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冒険者達の集い  作者: イトー
魔法の都ルージェタニア
154/173

出発

6/25に終盤の秘法石について、8/4にレインの行き先の関わる会話を加筆修正。

 

「迷宮でエネルギーが蓄えられてるって!?」

 2つのパーティーが準備を整え、拠点の玄関ホールで

出発の時を迎える中、マキシの仮説が伝えられた。

 突然のことにさすがのユウキも上ずってしまう。


「あくまで憶測です。ジェスターが、我々のおかげで

魔族側からの攻撃が可能になった、と受け取れる発言を

残していったことが気になりまして」

 マキシはメリッサと共にそこに至った根拠を語った。

 受けたダメージを別のエネルギーへと変換する魔法が

迷宮には仕掛けられていたのかもしれない、と。

 そういったスキルをプレイヤーは日常的に使っている

ため、その拡大版があったとしてもおかしくはない、と

ユウキやヨシュアは納得した。


「私もその話を聞いて、一時的に迷宮探索をストップ

するように指示を出しました。マキシの説が正しければ

迷宮の攻略は魔族に加担することになってしまうから。

すぐに伝令が届くよう、レインにはそちらへ向かって

もらうことになり、彼女は既に出発しました」

ミナは急いで連絡を出したが、まだ全てのパーティー

には行き届いていないらしい。

 レインはダンジョンにアタックをかけているパーティーの

休憩ポイントを順に回ってもらうことになった。


「魔族の魂胆が分かったわ。やっぱやり方が陰険よね」

 リーリンが魔力強化のメイクを施した目元に、苛立ちを

表した。

「こっちの行動を妨げるために、無視できないように

ダンジョン作って。そこに手を出せば相手の思う壺って

ことでしょ。最初から外側から大破壊魔法を使って、

跡形もなくなるくらいにぶっ潰しておきゃよかったのよ」

「魔術師職なんだから、ぶっきらぼうに考えんなよ。

そのダンジョンそのものをぶっ壊すダメージだって、

エネルギーに変換されかねないだろ」

 くろうが言った。

 軽口が多いが、実は頭は回るほうである。


「そうは言っても、あっちが仕掛けておいた釣り餌に

引っ掛かったようなもんでしょ。あったま来るわ!」

 賢者と同等ランクの術を使うリーリンだが、マキシと

比べると冷静さに欠けるふしがある。

 それもキャラであり、個性なのではあるが。



 ミナが場を収めるように、

「ともかく。迷宮の中で行われた戦闘、そこで生じた

ダメージや攻撃の威力が妨害魔法の装置にログとして

記録されていたのは確か。多分、マキシとメリッサさん

の憶測は当たっていると思うの」

 だから、と言葉を継ぐと、


「2つのパーティーには、王都の防衛手段に加えて、

その術についての手掛かりも探してきてもらいたいの」

「……そうだね。見極めなければ、僕達は足止めを

食らうことになる」

 ヨシュアが顎に手をやりながら、思慮深そうに言った。


「今後僕等が行動範囲を広げていくには迷宮を突破して

いかなきゃならない。でもそこに魔族の思惑が潜むなら、

新たな解決法を模索していかなければ」

「ヨシュアさんの言う通りだ。迷宮をクリアしなければ

ならない以上、はっきりさせておかないと」

 ユウキも同意した。

 敵の利になるようでは、何も考えずにすいすいと攻略

していく訳にもいかなくなる。


 ミナが頷いた。

「幸い、ルージェタニアには魔族が使った術の記録が

残されているでしょうし、古くから魔族討伐を行って

きたクラルヴァイン神国にも何か手掛かりはあるはず。

こちらも迷宮探索に出た者から、変わったところが

なかったか、聞き取りをしてみます」

 新たな任務を与えられ、ユウキとヨシュアが率いる

2つのパーティーは拠点を発った。




 アドベンチャーズギルドの転送魔法陣から、両の国への

転送は可能になっている。

 行き来するセッティングができるようになったのも、

プレイヤーが迷宮の妨害を取り去り続けた結果である。


 街中のギルドへの道すがら、ヨシュアが独り言を聞かせる

ようにユウキに言った。

「ルージェタニアとクラルヴァインは秘法石を管理している」

「ええ。ゲームのころ、見に行ったことがあります」

 秘法石とは魔力を持った石──石ではないのかもしれないが

その質感は美しい水晶のようなものである。

 地域によって呼び名は違うが、まず秘法石で統一されている。

 この世界を構成する、いくつもの元素を司る象徴であり、

その辺の魔法石などとは比べようのない魔力を秘めた

アイテムである。

 世界の誕生と共に在ったとも、神々からもたらされたとも

言われているが、その由来は定かではない。

 分かっているのは、秘法石から力を引き出せるのは

エルドラド人か異界人だけで、魔族には生かせない

ということ。

 非常識なまでの強力無比な魔力を秘めているため、

国や一部の集団が公的に、厳重に管理している代物だ。


 神秘に満ち溢れたものだがユウキは、

「超有名RPGに度々出てくる、皆知ってるアレみたいなもの」

 くらいの認識でいる。

 多くのプレイヤーもそうだろうと彼は思っている。

 イベントで名前が出てくる程度で、ゲーム上では縁遠いので

馴染みがないせいもある。

 とにかく世界の成り立ちに関わるようなアイテムなので、

プレイヤーも遠くから眺めたことはあっても、近寄って

間近で見たり、まして触ったりしたことは誰もなかった。



「僕は思うんだが、あれを借りられないだろうか」

「あれを借りる!? なぜですか?」

「国の防衛のため、魔族を倒すためにあの力を使いたいんだ」

正当ではあるが、唐突な意見にユウキは面食らう。


「……あれは国宝とか、もしくはそれ以上のものでしょう。

理由は真っ当でも個人で貸し借りのできるものじゃ」

「個人ではないよ。この国のために、国王の公認という

立場で正式に申し出るんだ」

「そうなると今度はギルドの、おねえちゃんの許可が必要に

なってくるんじゃないですか」

「ミナには、国王から公認をもらってから、何度かこの話を

持ちかけたことがある。彼女は理解を示してくれたよ」

 ユウキにとって初耳だった。

 のけ者にされたわけではないだろうが、関知しない所で

そんな話題が出ていたとは。


「寝返った者達と実際に戦った経験から、ヨシュアさんは、

ボスをも超える力を持つ奴等に確実に打ち勝つ力が必要だと

ミナさんに何度か訴えました。今まで、あまり現実的な話では

なかったので表には出さずにいましたが」

 ユウキ達のパーティーの後ろを歩いていたマキシが、

補足するように言い添えた。


「2つの国に顔を出し、地位の高い方々と話をするだろう。

今回、僕はちょうどいい機会だと思ったんだ」

「話は分かりますけど。国のためだと言っても、それでも、

管理者側はおいそれと渡してくれるものじゃないと思いますよ」

「それは承知の上だ。でも国を護るため、襲撃を仕掛けてくる

あの男を倒すためにも、秘法石の力を使わなければならない時が

くると思うんだ」


 あの男。

 ジェスターが名を口にした、奴等のリーダー。

 ヨシュアとユウキには因縁深い相手だが、特にヨシュアは

強い敵意を持っているようだった。

 冒険者達の集いを再建しようとしたモチベーションも、

あの男の存在がかなりの割合を占めている。

 ユウキは穏やかなヨシュアが時折見せる、鬼気迫るとも

表現できそうな凄味を確かに感じ取っていた。


「僕は本気だよ。クラルヴァインの代表に提案してみるつもりだ」

「……分かりました。こちらもそれとなく話題にあげてみようと

思います」

 ユウキも本音を言えば、化け物じみた強さを持つ裏切り者達と

やりあうには今以上の力を持たねばならない、そう常々思っては

いる。

 ヨシュアの判断は大胆だが、越権に近いくらいの試みを

していかなければ魔族の打倒は難しいのかもしれない。

 ユウキは同意の意思があることを伝え、足を早めた。


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