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冒険者達の集い  作者: イトー
魔法の都ルージェタニア
150/173

新たな地へ

 

 国王が昨日のことで話したいことがある。

 朝食と昼食の中間の時間帯に訪れた王の使者から、

そのように伝えられた晩餐会の参加メンバーは、

すぐ礼服に着替えて、準備してもらった馬車へ乗った。



 ユウキは車窓から街並みを眺めた。

 雲が悠々と流れ、日差しは温かい。

 和やかな街の様子を見る限り、昨晩の一件は

広まっていないようだ。


「あの、ユウキ」

 昨夜と同じく、同乗しているアキノが口を開いた。

「昨日の帰ってからの会議で、声を荒げちゃって

ごめんなさい」

「ん、ああ。どうもしないよ。勇敢に戦った人を

貶すような言い方した俺が悪かったし」

「……そう。うん」


 あの時はほぼ無意識だったが、あれから自分で

発言の意図を考えて、ユウキは自分が情けなく

なった。

 言うなれば、アキノをダンスに誘ったことを

半ば逆恨みし、王子の敗北に対して、ここぞと

きつい言葉を選んでいたようなものなのだから。

 これじゃあ小学生の陰口と変わらないな、と

ユウキは反省していた。


 一方アキノは、王子が悪く言われたことに対し、

ムキになってしまった自分に驚いていた。

 それほど短期間で意識するようになっていたのかと。

 疑問に思う反面、気にするのも当然かとも思った。

 ほとんど面識がない相手に、プロポーズされれば

意識しないほうがおかしいだろう。

 しかも相手は後々一国の王となる男性なのだ。


 2人の空気が妙にかみ合わない中、馬車は跳ね橋を

渡って城内へと入っていった。





「昨晩は苦労をかけたな」

 労いながら謁見の間に姿を現したのは、国王と

防衛大臣だけだった。

 国王は顔色も良く、心身ともに万全のようだ。


「騒動は広がらず、収束しつつあるようですね」

 ミナの言葉に国王は頷く。


「昨日の招待客も全て無事に返した。今のところ、

あの騒ぎは外に漏れてはいないようだ」

「本日のご用件は、今後について、ですね」

「その通りだ。昨晩の出来事を民に隠せたからと

いって、それでは何の解決にもならん。手を(こまね)いて

いるわけにはいかんのだ」


 国王はそう言って防衛大臣と一言二言交わし、

「わしはライザロス帝国と同盟を組みたいと

考えている」

「同盟、軍事力の強化を図るおつもりですね」

 マキシが妥当であろう理由を述べた。


「それもある。だが向こうも、自国の防衛で

手一杯だと聞く。帝国に対し、今までは支援

のみだったが、同盟によって互いがより綿密な

協力態勢を取れるのではないかと思ってな」

 状況に応じて、戦力を融通し合えるように

したいと国王は考えているのだろう。


 魔族は本拠地以外にも、魔術を用いた移動用

ゲートを各地の砦やダンジョン内に持っていて、

小規模であれば遠距離移動が可能だ。

 このルーゼニア王国が狙われると分かった以上、

ライザロスとしても目の前の敵だけを見ている

わけにもいかなくなるはずだ。


 万が一、ルーゼニア王国が陥落しようものなら、

周囲の国は魔族の領地と自国が隣接することに

なってしまう。

 そうなれば、特にライザロスは前と後ろの両方に

目をつけて戦わなくてはならなくなる。

 国王の狙いはそれを外交の焦点にし、フォローを

し合える同盟関係を築こうというものなのだろう。


「同盟を頼むにあたり、ライザロスに今回の騒動を

伝えた上で、1つ会食の席を設けたいと考えた」

 王族というものは会食やパーティーが好きなのだ。

 しかしそれは遊興としてではない。

 昨晩の晩餐会がそうだったように、1つの会を通して

コミュニケーションを取ることが目的だ。


「まだ決まったわけではないが、その席が決まれば、

そなたらにも出席してもらいたい」

「ライザロスにも、帝国に協力しているギルドが

あると耳にしたことがございます」

 ミナの発言は、出席を望む王の真意を読んだものだ。


「だからだ。向こうにも、そのギルドの関係者を

是非同席させてほしいと頼むつもりでいる。魔族と

戦う異界人同士、通じ合うものもあろう」

 要は上手く繋ぎになってくれということだ。

 帝国側のギルドとみんなの会に共感が生まれれば、

防衛目的の同盟も自然と組みやすくなるだろう。

 ミナとしても願ってもない機会であると言えた。


「これを機に、他のいくつかの国とも同盟を結んで

おきたいと思う。そなたらにはなるべく政治への

介入はさせたくなかったが、公認された組織として、

すまないが協力してもらいたい」

 国王の頼みに、謁見の間に立つ8人は深々と礼をした。

 公認ギルドとは公認という特権を得ていると同時に、

国のため最大限に尽力しなければならない。

 それだけ『公認』が持つ力と責任は重いのである。


「同盟の詳細などはまた後日になるとして。今回

そなたらを呼んだのは、魔法都市ルージェタニアと

クラルヴァイン神国に(おもむ)いてもらいたいからだ」


 ルージェタニアは魔法の都で、その都市部を中心にした

小国である。

 文字通り魔法、魔術の類が発達しており、そこでしか

学べない術、新たな魔法の開発、魔法に関係する武具や

アイテムのクオリティでは他国よりもかなり先進的である。

 また歴史的資料も残っており、知識豊富な賢人も多い。

 出入りは自由だが、その資料を読んだり、賢人に会うのは

それなりの理由やコネが必要だ。


「この2つの国には、どのような用件で?」

 ユウキが聞いた。

 彼の中で答えは、ある程度は予想できている。


 防御魔法を調べてきてほしい。

 と国王はユウキの予想とそう(たが)わぬ返答をした。


「両方の国で日夜、新たな術の開発が行われているのは

知っていると思う。わしは少し前に、街単位で守れる、

広範囲の防御魔法が完成しつつあると聞いたことがある」

「街単位ですか。たとえば、王都全体を包み込むような」

 ミナは昨晩、招待客達にかけていた防御魔法を思い出し

ながら国王に尋ねた。

 数十人を守る昨日の魔法、それの最上位であろうか。


「詳しいことは分からぬ。ただ、いついかなる状況で

魔族供が襲撃をかけてくるやもしれぬ中、そういった

法術は大変頼りになるであろう。国の代表への手紙は

既に書き上げておる。それを持って、準備ができ次第、

向かってほしいのだ」

「はい。承知いたしました」

 ミナは王族の印で封のされた手紙を大臣から手渡された。



「あ、あの、国王陛下。レオン王子の容態はいかが

ですか……?」

 昨晩、回復を施したアキノが思い切ったように聞いた。

 傷は深かったが、治癒は上手くいったはず。

 ならなぜ、この場に顔を出しに来ないのだろうか。


「おお、息子が世話になったな。今日は大事を取って

床に()せてはいるが、明日からまた騎士の修練に

励むと気を吐いておったぞ」

「そうですか。よろしければ、無理だけはしないで

ほしいとお伝えいただければ」

 アキノがほっと胸を撫で下ろす姿にミナは何かを察した。

 王より新たな役目を与えられ、謁見は終了となった。



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