ゆっくり、ゆっくりと近付いて来ている。


「来るな、こっちに来るんじゃ、うえぇ!」

 ジャックスは顔を引きつらせた。


 体を後ろへ引こうとした時、押さえていた右腕の傷に指が食い込んだ。

 そしてそのまま、ずるりと肉が下へと剥がれたのだ。


「な、なんだ、ひっ!」

 慌てて放した手の肉が腐り、指先から白骨が飛び出している。


「一体何が、あぁ!」

 ゴキゴキと嫌な音がしたかと思うと、右腕があらぬ方向へと曲がり、粘土人形の一部を引っ張ったかのように、その腕がもげて落ちた。


 ぼこぼこと腹の中が動き、服をめくると傷んだ魚の腹が裂けるように、突然腹部が千切れて内臓がどろりと垂れ下がり、血が滴った。


「うああ、うああ!」

 顎がガクガクと歪み、吐血しながら歯がボロボロと抜けていく。

 続いて顔の肉が崩れていき、片目が溶け落ち始めた。


 戦慄して声も出せないジャックスの視界に、ユウキが現れた。


「た、たた、助けてくれ! 頼む、頼む!」

「助かりたいなら、洗い浚い本当の事を話せ」

「は、白状する! だから、頼む! こ、これを止めてくれぇ……っ」

 恐怖が限界に達し、ジャックスは気を失った。



「あいつ、急にどうしたの?」

 アキノが不思議そうな顔でユウキに聞いた。


 アキノの目には、突然ジャックスがきょろきょろしながら叫びだし、のた打ち回ってから気絶したようにしか見えなかった。


 倒れている姿を見ても、リュウドに斬られた腕と足以外に外傷は見当たらない。


「俺が使ったのはテラーペインだよ」

「ペインデビルが使ってくる、あの?」


 ペインデビル。

 苦痛と負の感情を操る、という設定の魔族系上級モンスター。

 その攻撃は精神系のステータス異常を起こすものばかりで、耐性のあるアクセサリーが無ければ高いレベルであっても掛かってしまう。


 中でもテラーペインは死と激痛のイメージを相手の意識へと送り込み、恐怖の幻覚で、行動不能になるほどの極度の混乱状態へと陥らせる。


 とにかく厄介で、プレイヤーが選ぶムカつくモンスターランキングでほぼ殿堂入り状態のモンスターである。


「これを使っていれば、早い段階で自白させられたかもしれない。でも拷問みたいでさすがに、ためらいがあった。確かな証拠を出せば認めると思ってたし。けどあそこまで開き直られたら、そんな遠慮はいらないって思ってさ。正直、キレたよ」


「それで良いと思うよ。ああいう弱い者いじめをして喜んでるような悪党は、痛い思いをさせないと」


「ユウキ、幻覚と分かればまた誤魔化そうとするのではないか?」


「少なくともルイーザ殺害を自白するまでは、あの魔法は度々幻覚を見せるはずだ。自分で使って分かるんだ。そういう、ねちっこい嫌な技だって言うのが。何せ、この世界共通の敵、魔族が使ってた技だ」


 ふう、とユウキは後味の悪いため息を吐いた。

 落ち着いた所で、次の問題が頭に浮かんでくる。

 ジャックスが言っていた増援は、どう対処したら良いだろうか。


 ワイダル兵なら何人来ても大した事は無いが、同じプレイヤーである異界人となると戦いたくはない。


 敵同士として交戦した場合、レベル次第でこちらが殺されてしまう。

 現在王都には自分達を上回る強プレイヤーがゴロゴロいるのだから。


 自分達が前面に立って交渉すれば、分かってもらえるだろうか。

 ジャックスを叩き起こして、裏の事情を全て説明させるか。


 念の為に、オーク達を避難させておいた方が良いだろうか。


 何か上手い方法は無いだろうか、とユウキがうんうん唸っていると、目の前にフレンドチャットのウインドウが開いた。

(ずっと戦闘でもしてたの? ようやく繋がったわ)

 リンディだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ