表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
149/173

夜は更けて

5/16AM5:00追記完了しました。

 

 夜更け──。

『みんなの会』ギルド拠点の応接間にユウキ達はいた。

 晩餐会に参加した8名は既に、各々ラフな私服へと

着替えている。

 あの悪夢のような、いや下手な悪夢のほうがマシな、

例の騒動からまだ数時間しか経っていない。




 ジェスターが空間の狭間に姿を消すと、舞踏会場の

内壁を覆っていた魔法が解け、招待客は自由に外へ

逃げ出せるようになった。

 だが部屋を出たものはいなかった。


 招待客の大半はジェスターの操るモンスターに酷く

ショックを受けていたのだ。

 足腰に力が入らなかったり、気分が悪くなって

全く動けなくなってしまったものもいた。


 それも仕方のないことだろう。

 鳥獣の類のモンスターくらいしか見たことのない

ものが、突然光線を吐き散らす怪物を目の当たりに

したのだから。


 気丈でモンスターにも動じない国王ではあったが、

宮殿での特別な催しに魔族の侵入を許してしまった

不甲斐なさと己の認識の甘さを、招待客たちに詫びた。

 そしてユウキ達に彼等の介抱を頼んだ。


 ミナ、エルザ、マキシは後から駆け付けた回復魔法を

使えるプレイヤー達と共に、招待客のケアに努めた。

 恐怖心により混乱した心は、精神ステータス異常を

回復する魔法で安定状態を保つことができる。


「そなたらの助力、本当に助かる。もしもそなたらが

晩餐会に出席しておらなかったら、わしや他の者達が

どうなっていたことか」

 国王がやわらかな光で招待客を癒すミナに言った。

「魔族からのメッセンジャー、もう少し上手く撃退

できれば良かったのですが」

「いや、よくやってくれた。舞踏会場に被害は出たが、

仕方あるまい。ところで、仲間を呼び寄せたようだが、

城の外にもかなりの人数が集まってきているのか?」

「いえ。大勢で行動させると、王都民に宮殿内で

トラブルが起こったと悟られてしまうかと思い、

目立たぬよう少数で動いてほしいと命じました」


 国王はこれを聞き、我が意を得た表情になる。

 異界人が城の周りでまとまって動いていれば、

何かあったのではないかと王都の民を不安にさせる。


 国王としては、ここで一体何が起こったのかを

民に悟られるわけにはいかないのだ。

 どっしりと構えた城の敷地内に、敵対者である

魔族の侵入を許してしまい、名誉騎士と守りの

要とされる騎士団の長が成す術も無く倒されて

しまった。


 前代未聞である。

 生活環境に魔族が現れ、自分達を守ってくれる

はずの頼もしい騎士が一方的にやられる。

 王都で暮らす者達にそれを知られるということは、

か弱い彼等を絶望の淵に叩き落すことになる。

 王はミナの気遣いに感謝した。


「しかし、魔族側についた異界人があれほどまでの

威容を放つ存在だとは」

「私供が交戦したのは彼で2人目です。ご覧のように、

想像を遥かに超えた戦闘力を備えているらしく」

 あれが魔族の力か、と王は目を険しく細める。

「わしは魔族を、どこか遠方の世界にいる敵だと。

たとえ攻め込まれようといくらでも対抗のしようが

ある相手だと。そのように甘く見ていたようだ」


 眉間に刻まれたしわから、彼の自責の念が窺える。

「あのようなものが我が国を攻めると宣言したのだ。

今すぐにでも会議を開き、早急に対抗策を練らねば

ならん。協力してもらえるな」

「当然です、陛下。ですが」

 ミナは王に視線を向けさせるように、周囲を見る。

 ある者は怯え、またある者はショックのあまり床に

座り込んでいる。


「状況が状況です。まずは招待客の皆様を十分に

介抱して、無事を確認してからでないと。それに、

陛下も1度お休みください。瘴気を放つ魔族は、

目にしただけでも心身を衰弱させます」

「む、むう」

「父上」

 そこに第二王子のルーシュが駆けてきた。


「母上が、気分が優れないと」

「……そうか」

「兄上とゲオルグ殿の治療は順調のようですが、

母上と同じように不調を訴える方々も多く」

 母親似で柔らかな顔付きが悲しげに歪んでいる。


「……分かった。動ける者は別の客室で休養を

とってもらい、そうでない者はここで十分回復

させてから様子を見るようにせよ。治療の手が

足りぬなら王宮魔術師も動員して構わん」

 ルーシュは指示を受けると、すぐ数人の大臣へと

伝え、ただちに伝令は実行へと移された。


「わしも落ち着いたらいくらか休ませてもらう。

妻の不調に気付けぬとは、わしもこの騒動の中で

冷静さを欠いているのやもしれん」

「ご無理をなさらず。皆様の治療は私供にお任せ

ください」



 こうしてミナ達は招待客の回復の大部分に携わった。

 戦いの中で治療を行ってきたプレイヤーの回復法は

実践的で、王宮お抱えの医師や魔術師よりも効率的に

活動を行えた。

 ユウキ達が帰ってもよいと伝えられたのは、ちょうど

別館から来た従者やメイド達が、荒れ果てた舞踏会場の

瓦礫を片付け始めた頃だった。





 ギルドの拠点に戻り、とりあえず着替えを済ませた

ユウキ達は応接間でようやく一息ついた。

 舌鼓を打ったお上品な料理など、激しいバトルの

中でとうの昔に消化され、体には疲労感と空腹感が

顔を見せ始めている。


 本来なら簡単な反省会をして今晩は休む予定だったが、

不測の事態にそうもいかなくなった。

 少なくとも現状と今後を把握しておかなければならない。



 拠点付きメイドのアメリアが、テーブルを囲む8人の前に

お茶を淹れて来た。

 ノンカフェインでリラックス効果のある、薬師が調合した

特別なハーブティーだ。

 気を利かせた彼女のチョイスである。


 各々が無言でカップを傾けていると、マキシが切り出す。

「王族や領主との交流の場となるはずであった晩餐会が、

このような結果になったことは極めて残念です。が、我々

ギルドはこの件について冷静に対処しなければなりません」


「この騒ぎで、魔族があっさり城に入ってきたことが

一般人に広まっちゃうんじゃない? 大丈夫?」

 レインが両手でカップを持ちながら言った。


「国王があの場にいた関係者全てに緘口令を出しました」

「かんこうれい? ああ、絶対に口外法度ってことね。

でもマキシ、あの魔法の爆発は怪しまれたりしないの?」

 壁をぶち抜き、宮殿の庭園までをも衝撃で抉ってしまった

破壊魔法マグナマギカのことだ。


 当人ではなく、ミナが代わりに答える。

「パーティーの出し物として、魔法仕掛けの打ち上げ花火が

使われることが頻繁にあったんですって。閃光と爆発音は

相当なもので、多分ごまかせるでしょうって」


 この魔法の件も含めて、緘口令は領主のほか、従者や給仕役

1人1人にも厳しく言い渡されたらしい。

 些細な情報であっても、決して広まってはならない。


 街の中というのは、特殊なイベントでも起こらない限り、

モンスターが入り込むことはないと考えられている。

 それは長年ゲームをプレイしてきたプレイヤーには常識で、

王都に住む者達にとってもまた然りである。


 今夜、その常識が覆されたのだ。

 堅牢な外壁に守られた王都に苦も無く魔物が入り込んだ。

 しかもその気があれば大量虐殺も容易い魔族がだ。


「しかし、最悪なタイミングでメッセージを送られた

ものだな。わざわざギルドの晴れの舞台に」

 飲み干したカップを置いて、リュウドが言った。

「公認ギルドを大勢に披露する意味合いのあった場所で、

あんな騒ぎを起こされたのではな」


「俺達の印象より、魔族側のアピールが大きすぎる」

ユウキが愚痴るように言い、続ける。

「目立つように現れて、あの場を乱せるだけ乱して

いったからな。奴の言う通り、忘れられない晩餐会に

なったわけだ」


 周りは大変な脅威に感じたでしょう、とエルザが継ぐ。

「私達、異界人なら対等に戦える。でもそれは異界人

でなければ戦えないということ。それを知った領主が

どんな気持ちで領地に戻るのかと思うと」

 領主は個々に土地を守るだけの兵力を持っているが、

それが役に立たないことを目に焼き付けられたのだ。


「魔族は人の弱みを握るのがホントに上手だもの」

 ミナが皮肉るように言ってから声色を低くし、

「お前の兵は無力だ、だが自分達に従えば命だけは

助けてやるぞ。……なんて脅迫されたら、魔族に頭を

下げる領主が出てこないとも言い切れないでしょう」


 だろうなあ、とユウキが仕方なさそうに同意する。

「衛兵どころか名誉騎士は倒され、騎士団長の王子

でさえ、ギッタギタのあんなザマだったんだから」

「ユウキ、そんな言い方はないでしょう!?」

 怒声にも近い声を上げたのは、アキノだった。


「あのジェスターに剣1本で勇敢に立ち向かって

いったのよ? 確かにやられてはしまったけれど、

それをあんなザマだなんてっ」

「……いや、その悪気があったわけじゃないんだ。

馬鹿にするとか、そういう意味は全然ないから」


 ユウキに悪気はなかった。

 だが彼は無意識にトゲのある言葉を選んでしまった。

 それはアキノが王子からダンスに誘われたことに

起因しているのは、言うまでもなかった。


 場を仕切り直すように、ヨシュアが口を開く。

「問題は並の兵力では歯が立たない相手が、今度は

数を揃えて襲撃すると予告してきたことだ。僕等は

できる限り、奴等の攻撃に備えなければいけない」

 聖騎士である彼は常に理性的で冷静だ。


 しかしユウキはヨシュアが冷静を装っていることに

気付いていた。

 原因はジェスターが言い残したリーダーの名。

 ───カイム。

 奴が言うようにその因縁は、冒険者達の集いに身を

置いていた2人にとって、何よりも深い。


 ミナもその冷静沈着さの裏にある怒気を察したのか、

極めて淡々と予定を述べる。

「みんなの会として、油断してはならない事態です。

王都防衛策の立案は勿論、襲撃に関わりそうな情報は

どんな細かいものも集めて分析していくつもりです。

あの襲撃予告は決して、つまらない脅しやブラフでは

ないはずですから」


 心地よい緊張感で始まった楽しいパーティーの日は、

この不愉快でただならない緊張感で幕を閉じた。


 その翌日、彼等のもとに城からの使者が訪れた。


 リアルでは舞踏会とは縁がない人達だったプレイヤーが、舞踏会で緊張したりするお話でした。


 意識して敵の襲撃を入れたわけではなかったのですが、ファンタジーやラノベでは宴会やパーティーでの襲撃率が高いと後になって聞きました。


 楽しい空気をぶち壊して悪者が登場、は確かに盛り上がりがあります。

 これから主人公達は裏切り者との戦い、国の防衛に向けて動く予定です。

 何か感想がありましたら、どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ