大図書館にて
ガーロナ、マキシ、メリッサはテーブルへと
集まった本を手分けして調べだした。
術は大変便利なもので、その呪文について
書かれたページが勝手に開くようになっていた。
応用の利く、とてつもない魔法だとマキシは
思ったが、よく考えてみると、
『ネットで検索して情報を探す』
を物理的に行ったのではないか、というところに
行き着いた。
だが利便性の長けた魔法であるのには間違いない。
ギルドの資料や書類の整理を一手に引き受けて
いる身としては、是非とも体得したい術だ。
そんなことを考えながら関連する文章を読んで
いると、
「ああ、きっとこれじゃな」
早速ガーロナが該当する情報を見つけたらしい。
浮遊しながら、大事典のように分厚い本を机に
開いてみせる。
「ここじゃ。破壊力をエネルギーへと換える、
この辺りの数行を読んでみい」
マキシとメリッサはこめかみをくっつけるように
しながら本を見た。
メリッサが小さく唸る。
「確かに。特定のエリアで発生した破壊力を術の
力でエネルギーに換えた、とありますね。あら?
ここにはその術の応用法の呪文が載っています」
彼女は黙読し、それから目を見開いた。
「この呪文のパターン、私が塔や他の迷宮の中で
見たものとほとんど同じ組み合わせ方です。この
最後につけられた終了の呪文も同じです」
「この最後の呪文が何を意味するのか、お前は
まだ知らんようじゃな」
「すみません。不勉強で」
その最後の呪文は、メリッサの知識の中にはない
らしい。
「いや、これは魔族の術の専門家でもなければ
知るものは少ないじゃろ」
「ガーロナ様、それはどんな術なのです?」
マキシが急かすように聞いた。
ふむ、とガーロナはしわくちゃの顔にさらに
しわを増やし、言った。
「これはエネルギー転送の呪文じゃな。わしが
言うんじゃ、間違いない」
「そこで作られたエネルギーをどこかに移した
というのですか? それは一体どこへ?」
「メリッサが記録してきた術と組み合わせて
みれば分かる、ほれ」
メリッサがやったように、ガーロナは宙に呪文
を描く。
「よいか、ここが転送のための呪文じゃ。そして
こちらが、転送先を指定する呪文じゃ」
そこには解読不能な文字が書かれている。
ガーロナは指をスッと振ると、閉じていた別の
本が浮かび上がり、勝手にページを開いた。
「これは魔族が術で用いる言語じゃ。ここにある
文字を当てはめていくとじゃな──」
本に書かれた字がワードごとに光り、それと同じ
字が宙に浮かび上がる。
「……エネルギーの転送先は各迷宮の地下じゃな」
「地下、ですって?」
マキシが聞いた。
地下に何があるというのだ。
洞窟を下った先に妨害魔法の装置が置かれた迷宮も
あると聞いたが、特別な何かがあったという情報は
聞いていない。
「モンスターが消えた後、迷宮はできる限り、隅々
まで探索しているのです。ですが地下への隠し階段
や別の階層があるといった話は聞いていません」
「恐らく、1階下に部屋があるとか、そういった
ことではないのじゃ。よほど入念に探らない限りは
感知することもできないくらいの地下に、エネルギー
を隠しているのじゃろう」
「ガーロナ様。実は、そのエネルギーの使い道に
1つの憶測を立てているのです」
マキシが言った。
魔族は転送魔法陣を作ろうというのではないか、
と彼はガーロナに説明した。
「根拠はなんじゃ?」
「根拠と言いますか、ここまでで話した通り、
舞踏会を魔族に襲撃されました。そこに現れた
男が、我々のおかげで王都攻撃の準備が整った、
といった言葉を残していったのです」
「魔族と自分達の接点は迷宮くらいしかない、と
思ったわけじゃろう?」
「ええ。話が戻りますが、防御魔法の情報と共に、
迷宮に記録されていた呪文の謎を解くために、
大賢人の知恵を借りることになりまして」
魔法陣は分かるな? と突然ガーロナが言った。
メリッサが、ええ大体は、と咄嗟に返答した。
「魔法陣は使う術によって千差万別じゃ。じゃが
特定の位置に炎を灯したり、生け贄を置いたりと
それなりに似通った部分はある。それは人間が
描こうと、魔族が描こうと、基本は同じでの」
そう言うと、ガーロナは手を水平に振った。
すると何もなかった空中に1枚の大きな地図が
現れ、テーブルへとひらひら落ちた。
どうやらルーゼニア王国全土の地図のようだ。
「まずカーベインの沖にある島じゃったな」
ガーロナが指でその地点を押すと、スタンプでも
押したかのように、ポンと赤い丸がつく。
魔術で一時的に着色しているだけのようだ。
マキシはガーロナの意を察し、次々と攻略の
済んだ迷宮の場所を言っていく。
そのたびにガーロナは指で赤い丸を増やして行く。
やがて地図には20近い丸が付けられた。
「こう見ると、この赤い印もただのまだら模様の
ようじゃ。じゃが、これに照らし合わせると」
ガーロナが指を振ると、先ほどと同じように
テーブルに置かれた1冊がパカッと宙で開かれた。
「魔族の魔法陣……転送魔法用!?」
メリッサが内容を読もうとすると、中に図として
描かれていた魔法陣が幾つか宙に飛び出してくる。
まるでワイヤーフレームで描かれたようなそれは、
地図の上で止まった。
「さあ、この魔法陣を見ながら赤い点を繋いで
いくのじゃ。それで魔族の企みが分かるじゃろう」
「?」
マキシはガーロナがやった赤い点を記す要領で、
点を指で魔法陣の形に合わせて繋げていく。
すると。
「……これは!?」
ちょうど王都を包囲するように、複数の位置に
魔法陣とほぼ同じ図形が描けた。
これはわしの憶測じゃが、とガーロナは断ってから、
「魔族は大地そのものに転送用の魔法陣を描いて
いたのかもしれんの。それを迷宮を攻略するという
形で知らぬ間に手伝わされ、エネルギーの確保まで
させられていたのが──」
「ギルドの攻略パーティーだったというのか……!?」