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冒険者達の集い  作者: イトー
魔法の都ルージェタニア
152/173

マキシの疑問

 

 賢者マキシは会議室を出ると、拠点内にある

資料室へと移動した。

 ここには現在のギルドの戦力、総資産、所有する

アイテムの種類と個数、また遭遇したモンスターの

データやマッピングされた各迷宮の内部図などが

細やかに記録されている。

 隣の書庫にも呪文の書や各地方の法律、歴史的文献が

多数収められているので、小さめの図書館とでも

呼ぶほうがしっくり来るかもしれない。

 

 

 プレイヤーが集めてきた情報の整理の大半はマキシが

行っている。

 地味な事務仕事と言えるかもしれないが、几帳面な

性格の彼だからこそ捌き切れていると言えるだろう。

 何より彼自身、データを元にギルドの今後について

あれこれ考察していく時間が好きなのだ。

 

「お呼びしてしまい、申し訳ありません」

 ファイルをテーブルに開きながら、マキシは言った。

「妨害術の疑問点について、どうしても再度確認を

しておきたかったので」

「いえ、私も気になっていましたので」

 彼とテーブルを挟んで座ったのはメリッサ。

 彼女が収集してくる、妨害術発生装置にセットされて

いた呪文効果をマキシは逐一記録していた。

 開かれたファイルは、それを記したものである。

 

「妨害術には気候に作用したり、潮の流れや波の高さを

操作するものがあったと。それらは妨害の意図があると

分かります。ですが、モンスターが受けたダメージを

測定するための呪文とは。僕にはこれが分からない」

「私はいくつか憶測を立てましたが、何のためにセット

されていたのかまでは定かではありません。ですが、

他の迷宮の装置にもほぼ同じものがセッティングされて

いたそうで」

 以前ルージェタニアから呼んだ魔術師達も、解除の際に

それらしい術の記述があるのを読み取ったらしい。

 彼等にも、その意図までは理解が及ばなかったそうだ。


「貴女の憶測とはどんなものですか?」

「多分ですが、変換の術の類、ではないかと」

「変換系ですか。なるほど」

 

 プレイヤーにはコンバート系とも言われる、敵から受けた

ダメージを自分のプラスになる形に換える術である。

 例を挙げれば、ダメージを受けるほど威力の上がる魔法や

減少したHPの分だけMPが回復するスキルなどがある。

 攻撃を受けるとその場でやり返すカウンター系のスキル

とは似て非なるものだ。

 

 マキシは、ダンジョンにいる雑魚モンスターが受けた

総ダメージで最深部にいるボスの強さが変わる、という

イベントを経験したことがある。

 そのために設置された魔術なのか、と結論付けかける。

 だが、今回の迷宮の探索にあたり、最深部には発生装置を

守るガーディアン的なモンスターが配置されていることが

多々あったそうだが、それらの戦闘力が総ダメージによって

変わったかどうかなど分かるはずがない。

 とりあえず、マキシはボスモンスターに関わる部分だけは

否定する。

 そんな面倒な手間をかけて妨害術解除を妨げるくらいなら、

最初から魔族に寝返ったプレイヤーに守らせればいいのだ。

 

 ボスの強化でないなら、何のためのダメージ測定か。

 こちらの戦力を確かめるため、とは考えにくい。

 寝返ったものの中には、現在味方であるプレイヤーと以前は

懇意にしていたものもいる。

 マキシの友人であった、ジェスターがそうだ。

 彼等なら測定などで調べずとも、戦力や個々のステータス

まで分かっているだろう。

 最初から筒抜けである。

 

 モンスターが受けたダメージを何らかの力に変換している。

 そう考えるのが、コンバート系の効果として普通かもしれない。

 だとすると、各迷宮内で戦闘によって生じたエネルギーは

何のために使われようとしているのか。

 

 マキシは腕組みをして、熟考に入っている。

 賢者の力とは、蓄えたその知恵にある。

 何か結びつくようなことはないかと思考をめぐらせていると、

ふとジェスターの台詞が甦った。

 

(手はずは整った、君等のおかげ)

 彼の言う手はずとは、王都襲撃への手段・方法であろう。

 では、君等のおかげ、とはなんだ。

 ギルドは魔族の利になる行いなどしてはいない。

 現在の魔族との接点と言えば、魔族が作った(くだん)の迷宮を

ギルドのメンバーが次々に突破しているくらいだ。

 

 マキシの思考は更に深く、そして加速する。

 突破、つまり攻略している。

 攻略すれば同行した魔術師が妨害術発生装置を解除する。

 そしてそこにはいつも、変換系と思われる、戦闘において

いかなるダメージが発生したかを測定する術のログがあるという。

 

 この流れを要約すると。

 迷宮を攻略すればするほど、魔族側に何らかのエネルギーが

供給蓄積されているということであろうか。

 

 ジェスターは大規模で襲撃することを匂わせていた。

 だがモンスターの大群が突如として王都を取り囲むことなど

ありえない。

 プレイヤーと同じで、転送魔法陣がなければ、歩くなり

飛んでくるなりしなければ遠方からの大移動などできない。

 

「転送魔法陣か」

 変換系の術の話から飛躍したマキシの言葉に、メリッサは

首をかしげた。


 そもそもワープシステムのような転送魔法陣とは、どのように

作られるのか。

 まず物体を転送する魔術を特定の場所に打ち込み、土地に術が

馴染んで座標が固定されるまで、数人の魔術師が交代しながら

呪文詠唱を続けるという。

 座標の安定には、絶えず魔力を送り込まなければならない。

 杭打ちでもするように、一定量の魔力で転送魔法の位置座標を

地中へと打ち込んでいき、その場を特殊な魔法のフィールドへと

変化 させることで、転送魔法陣が完成する。


 まさか、と心の中で10回ほど唱えてから、マキシはある推論に

達した。

 まさか迷宮でチャージしたエネルギーで、即席の転送魔法陣を

作り出そうとでもいうのか。

 だがそんな魔法、聞いたことがない。

 ごく小さな、しかも短距離しか移動できない簡易な転送魔法陣なら、

1時間ほどで作られたことがあると何かの記録で目にしたことはあるが。

 

 マキシはメリッサに自分の立てた推論を伝えた。

 聞いた彼女の顔色は芳しくないものに変わっていく。

 そして彼女は、冷静に努めて返答した。

「絶対にない、とは言い切れません。どちらかと言えば、魔族の

ほうが転送魔法の分野は発達していると聞いたことがあります。

ルージェタニアにある大図書館には、魔族が古来より使ってきた

術の記録も数多く残っています。もし、マキシさんの予想が的中

するものであったとしたら、猶予はありません。早く大図書館で

対処法を探さなくてはっ」

 

 マキシは頷いた。

 あくまで憶測の上に憶測を重ねた結果ではあるが、迷宮の攻略が

逆に魔族の助けとなっている可能性がある。

 確定的な情報を得られるまで、各迷宮に挑戦している攻略隊に

一時中止の指示を出さなくては。

 几帳面にファイルを元の棚に戻すと、マキシはメリッサと共に

部屋を出た。


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