守備隊
「皆さん、こんにちは」
フルフェイスの兜にプレートアーマーとスカートを
身に付けたプレイヤーが、玄関から入ってくるなり
挨拶した。
兜を外すと、トップにまとめた金髪と彫刻のような
整った顔立ちが現れた。
「おう、ヨアンナか」
ゴツゴツした全身鎧のゴルドーが言った。
ユウキがこちらの世界で初めにコミュニケーションを
取った、聖騎士の女性だ。
パラディンのヨシュアには及ばないものの、統率力と
戦闘力はかなりのもので、魔族が作り出した迷宮の
数ヶ所を攻略した功労者でもある。
また、ゴルドーと同じ鎧姿でも、胸部のプレートに
さりげない花の装飾がなされていて、華美ではないが
華やかさがあった。
「お前もギルドベースに呼び戻されたくちか」
いいえと澄ました口元が動いた。
「こちらで休養中に宮殿襲撃を知り、それから遠出は
控えるようにと。守備隊の編制に名前が挙がっていた
ので、訓練所で模擬戦を行ってきたところです」
戦力として大いに期待できるプレイヤーは、各守備隊の
リーダーに選出されるらしい。
防御に長け、回復魔法も使える聖騎士なら適任だろう。
「昨日の今日で少し騒ぎすぎな気もしねえでもねえが、
何の準備もねえ所を突かれたらお終いだからな」
「そなえあれば、うれしいな?」
アプリコットがロリポップキャンディをなめながら
言った。
多少、元のことわざと違うが、意味は同じようなもの
だろう。
「ギルドリーダーが来る者を拒まずでプレイヤーを
次々と受け入れていたのは、先見の目があったのだと
言えるでしょう。これだけ人員がいれば、王都を囲う
防壁の要所に守備隊を配置できます」
壁の見張り台には主に、洋弓・和弓・アーバレスト等の
弓を扱うクラスが一定数置かれるという。
彼女が任されるであろう隊にも、それらの扱いが達者な
プレイヤーの名があった。
遠方の監視や遠距離からの迎撃に、弓で用いるスキルを
いかんなく発揮することだろう。
他でも適材適所で編制が進んでいる。
ギルド未加入のプレイヤーも招き入れ、日々規模を
拡大している、みんなの会。
編制されたメンバーにはソロプレイヤーやBOTも
区別なく含まれているという。
各地で活動する大きなギルドは他にもあるようだが、
ここまでの大所帯は存在しない。
異界人の主力組織、魔族に対する一大勢力と言っても
過言ではないだろう。
「まあ、人は多いに越したこたぁねえや。で、みんな
して気張ろうって時に、竜騎士の面々はまだ1人も
戻ってねえようだな」
自分の育てたドラゴンに乗って空を駆ける竜騎士。
この世界に来た時、彼等は己の相棒であるドラゴンが
姿を消していることを嘆いていた。
「探しにいこう! きっとどこかで俺達を待ってる!」
そう言って、他の竜騎士を募ってドラゴン探しの旅に
出た男がいた。
ドラゴンを溺愛する竜騎士、タケオだ。
その愛情は本物で、人里から遠く離れた飛竜の渓谷に、
何の手掛かりもなしに直感だけで向かったという。
転送魔法陣の機能が復旧する前の話だ。
だがそれ以来、音信不通で何の音沙汰もないそうだ。
その地域は、辿り着くのも困難を極める難所である。
「現時点でいない人をあてにしても仕方ありません。
確かに戦える者で対処していかないと」
ヨアンナは割とシビアだ。
決して冷徹なのではなく、いざとなったら淡い願望は
何の役にも立たない、いる者で何とかしなければ。
と現実を直視しているのだ。
「兵隊は今あるもので何とかするのが仕事だからな。
俺達の親玉は、その辺を全力でフォローしてくれる人
だから仕事もやりやすいがな」
その場にいる者達は揃って、みんなの会のリーダーの
顔を思い浮かべた。