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冒険者達の集い  作者: イトー
魔法の都ルージェタニア
165/173

ルージェタニアの王子

 

「ここは……?」

 ユウキ達が転送されたのは、温暖な庭園のようだった。

 緑が青々と茂り、5メートルほどの落差がある滝から

小川が続いている。

 せせらぎに沿うようにタイルで舗装された道があり、

その30メートルほど先には小さな建物があった。


 西洋風の東屋に、ルージェタニア独特の建築思想を

取り入れたような形をしている。

 リアルの世界にもある、公園などで休憩や雨宿りが

できる東屋と同じものと考えていいだろう。


 そこには、くつろぐ人の姿が見えた。

 長椅子に2人いて、片方は寝転がっている。

「あそこにいるのが例の王子か」

「ここがどこか分からんが、正しく送り届けられたのなら、

そうなのだろう」

「じゃあ、早速お願いに行かなきゃ」


 3人は建物まで歩いていった。

 そろそろ日が暮れだしてもいい時間帯なのに、ここは

まだ青空が広がっている。

 ユウキはそんなことに気付きつつ、東屋に足を踏み入れる。


 中央にはガラス製のポットとフルーツの入ったバスケットが

置かれたテーブルがあり、四方には幅の広い長椅子。

 その1つに2人はいた。

 1人は眠っているかのように目をつぶった妖人の美少女。

 年齢は13、4といったところ。

 背中まであるふわふわとした髪は栗色で、適度にフリルの

あしらわれた、品のいいワンピースドレスを着ている。

 彼女は崩した正座で椅子に座っており、その膝の上には

頭を預けて横になる若者がいた。


「ここに入れたってことは、メルセデスに送られたね」

 先手を取るように、その寝転がるものが言った。

 緩いウェーブのかかった亜麻色の長髪を肩の辺りで編んで、

下に垂らしている。

 スリムな体はTシャツと膝のかすれたダメージジーンズに

包まれていた。


 これがルージェタニアの王子か。

 王子、のはずだよな。

 ユウキは自分の中で何度か確かめた。

 人違いかどうかではなく、目の前の人物は美少年にも

美少女にも見えるのだ。

 20歳に満たぬ、歳は高校生くらいだろうか。

 顎のラインはシャープで、吸い込まれそうな大きな

紫色の瞳を持っている。


「私の名はユウキといいます。ルーゼニア国王の使者

として伺いました。王子、であらせられますか?」

 中性的な美貌の持ち主にユウキは話しかけた。

 彼は寝転んだまま視線だけ向けると、

「ああ、僕が王子ラディアスだ。用件はそれとなく

ガーロナから聞いているよ」

 大賢人ガーロナはユウキ達の来訪から、1度として

彼には会っていない。

 高等な魔術師は思念を送りあうコミュニケーションを

行えるらしい。


「ルーゼニアが魔族に襲われたんだってねえ。君の

先見(さきみ)はよく当たるね」

 ラディアスは膝枕する少女に言った。

 少女はコクリと首を縦に振る。


「先見? そちらは?」

 アキノが聞くと、

「イセアは僕の嫁さ。素晴らしい力を持っている」

 彼が少し自慢げに言ってから続けて、

「彼女が何日か前に、黒い大蛇がルーゼニアの城に

入り込む光景を幻視したんだ。当たりだろう?」

 舞踏会の戦いを予知したということだろうか。

 ガーロナは、高度な未来視の力を使うものがいると

言っていた。


 その通りです、とリュウドが答えた。

「私達はそのような術を用いる侵入者と対峙

しました」

「なるほど。それで今後の襲撃に備えたいって

わけだ。それでメルセデスか」

 ふーん、とラディアスは言った。

 どこか気の抜けた返事だが、彼はことの全てを

把握しているのだろう。



「あ、立ちっぱなしは疲れるだろう。その辺に

適当に座って。お茶や果物、お菓子もそこに

あるから。楽にしていいよ」

 ラディアスは掌をヒラヒラと動かして、3人に

着席をすすめる。

 だが、ユウキは失礼のないようにそれを辞した。


「王子、私どもはお願いがあってここへ」

「秘法石を借りたいって話でしょ?」

「えっ」

「都市単位の広範囲をカバーする防衛魔法なんて、

あの婆さんが作った物しかないだろうし。だから

頼みに行けとでも言われて、転送されてきたって

ところでしょ」

「おっしゃる通りです。それで」

「ああ、貸すよ。持って行けばいい」

「は?」

 ユウキはポカンと口を開けてしまった。

 ジュースを飲みたいから小銭を貸してくれ、と

いう些細な話ではないのだ。

 秘法石は、国によっては国宝や御神体のような

取り扱いがなされているアイテムである。

 それをまるで小銭の貸し借りかのように。


「ルージェタニア王の許可などは」

「父様は関係ない。あれの管理は僕の役目なんだ。

僕がいいと言ったらいいのだ」

「はあ、ですが」

「この国は王族が国益や外交というものにあまり

欲がなくてね。貸す代わりに相手の国から何かを

引き出させるとか、政治的に優位に立ちたいとか、

そんなふうに考える癖がないんだ。だから構わない。

別に悪用するというわけではないのだろう? なら、

持っていくといい」


 なんとも話が早い。

 いくつもの会議を通さなければ承認が下りないような

願いに、1発でOKが出てしまった。

 国王からの依頼を半日と経たずに達成し、ユウキ達は

大いに安堵する。


「ありがとうございます。それで秘法石はどこに?」

「ルージェタニアの城にはない。特別な場所にある。

持って行けとは言ったけど、そこまで取りに行って

もらうことになるよ」

 そう言って起きた王子は、椅子にあぐらをかいた。


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