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冒険者達の集い  作者: イトー
魔法の都ルージェタニア
157/173

大賢人ガーロナ

 

 ユウキ達は城内に通された。

 窓が少ないせいか多少薄暗いが、青白い炎が

壁際で等間隔で燃え、明かりを補っている。

 これは燃料やロウソクを用いない、魔法による

照明だ。


 ガーロナが宙に浮きながら先導する。

 廊下では何人もの魔術師達と擦れ違った。

 (うやうや)しく礼をされる様子だけで、ガーロナが

いかなる立場なのか見て取れた。


「あの、ガーロナ様」

 マキシが言うと、ガーロナはことを急ぎたい

雰囲気を読み取ったのだろう。

 しわくちゃの顔で振り向くと、

「すぐにわしの部屋じゃ。公で話せるような

内容ではないのじゃろう?」

「……ええ」


 防御魔法を依頼するにあたり、当然舞踏会で

起きた出来事を伝えなければならない。

 これは王の緘口令があったように、関わった

ごく一部の者にしか知られてはならないのだ。

 ただ、ガーロナはそれさえも、それとなくだが

察しているようであった。


「ところで、マキシ以外の者とは面識がないのお。

今更ですまんが、どちら様かな」

「あの、私は解除術を専攻しているメリッサと

申します。大賢人に御目にかかれて光栄です」

「おお、魔族の塔で活躍したとわしの耳にも

届いておる。よく鍛練しているようじゃな」

 メリッサは目を輝かせる。

 老ゴブリンにしか見えないが、魔法都市に住む

者からすれば、彼は雲上人だ。


 ユウキ達3人も自己紹介した。

 王の使いとはわざわざご苦労なことだのう、と

ガーロナは労い、そして、

「わしはガーロナじゃ。大賢人と呼ばれておるが、

老いぼれたゴブリンじゃ。気を遣わんでええ」

 両手を腰にやり、ふぉっふぉっ、といかにもな

笑い方をした。


 ユウキは脳内のゲーム知識を紐解く。

 ガーロナは大賢人で、種族は見たままゴブリンの

亜種の一族である。

 知能の低いイメージがあるが、ゴブリンメイジや

ゴブリンウォーロックというモンスターが存在

するように、魔術を得意とする者もいるようだ。

 彼は若い頃から魔法都市の賢人のもとで修行し、

ここまでに成長、老練したゴブリンである。

 モンスターではあるが妖人や人間寄りの生き方を

していて、ルーゼニアに村を作って生活している

温厚なオークと似たようなものと言える。



 魔法陣の描かれた扉の前に来ると、自然に扉が

開き、ガーロナが5人を(いざな)った。

 6メートルはある、天井まで届く棚には、びっしりと

魔術書が並び、巻物や珍しい杖、魔力を帯びた植物の

標本なども飾られている。

 ここが彼の部屋だ。


 ルーゼニア王からの直々の頼みを、ルージェタニア

の王に伝えなくて良いのか、という疑問があるが、

大賢人は王の相談役や各分野のコンサルタントを

引き受けている。

 事前に話を聞いてもらい、権限が関わってくることは

王に都合してもらおう、というやり方のようである。


 ルージェタニアは、王族が権力を持っているものの、

全面的な統治支配はしておらず、妖人の一族が幾つも

集まり、1つの国として成り立っている側面がある。

 王が中心ではあるが、一族の(おさ)にも発言権はあり、

何かと横から口を挟める者が多いのだ。

 会社でたとえるなら、社長はいるがその下に、経営に

影響を与えるほどの派閥を持っている補佐役が何人も

いるようなものだろうか。

 ちなみに大賢人は、そういったしがらみとは関係の

ない、純然たる魔術師という存在である。


 とにかくどういった状況かを知ってもらう必要がある。

 5人はテーブルにつくと、ところどころでマキシが

細かく言い添えながら、ユウキが事の次第を伝えた。


 舞踏会襲撃と防御魔法の伝授、魔族の迷宮にあった

謎の呪文の解明、マキシの解除術会得の願いなどを。

 ガーロナは座らず、宙でそれを聞いていたが、

「なるほど、そのような凶事があったとは。魔族の

動きはこのところ活発だからのお。こちらでもどこか

ワケアリといった魔族の活動を耳にしておる」


 魔族が世界各地の遺跡に出没しているという。

 オルテックが過去の文明からテクノロジーを入手し、

マシン技術が発展したように、現文明よりも前に存在

していた文明が遺跡となって残っているのだ。

 現在魔法石は生活の中で有用されているが、古代にも

魔法石を様々な形で使った文明があったようだ。

 だが今は調べ尽くされ、盗掘者も立ち入らないような、

単なるモンスターの棲み処となっている。

 オルテックがある辺りには高度な魔法石技術が残って

いたようだが、他は歴史的価値すら低い遺跡ばかり、

というのが現世界での評価である。


 ガーロナは、そんな役立つものなどない場所に何故

魔族が跋扈(ばっこ)しているのか不思議だと語り、

「何かが動き出そうとしているのじゃろう。魔族の

侵攻が本格化する前触れなのかもしれん」

「そこで、襲撃を予告されたルーゼニアに是非とも

広域の防御魔法を授けてほしいのです」

「そうさのう。普通広域防御と言えば、最大でも

区画単位で効果を発揮するものじゃが。王都を丸々

保護するものは、特別なものになってくるのう」

 顎を撫でながら、ガーロナは考えている。

 ない、というわけではないようだ。


「魔法都市から離れた森に、1人で住む魔女がおる。

大賢人であり、生きる伝説でもある。魔法を独自に

開発するのが得意なのじゃ。その者であれば、多少

無茶な術でもそれなりの形には(こしら)えられるかのう。

魔法作成が好きなババでの。しかしどう考えても

規格外じゃから、不安定な魔法になりそうじゃが」


 ガーロナ様、とユウキが割るように尋ねた。

「賢人は未来視の術をマスターしていると、この

マキシから聞いたのですが、それで王都への襲撃

がいつなのか、分かったりしませんか? 魔族が

狙ってくるタイミングや場所が分かれば、護りも

やりやすいんです」

「未来視といっても、大雑把にしか分からんもの

じゃて。まあ、王族の中にわしよりも精度の高い

未来視の術を使うかたがおる。必要とあらば、

そちらに伺うとよいじゃろう。大賢人からの頼み

とあらば、嫌な顔はせんはずじゃ」

「ありがとうございます!」

 事前に護るべき場所が分かれば、戦闘員の配置も

最大効率で行えるというもの。

 特異な防御魔法に頼りきりでは、不確定要素が

付きまとうことになる。

 ユウキは未来視と聞き、斜め上を行く予防線を

考えていた。


「急ぎならば、二手に分かれるとええ。マキシと

メリッサはわしと大図書館に行くとしよう。そこで

魔族の術が何を意味するのか、ヒントがあるはずじゃ。

もう一方はお前さん達じゃ。魔女のところで、魔法を

こと細かく注文してくるとええ」

「その魔女はどこに? 遠いんですか?」

「心配せんでもええ。わしが今送ってやる」

 ガーロナは幼児のような小さな手を頭上で数回回す。

 するとそこから、光り輝く魔術の粒子がユウキ達に

向かって放たれ、

「あ!」

 と言う間に、彼等の姿は煙のように消えてしまった。



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