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冒険者達の集い  作者: イトー
魔法の都ルージェタニア
164/173

魔力供給の法

 

「術を使うには、どうすればいいんですか? 

多少の面倒くらい、こっちで何とかしますから」

「ほう、よい心意気じゃの」

 ユウキ達は国王からの使者である。

 国の防衛のために遣わされた身として、面倒が

どうたらと、愚痴など言っていられない。

 魔族の侵攻がいつ始まるとも知れないのだから。

 

「設置式のマジックアイテムは知っておろう」

「結界石、のようなものですか?」

 アキノが思い当たるものを口にした。

 置くことで即席の結界を作り出し、モンスターを

近づけない特殊な領域をその場に生み出す。

 カーベイン沖の孤島にある双角の塔攻略でも、

ユウキ達が用いた。

 

「その類じゃ。そういったものの中に、魔力を

供給できる石があるのは知っておるな?」

 ユウキ、リュウド、アキノの3人が頷いた。

 フィールドに置いておくことで、等間隔にMPや

HPを回復させるアイテムはある。

 長期戦となるボス戦などでは、戦法の中に当然の

ように組み込まれる、ポピュラーなものだ。

 

 どれもが効果に相応しいレアリティのアイテムで、

それらには魔法石の類かそれと類似したものが多く

見られる。

 

「じゃあ防衛魔法は、魔法石かそれに近いものを

使って、魔力を補給しながら実行すると?」

「簡単に言えばそうじゃ。じゃが、並大抵のもの

では意味がない。簡単に手に入れられる程度の

アイテムでは焼け石に水というやつじゃて」

 

 膨大なMPを消費し続ける魔法を使うのだから、

やはりそれに見合ったものが必要になるのだろう。

 それを準備するのが面倒だということだろうか。

 

「術の完成まで、候補を見つけては実験の連続での。

それはもう試行錯誤の日々じゃった」

 年寄りの昔話モードに突入するかと思いきや、

メルセデスが黙って上に向けた掌を出した。

 ポムッと小さな煙と共に、ゴルフボールほどの

石がその手に現れた。

 透明でちょうどガラス玉のようだ。

 

「アーザルゴン。一般的な魔法石よりも多めの

魔力が蓄積されておるが、すぐに割れてしまう。

大きな魔法には使えんものじゃ」

 そう言うと、煙を上げて石が消え、すぐに新たな

石が手の上にぽとりと落ちてくる。

 

 サイズはさほど変わらないが、今度のものは色が

赤黄黒と鮮やかでそのパターンは錦鯉の鱗のようだ。

「ヤシマ産の三彩石、マジックアイテムとしての

装飾品に多く使われているものじゃ。これも悪くは

ないのじゃが、及第点は与えられんかったのお」

 

 続いて現れたのは緑色で六角形をした、雪の結晶

にも似た形状の石だった。

「このシェラタイトは魔力を長時間放っていられる

持続力に目をつけたが、一度に多くの量を得ようと

すると砕けてしまう。これも不十分じゃったな」

 メルセデスはさっきから失敗だったものを挙げて

いるらしい。

 

 4個目に出てきたのは、真ん丸いクリーム色の石。

「月光石じゃ。特定の環境で月の光を浴び続けた

魔法石が変化したもので、大変価値あるものじゃ。

じゃが、満足の行く結果は出せなんだ」

 話を聞きながらユウキは、フェリーチャが自分の

ギルドで造船した船にこういったものが必要だと、

何やら話していたのを思い出していた。

 現物は持って帰れそうにないが、今聞いた情報が

何かの役に立つかもしれない。

 

「つまり希少な魔法石を用いても、防衛魔法を

発動し続けるだけの魔力供給には足りないという

結果が出たわけじゃ」

 月光石が消されると、次は出てこなかった。

 失敗例はこれで終いということだろう。

 

「レアな魔法石でも無理なことを、何を用いれば

フォローできるというのです?」

 ユウキは率直に聞いた。

 思い当たる節がないからだ。

 

「答えはシンプルじゃ。より強き魔力を秘めたものを

用いればよい」

「それは?」

 それはのう──と魔女は少し間を置いてから、

「秘法石じゃ」

「ひ、秘法石? って、あの秘法石?」

「そうじゃ、あれは魔力の根源にして、魔力の塊の

ようなもの。魔力蓄積量は魔法石など比ではない。

豊かな泉のように湧き続ける、まさに無尽蔵じゃ。

秘法石があれば防衛魔法を全力で使用可能なのじゃ!」


 それは可能であろう。

 マジックアイテムとして評価すれば性能は頂点。

 世界を司る元素と各属性の象徴でもあるのだから。

 そもそもの話、それを何かに用いようとする発想が

一般人にはない。

 

「この国にも、ある場所に1つだけ安置されておる。

大賢人の権限で王族に頼み込み、何度か拝借して

実験に使ってみたのじゃ」

「王族が管理しているんですか? 俺達でもそれを

借りることは……?」

「ユウキ、私達にはルーゼニア国王からの手紙が

ある。それで説得すればよいのではないか」

「ああ、そうだな。あくまで国として借りるって

ことにすれば」

「そんな面倒なことはせんでよい。管理している

王子に直々に頼めば済むことじゃ」

 外交や政治レベルの話を面倒なことと切って捨てた。

 大賢人ともなると凡人とは常識も違うらしい。

 

「王子?」

 聞いたアキノがほんの一瞬だけ表情を曇らせた。

 何か連想してしまったものがあるようだ。

 言うまでもなく、それは今彼女が抱えている別の

王子との関係のことだった。

 

「ルージェタニアの王子じゃ。高い魔法力を持って

おるが、堅苦しいのが嫌いなかたでな。国王からの

手紙を持って、云々かんぬんと小難しい顔で頼みに

行けば、間違いなく気分を害される。・・・…害される

というより、面倒臭がられるといったほうがいいかも

しれんのお」

「一国の王子が他国からの使者を面倒臭がるとは」

 リュウドは困惑した。

 

「不真面目ではないのじゃがの。公務以外の時間は

できるだけのんびりしていたいと、常日頃からのう」

「その人に頼んで大丈夫なのかなあ」

 アキノが言うと、他の2人もそれに同調する。

 今の情報では、いい加減な奴、という印象しかない。

 

「心配するような人柄ではないわい。まあ、1度

会ってみるとええ。政治的な話ではなく、素直に

真摯な気持ちで伝えれば、動かぬ御人ではない」

「……なら、会ってみようか。王子は城にいるの

ですか? ここからどの方角へ向かえば城に」

 そう言いながらユウキが椅子から腰を浮かせると、

「時間がないのじゃろう。来た時と同じように、

送ってやろう」

 メルセデスがスッと腕を振った。

 次の瞬間、ユウキ達の視界が暗転した。


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