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冒険者達の集い  作者: イトー
魔法の都ルージェタニア
167/173

グラン・ピット

 

 緑が生い茂った、いや素直にジャングルと言って

いいほどの森林地帯にそれはあった。

 山の中腹付近にぽっかりと開いた大穴。

 楕円形をしていて、前後は200メートルほど。

 左右はその5倍はあるだろうか。

 穴、と呼ぶより大地の裂け目といった感じだ。

 幾本もの川がその中へと流れ落ち、滝を作っている。

 奥が暗く、落ちていく水の行き先は分からない。

 夕方であることを差し引いても、この裂け目の底は

光が届かないくらいに深すぎるのだ。


「ここが、グラン・ピット」

 ユウキも設定では知っていたが、ゲーム内では

足を踏み入れられないエリアだ。

 イベントデモなどで映像が流れたことはあったが、

どんな移動手段でも入れない場所である。

 そこに、王子の魔法で空間移動してきたわけだ。


 貴重な体験だ。

 ユウキは今後のことも考えて、プレイヤーに共有

できるマッピングを忘れない。

 また何かあって、ここを訪れることもありえる。


「夕日も悪くないが、ここは明るければもっと眺めが

いいんだ。イセアと弁当を持って来たことも何度もある」

 ラディアスが腰に手を当てながら言った。

 大洞窟へ探索には来たとは思えない、ラフな服装の

ままだ。


 王子の言う通り、明るければ自然豊かな景勝地と

呼べるだろう。

 だが今はのん気に景色を楽しんでいる余裕はない。


「この穴は自然にできたものなのですか?」

 リュウドが尋ねた。

 冒険してきた中でもこれほどの大穴は見たことが

ない。


「どうやってできたのかは分からない。噴火口

でもない。が、何かが天より降ってきて穿たれた

とも、何かが地中から出てきた跡だとも言われて

いる。どちらもルージェタニアの記録には残って

いないが」

 世界中の歴史が記録されているというこの国に

伝承がないということは、はかり知れないほど

大昔に誕生したのではないか。


「まあ、少し大きなだけで単なる穴には変わりは

ない。管理者として定期的に降りているが、別に

その辺の洞窟と大差ない。ただ、深さは700に

届くくらいだが」

 単位はリアルと変わらない。

 底まで700メートルはあるということだ。


「すごいね、スカイツリーが全部入っちゃうんじゃ

ない?」

「ああ、てっぺんまで綺麗に収まりそうだ」

 アキノとユウキが話していると、

「ツリー? 異界人の世界にも、そんな大きな樹が

あるのか。世界樹のようなものか」

 世界樹とは神が植えたとされる、天をつくほどの

大木である。

 こことは違う大陸にあり、葉や実はエリクサーを

凌ぐほどの回復力に満ちていると言われている。

 エルドラド人から、その樹は神秘性と生命の象徴と

されている。


「樹ではなく、その、建造物です」

「建造物? とすると、塔か。また途方もない塔を

建てるのだな、異界人というのは」

 感心しているのかは不明だが、ラディアスは

ケラケラと笑った。


「異界人は不思議な者達だな。面白い。僕も

そんな塔がそびえ立つ世界を見てみたいものだ」

 魔法で瞬間移動さえ容易くこなしてしまえる

こちらの世界の者でも、高層ビルが建ち並び、

自動車が走り回る光景は奇異なものに映るだろう。


「ところで、ここからどうやって降りていくの

でしょうか?」

 ユウキが聞くと、

「心配しなくていい。穴の奥にある洞窟の入り口

までは飛行魔法で降下できる」

「ああ、良かった。それならすぐ行って帰って

これますね」

 その言葉に、王子はガラス玉のような大きな瞳で

ユウキをじっと見た。


「1つ確認しておく。ここは本当に単なる穴ぐらで、

小奇麗にしつらえられた神殿などはない。定期的に

見回っているが、ここに元から生息するモンスターは

野放しにしている。秘法石がそれを自然のこととして

望んでいるからだ。最近では魔族の侵攻に合わせて、

見慣れない魔物が入り込んでいる可能性もありうる。

秘法石を持っていくことは許可したし、中の案内も

しよう。だが、それなりの危険はあるものとして

覚悟はしておいてもらおう」

「……分かりました」

 重要なアイテムを入手する前に、困難は付きものだ。

 はなから覚悟は決まっている。


「まあ、長居する必要もない。最短ルートで行って、

4時間後には城に戻れるようにしよう」

「綿密な探索計画の上で目安を設ける、ということ

ですね」

「いや。イセアが夕飯を作って待っているんだ。

やることをやって、さっさと帰りたいだけさ」

 暗くじめっとした洞窟より嫁のいる明るい食卓。

 ラディアスは極めて合理的な答えを返した。


「さて、それじゃあ行くか」

 口元の動きが見えないほどの高速詠唱法で呪文が

唱えられると、ユウキ達は緑色をした半透明の球体に

包み込まれた。

 それがふわりと浮かんだかと思うと、穴の淵まで

音もなく飛び、エレベーターのように降下を始めた。


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