土地調査
朝10時。
出発の準備を整えたユウキ達は、昨晩指示された時間通りに王立警察署へと赴いた。
いつもの部屋へ行くと、リンディの他に男が1人座っていた。
「こちらが国土管理局から来てもらった調査員のケネルさん」
誠実そうな男──ケネルは立ち上がり、頭を下げた。
ケネルが身に付けている服は登山服のようなしっかりした素材の物で、上にはポケットが幾つも付けられたベストを着ている。
調査用の服装なのかは分からないが、ヘルメットまで着用していた。
その姿にユウキは、以前テレビで見た秘境に挑む探検隊を思い出した。
「偶然予定が空いていたので私が調査の担当になりました。実は、ルイーザ様が生きていれば私が土地を調査するはずだったのです。これも何かの縁、今日は宜しくお願いします」
「こちらこそ、調査をお願いします」
挨拶をすると、ユウキのパーティーウインドウにケネルの名前とステータスが加わった。
これはクエストで仲間になるイベントキャラ扱いなのだろう。
戦闘力は皆無のようで、守りながら進む事になるようだ。
「今朝早くにオーク3人を釈放して村へ帰したの。暴行の届けが出てたダンギも一緒にね。どうせ採掘会社の難癖だろうから」
「そうか、良かった」
人通りが多くなってからでは、オークは目立ちすぎる。
早朝に帰したのはその為の配慮なのだろう。
「これから3人には、ケネルさんと村へ向かってもらいます。あ、頼まれてた布切れの検査だけど、あと何時間かしたら結果が出るみたいだから、そしたら連絡するわね」
「ああ、分かった。こちらも何かあったら連絡する」
ごく簡単なやり取りを済ませると、4人は西城門へ向かった。
王都を出発した4人はモンスターの襲撃に遭う事もなく、無事にオークの村へと辿り着いた。
入り口を通ると、どこかで見ていたのか村長が村民数人を連れて迎え入れてくれた。
「戻ってきた3人から事情は聞きました。色々と尽力してくれたそうで、いやあ、助かりましただ。感謝の言葉もねえです」
「良いんです。それより今日は土地の調査に来たんです。村の代表としての了解をもらいたいのですが」
「は、土地の調査?」
ユウキは採掘会社の評判や、ルイーザが交渉に介入したせいで殺害されたのではないかという仮説を聞かせた。
「それで、正規の調査を入れて、採掘会社が関与したかもしれない可能性を確かめたいのですが」
「うん、うん、こちらも調査を頼んます。うちらに良かれと思ってやってくれた事が原因でルイーザ様が死んだんじゃ、申し訳がねえ。その辺をしっかりさせておくべきだ」
了解を得ると、ケネルは背負ってきたリュックから道具を出し始めた。
「調査に最適の場所を探すので、私に着いて来て下さい」
そう言うと村の北側に抜けて、緩やかな斜面を登って行く。
村のすぐ外でもモンスターは出没すると村長が言うので、ユウキ達は護衛の意味で付いて行く事にした。
山道を登って10分程度で、彼の望んだ場所は見つかった。
平地になっているそこに、ケネルは小さな魔法陣のような物を描き、その中心に1メートルも無い槍と似た道具を突き立てた。
村までの道中で聞いた話によれば、土地の検査員は国家資格らしく、こういった特別な道具や調査の術を学ぶ学校もあるらしい。
「それほど時間はかからないので、しばらく待っていて下さい」
呪文で魔法陣を光らせるケネルに言われ、3人は離れて腰を下ろした。
「これで、ベタン鉱石より高額な鉱石が見つかったらどうするの?」
「結果次第だけど、出てきた物によってはゲザン鉱業のやってた手口と合わせて、ここでも同じ手口で利益を出そうとしてた説が高まってくる。それがルイーザを殺してでも欲しい額になるなら妨害の為に殺害を企てた理由にもなると思うんだ」
「だがユウキ、それでは証拠として弱いだろう。やはり殺害した犯人に直接繋がるものが無ければ」
「ああ……そうだよなあ、もっとしっかりした物があれば」
ユウキが唸っていると、チャットウインドウが開いた。
(ユウキ、あの布切れの検査結果が出たわよ)
「ああ、それで何か出たのか?」
(うん、出たんだけど、それがね──)
ユウキはリンディからの報告を、うんうんと確かめながら聞いた。
「ユウキ、検査で何か出たの?」
「ああ、リンディが言うには──」
ユウキはウインドウを閉じると、聞いたままを伝える。
するとアキノは、大きく目を見開いた。
「私……それ知ってる、私が嗅いだのはそれだったんだ」
「嗅いだ? 何か、思い当たる事があるのか?」
ユウキが聞こうとすると、
「ま、まさか、こんな物が!」
突然ケネルが大声を上げた。
「ベタン鉱石と聞いていたのに、こ、これほど物が!」
普通ではない驚きようで、明らかに狼狽している。
「ケネルさん落ち着いて下さい、何が見つかったって言うんですか」
「お、落ち着けませんよ! 王都の近くの土地からこんな凄い物が見つかるなんて! だってこれは──」
ユウキは半ばパニックのケネルに近寄り、冷静を促す。
慌しい様子の3人を眺めていたリュウドが、森を1つ挟んだ村の方を何気なく見下ろした。
「!」
明確な危機感を覚え、リュウドは叫んだ。
「見ろ、村から火の手が上がっている!」
その声にユウキとアキノも顔を向けた。
視線の先で立ち上る煙は、明らかに焚き火や飯炊きの物ではない。
複数の火元を見ると、家屋そのものが燃えているように見える。
一瞬だけ火事ではないかとユウキは思ったが、村中を駆け回るオーク達とは別に、彼等より小さい人間らしき姿が目に入った。
「あの火……まさか、村が攻撃されてるの?」
「とにかく急ごう!」
言うが早いか、4人は斜面を駆け降りた。