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冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
147/173

マキシの策

 

「ミラージュ・ストライド」

 レインがつま先だけで音もなく歩き始めると、

彼女の姿がぼんやりその場に残るようになる。

 いくつも漂う分身を実体だと誤認したのか、

触手砲がそちらを狙い始める。


「アルタークローニング」

 マキシが呪文を唱えると、コピペされたように

彼の体が三つに増える。

 そしてやはり触手砲は、狙いを定められずに

曖昧な射撃をし始める。


「ミラーコード」

 エルザが自身とヨシュアに術をかける。

「アナザーペルソナ」

 ユウキは自らに特殊技を使った。

「分身剣・参」

 リュウドは腰を落とした構えからサムライの

スキルを使用する。


「ほう、かく乱しようって腹だね」

 ジェスターは小首をかしげ、顎を指で摘む。

 彼のダブルヘッドドレイク(今の首は3本だが)の

前には、20体以上のターゲットが現れていた。


 ユウキ達が使ったのは、どれも自身の分身を

作り出し、相手の攻撃を意図的に誘導させる

スキルばかりだ。


 各々が分身と共に動き出す。

 それは一種の不気味さを持つ()だった。

 なにしろ、同じ姿形をした者達がバラバラに

動き出しているのだから。


「なかなか面白い光景だけど、なんとなーく

やりたいことは分かるよ。こいつを僕1人で

操縦してるのはとっくに見抜いているよね。

だから大人数でワイワイガヤガヤと騒げば

対処しきれなくなるだろうと」

 ジェスターは顎をかく。

 気取られるのはマキシの想定の範囲内だ。

 しかし。


「かく乱を狙ったんだろうけど、僕だって

動くものを捕捉することくらいはできる!」

 ドレイクの首がブラスターを発射した。

 ユウキ、の分身が次に動くであろう場所へ

向けて偏差射撃が行われた。

 予想は的中し、自分から射線に吸い込まれる

ように動いた分身は、光線で霧散した。


「アナザーペルソナ」

 モンスターの特殊技を再度使い、ユウキは

消えた分の分身を補充する。


「ははは、こりゃあモグラ叩きだな。よし、

どれだけ当てられるか試してやるか」

 ジェスターは乗り気で連続攻撃を仕掛ける。

 ブラスターに射られた分身は消え去るのだが、

それを逃れたリュウドの分身、そして本人と

変わらぬ機敏さを発揮し始めたレインの分身が

ドレイクの本体に斬りかかった。


 ズブァ! と粘着質のボディに白刃が通り抜け、

僅かにだがダメージが入る。

 続いてヨシュアの分身が突撃して突きを放ち、

増えたマキシとユウキはそれぞれが別の呪文で

ドレイクを攻撃し始めた。

 攻撃力は本体より劣化しているが、それでも

ダメージは少しずつ蓄積される。

 同じ顔が大勢入り乱れる、大乱戦の始まりである。





「……俺も、戦わねば」

 はらわたから搾り出すように、レオンが言った。

 従者によって仰向けに寝かされた彼は、礼服の前を

はだけ、赤黒くなった胸の傷をあらわにしている。


「今は無理しないでください」

 その傷に回復魔法を施しながらアキノが忠告した。

 徐々に治癒は進んでいるが、内臓と肋骨に相当な

ダメージがいっている。

 騎士として鍛錬していたからこれで済んだものの、

並の人間なら致命傷だったはずだ。


「情けない。騎士でありながら、この無様が」

 レオンは力なく握り拳を作る。

 攻撃を受けた際、剣をどこかへ放り投げてしまい、

その弱った姿は無力そのものだった。


「情けなくなんてありません。あなたは私達でも

恐れるあの男に、騎士として王子として勇猛果敢に

挑んだではありませんか。一体何を恥じることが

ありますか」

「……そう言ってくれるか」


 レオンは体に痛みはあっても、救われた気分に

なった。

 彼は自分の背負う立場として当然の行動を取った

だけで、決して評価を求めたわけではない。

 だが力及ばずの敗戦を、勇敢だったと励まして

くれるものがそばにいてくれたことが何よりも

嬉しかった。


 その治療の場にズルズルと近寄ってくるものが

あった。

 最初にユウキ達を襲い、返り討ちにされた黒い

柱の一部である。

 かなり小さくなり、1メートルほどであろうか。

 こちらは自律しているのか、ドレイクが主力に

なってからは、残りはただウロウロしていた。



 それが手負いの獲物を見つけたように、王子の

もとへと這いずってきたのだ。

「うわ、化け物が!」

 従者の1人がぺたんと尻餅をついた。

 スライム状だが速度は人の歩行速度と変わらない。


 従者には武に長けたつわものはおらず、王子も

身動きの取れない状態にある。

 ユウキ達はドレイクとの戦いに集中しており、

こちらには気付けていないようだ。


「ここは私が」

 アキノは回復魔法を一時中断すると、スッと

立ち上がり、すぐそばに落ちていた衛兵の槍を

掴んだ。


 声には出さなかったが従者達は誰もが、えっ、

という顔を作った。

 彼等は異界人は強いと常識として知っているし、

筋骨隆々な戦士が巨大な魔物を叩きのめした

という武勇伝も聞いたことがある。

 だが目の前にいるのは、王子を介抱し、先ほど

彼にダンスの相手を求められた麗しい女性である。


 心配そうな彼等をよそにアキノは、左手を逆手、

右を順手にして槍を体の右に構える。

 愛用のロッドを使うときと同じ体勢だ。


 敵意を感じ取ったスライムは、素早く移動すると、

猫科の肉食獣を思わせる形状をとって、アキノに

飛びかかった。


「やぁ!」

 気迫のこもった鋭い突きが、虎めいた粘着物質の

頭部を貫いた。

 ただの金属武器の物理攻撃なら、ダメージは吸収

されて終わりだろう。

 だが打ち込まれた槍の穂先は青白く光っており、

それが属性を持った一撃であることを示している。

 スライムは霧散し、完全に消滅した。

 従者達から、おお、と二重の意味で声が上がる。


 物怖じしない意志の強さ、魔物にも怯まない勇敢さ、

それでいて内に大いなる優しさを持っている。

 やはり自分の思っていた通りの女性だ。

 レオンは肘で体を起こしながら、アキノを見ていた。




 一方、ドレイクとユウキ達の戦いは続いている。

「スペルブレイク!」

 攻撃を分身へと逸らしながら、エルザが魔法を唱えた。

 妨害魔法の効果を打ち消す魔法だが、魔力で作られた

魔法生物にはダメージ判定が発生する。

 ドレイクの右前足が振動し、バシャンと音を立てて

破裂する。

 しかし、ものの数秒で新たな足が生えてきた。


 プレイヤー達は順調に攻勢を進めている。

 ブラスターでの迎撃を凌ぎながら、次々攻撃をヒット

させている。

 ごく快調に当たってはいる、当たっては。


 だが魔力を注ぎ続けられるドレイクの復元力は異常で、

やつを攻撃し続ける様は、滾々(こんこん)と湧き出る泉の水を

柄杓(ひしゃく)で掬い続けているかのようである。

 やはり、もとを叩かねば埒が明かない。

 それは作戦を立てたマキシも当然分かっており、この

攻勢のゴールはそこなのだ。


 ジェスターはドレイクのブラスターで迎撃し続ける。

 本体だろうと分身だろうと、動くものには片っ端から

光線を放っている。

 彼の心は敵意や殺意というより、飛ぶ昆虫に無垢に

虫取り網を振るう子供の純粋な心境に近い。

 破壊行動が楽しくて仕方がないのだ。


 その面白おかしく攻撃し続ける中、ジェスターの

意識にほんの僅かな隙が生じた。

 多くの標的を狙っていれば、全ての動きを完璧に

捕捉していられるわけがない。

 その、意識を別のターゲットへと切り替える、

ほんの数瞬の隙。


 迎撃の途絶えの中を疾駆し、ドレイクの裏にいる

彼に体ごとぶつかっていったものがいた。

 大勢の分身から飛び出たその姿は、リュウドだ。


「たあぁ!」

 ザッと、右手の剣から突きが繰り出される。

 突撃をある程度予測していたように、ジェスターは

左手の掌を前に出した。

 しかしそれは防御として機能せず、剣は掌を貫き、

彼の胸から背中へと突き抜けた。


 ふふふ、とジェスターは笑う。

「そろそろ来る頃だろうと思っていたよ。ワラワラと

コピーを増やしてかく乱し、本命で僕を狙うって作戦

だったんだろう?」

「……」

 剣が貫通しながら、ドレイクへの指示は途絶えていない。


「狙いは良かったけどね。せっかくだから教えておくよ。

僕の体は魔力で大部分が魔法生物化している。さっきの

首が取れたのを見てただろう? あのくらいの傷なんて

ダメージのうちに入らないのさ。今のコレもね」


「やはりそうか。剣のような物理攻撃では」

「ああそうさ。こんなのは虫刺されみたいなもんだよ。

しっかし、なんだいこの弱々しい突きは。へっぴり腰で

まるで素人みたいな太刀筋じゃないか。君さあ、稽古を

サボってたんじゃないの?」

「稽古をサボる? いいや、それは違う。ジェスター、

剣の稽古なんて、僕はしたことがない」


「ん、僕!? まさか」

 ジェスターがマスク越しにリュウドの顔を凝視する。

 次の瞬間、リュウドの姿がモーフィングされたCGの

ように1秒とかからずマキシの姿に変わった。


「変化の術だ! 捕捉はできても、分身の人数までは

把握していなかったな!」

 熱を帯びた口調でマキシが言った。

 詠唱時間短縮スキルにより、既に彼の左手には強大な

魔力がチャージされている。


「ふふ、マキシ、これが君の狙いかい!?」

「そう、至近距離からの一点突破」

 左手がジェスターの胸元の前に突き出される。

 この距離、回避などまず不可能。


「マグナマギカ!」

 マキシの腕が閃光を放ち、魔力が解放された。



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