ルージェタニア
「何度見ても、不思議な光景だ」
ルージェタニアのアドベンチャーズギルドから
足を踏み出したユウキは、常々思っていた感想を
もらした。
魔法都市ルージェタニア。
文字通り、魔法の文化で成り立っている街であり、
都市と呼ばれるここが実質的な王都にあたる。
規模は小国の中でも特に小さいものではあるが、
蓄積された魔法の体系、魔術の記憶、記録された
歴史的資料の数々は他の追随を許さない。
建築や生活にも当たり前のように魔法が取り入れられ、
徒歩でこの街に辿り着いた場合、中に入るためには外に
設置された簡易転送魔法陣を使うことになる。
他にも都を護るように設置された塀はルーゼニア王都
のものより質素に見えるが、防御魔法が施されており、
並以上の魔物でも簡単には入ってはこられない。
このような国ができたのは、国民と王族の祖が先天的に
高い魔力を持つ妖人だからである。
現在も住人の8割強は妖人が占めている。
病的なほど白い肌を持ち、細身の彼等が住むこの街は、
建造物の造り自体は他国とそれほど変わらない。
石であったり、木であったり、レンガであったりと
ベースとなる材料は同じである。
だがふんだんに魔法が使われており、外から見ると
小さな家も中に入ると大豪邸のように広かったり、
塔などにはエレベーターやエスカレーター、転送魔法陣が
ほとんど常備されていると言ってもいい。
家屋が少し歪んで見えるような建て方をされているが、
それはこの国独自の建造文化の表れである。
土地や大気、国を形作る大部分が高い魔力を含んでいて、
街を流れる川や植えられた木々からは、水や木が持つ
精気が細かな粒子となり、柔らかく光るホタルのように
浮かび上がっては消えを繰り返している。
その様子は何ともファンタスティックで、幻想的な要素
の多いこの世界でも特筆ものの光景だ。
ふわりふわりと、風に乗るシャボン玉のように行き交う
魔力の粒子をユウキは眺めていた。
リュウド、アキノ、そしてマキシとメリッサもしばらく
それらを見てから、ふと我に返る。
空気中の魔力濃度が高いせいか、久々にここを訪れると、
気持ちが落ち着きすぎてしまうことがあるようだ。
「手っ取り早く、城に向かおう。王様の手紙を出せば、
すぐ偉い人に繋いでくれるだろうから」
ユウキの提案に反対する者はいなかった。
各種魔法の研究所も大図書館も、城の敷地内にあり、
豊富な知識を持つ賢人の多くも城で役に就いている。
街中に魔法使いは多いが、と言うより市井に溢れているが
強力で特殊な魔法となると訳が違ってくる。
ユウキ達が望むのは、街1つを護れるような広域に亘る
防御魔法なのだから。
街の古書店にも、数多くの魔術書や巻物が置かれて
いるが、世界の歴史全てが紐解けると言われる大図書館には
遠く及ばない。
ユウキ達は都市の北にある、主塔がいくつも枝分かれした、
やはり独特なデザインの国王城に足を向けた。
擦れ違う者はほとんどローブを身に付けていた。
この国はフード付きのローブが普段着の位置にある。
街の中央の通りを進むのが城への最短ルートだ。
通りには由緒ある杖やリングなどを扱うブランドショップが
軒を連ねている。
ルージェタニアの産業の1つは魔法アイテムである。
近くでは杖の良い材料となる霊木が採れ、魔法石の採掘量も
多く、武具に魔法を錬りこむ技術も発達している。
魔法アイテムは量産品も多いが特注のワンオフ物も多い。
そのため、露店売りより名の通った各店舗で販売するのが
一般的であった。
しかし、低位の魔法石を加工した手軽なアクセサリーは
露店で売られていたりする。
冒険の装備というより、土産物感覚の装飾品の類だ。
「あっ」
アキノが露店で台に並べられていたペンダントを見て、
思わず足を止めた。
透き通った翡翠色の石に紐を通した簡素なものであるが、
手作り感のあるアクセサリーが好きなアキノは大変興味を
惹かれた。
値段も想像していたものの3割ほどで、むくむくと購買
意欲をかき立てられる。
手に取ってみようと思っていると、
「アキノ」
「あ、ユウキ、これ」
「今はそんな土産物なんか買ってる場合じゃないだろう。
俺達は一刻も早く情報を手に入れなきゃならないんだぞっ」
「……ごめん」
ユウキは頭を下げるアキノを見ずに、足早に先頭を切って
歩いて行ってしまう。
前のドレス選びの時とは状況が違うし、遊びで来てるわけ
じゃないのは自分でも分かってるけど。
もし本当に特別に見てくれてるんだったら、別にあんな
言い方しなくたっていいのに──。
ミナとの食事を思い出しながら、アキノはパーティーの
列に戻った。