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冒険者達の集い  作者: イトー
一時、ギルドベース
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一方、ギルドベース


「あーいそがしい、いそがしい」

『みんなの会』ギルドベース内を急ぎ足で

駆け回る女性プレイヤーがいた。

 ショートカットに銀縁眼鏡、モスグリーンの

シックなワンピース姿の彼女はヴァイオラ。

 大所帯を円滑に動かすために、ミナから任命

されているサブリーダーの1人だ。

 魔法薬の調合や属性付き物質の合成などを

行える上級職のアルケミストだが、現在は

ギルドの人事を主に担当している。


「マキシがいなくなるだけで、こんなにも

仕事が大変だなんて」

「普段1人でどれだけの量を捌いていたのか」

 同じく、飾り気の少ないワンピースを着て、

早足で隣を歩くのは、会計担当のアラキ。

 長い黒髪を持つ和風美女で、サムライの

高等ランクにまでレベルを高めているが、

イベントで何の気なしに取っていた簿記の

スキルを見い出され、会計をやっている。


 マキシが働き者のおかげで2人は補佐役に

回ることが大半だったが、つい先ほど彼が

ユウキ達とルージェタニアへと旅立ったため、

仕事を分担して任されたのだ。


 ギルドメンバーには召集がかけられ、主力に

なりそうなプレイヤーは遠出をさけるように

指示が出ている。

 彼女達は待機メンバーの確認と、その上での

騎士団との合同練習のスケジュール調整などで

もうてんやわんやだ。

 上を下への大騒ぎとは、恐らくこんな状況を

言うのだろうと彼女達は感じていた。


 書類の束を両手に抱えて、エントランスを

パタパタと駆けていく2人と、アプリコットが

擦れ違った。

 一方、彼女は相変わらずマイペースだ。

 ロリポップキャンディをペロペロなめながら

歩いていると、


「あ、ゴルドー」

 牛の角を模した角付き兜と全身鎧に身を包んだ

オーガが玄関の門から入ってきた。

 身長は2メートルを超え、その幅と厚みのある

体躯は筋肉で作られた壁のようだ。

 片手だけで支え持つ大剣は、剣身だけで畳1畳は

あるだろう。


「今日も朝から暴れてきたの?」

「おう、サーペントドラゴンどもを叩きのめして、

首を三つ四つ斬り飛ばしてきたばかりよ」

「おー、たのもしい。すとろんぐすたいる」

「魔族の襲撃の予告だかなんだか知らねえがよ、

まどろっこしいのは眠ったくなるんだ。来るなら

来いってんだ。1匹も生かしちゃ返さねえ!」

 戦士系向きのステータスを持つオーガであることを

差し引いても、彼はモンスターには好戦的だ。

 普段は比較的温厚だが、戦いとなればその攻撃性は

戦闘狂の域に達する。

 仲間としては頼もしい男だ。


「こんにちは」

 そこに玄関から3人組が現れた。

 ユウキ達と冒険を共にしたアルス、ベガ、ラリィだ。

 アルスとベガはギルドに参加した時よりも、防具や

衣装のグレードが上がっている。


「酒が切れたから帰ってきた」

 ラリィが空になった金属のスキットルボトルを指で

つまんで揺らしている。

 最近になって携帯しているものだ。

「酒の切れ目が冒険の切れ目ってなあ。あとはもう

飲んで寝ちまえばいいや」

 彼女の酒好きはとどまるところを知らないらしい。

 ギルドベースの貯蔵庫に自分用の酒をストックして

いることからもそれは窺える。


「ラリィ、ブラッドが新しいおつまみが完成したって

冷蔵ボックスに入れてたよ。マンムートオクトパスの

吸盤で作った酢の物だって」

「おお、いいねぇいいねぇ。それで1杯ひっかけるか。

アルス、ベガ、今日はこれで解散な。よく休んどけよ」

 パーティリーダーであるラリィはそれだけ告げると、

酔ってはいるが確かな足取りで廊下を歩いていった。


「僕らも休もう。今日もいい経験が積めた」

「アルス、一休みして落ち着いたら一緒に、ご飯でも」

「ん? そうだね。ラリィさんはどうせずっと飲んでる

だろうから2人で行こうか」

 ベガの顔がパアッと明るくなる。

 その表情に、単なる食事ではない他意が見て取れた。


「おう、アルス」

「え、はい」

「お前少し見ないうちになかなかいい面構えになったな」

「あ、ありがとうございます!」

 彼等はギルドに加入してから、初級者向けのレベル上げの

鍛錬を続けていた。

 特にアルスは、美少年好きのお姉さま方から、愛情溢れる

厳しいしごきを受け続けていたため、成長度は著しい。

 あどけなさが目立った顔付きにも、凛々しさが増している。


「まあ、力をつけるこった。てめえに降りかかる火の粉を

てめえ1人で払えねえようじゃあ、敵を倒すことも誰かを

守ることもできっこねえからな」

 己の思いを成し遂げるために相応の力は必要となる。

 ゴルドーは一見凶暴だが、自分の力の使い方に対して、

芯を持っている男だ。


 彼等のそばでキャンディをペロペロしていたアプリコットは、

誰よりも早く、また玄関から誰かが入ってくることに気付いた。


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