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冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
145/173

黒い魔物

 

 そそり立つ、巨大なスライム状の壁を前に、

招待客達は一斉に悲鳴を上げた。

 その存在は常識の破壊者であり、既に一般人の

理解の範疇を超えている。


 しかし、ユウキ達は(ひる)まなかった。

 幾千回にも及ぶダンジョン攻略の経験から、

巨体で異形のモンスターなど見慣れている。

 ただ能力に対しては警戒心を解かなかった。



「でかいだけで!」

 ユウキは特殊技・召雷撃を放った。

 掌から打ち出された雷属性のエネルギーは、

黒い壁に当たるが、僅かな放電現象を残して

雷は消滅してしまった。


「コールドランサー!」

 レインが剣をクロスさせて呪文を唱えると、

交差させた辺りから白銀の氷の槍が飛び出した。

 数本のつららのようなそれは命中はしたものの、

流動的な表面を一部凍結させただけに留まる。


「マグナフレイム!」

 続けざまにマキシが高速詠唱スキルを用いて、

上級魔法を瞬時に放つ。

 直径2メートルはある火球が空気を焦がしながら

壁に衝突するが、

「……属性魔法に耐性ができている」


 ぶつかった部位が黒く霧散するが、すぐに復元が

始まった。

 ジェスターの壁、滝のようなそれには、明確な

ダメージの跡は残っていない。


「大きくした分、魔法への防御力は上がっている。

なんてったって、丈夫さは何より大切だからね。

やっぱり、体力スタミナに勝る資本はないから」

「単なるゼリー菓子の化け物ではないようだ」

 波打つ壁に、リュウドは剣を構え直す。


「ゼリー菓子かあ、そりゃあ面白い表現だなあ。

見かたによっちゃ、グレープ味のゼリーだからね。

うん、でもこのままじゃ大きいってだけでこう、

迫力に欠けるなあ。折角だから、ギャラリーの

方々にも目で楽しんでもらわないといけない。

こういう時はサービス精神が旺盛になるよねえ」


 ジェスターが掌をかざすと、黒い壁はアメ細工の

ように、ぐねぐねと動いて別の形を取り始める。

 そして、間も無く現れたのは。



 双頭のドラゴンだった。

 鱗のある鈍重そうな体に2本の首が生えている。

 頭部には十数本の角を頂き、それ以上に異様さを

醸し出しているのは、蜘蛛の顔をモチーフにした

かのような複数の目玉だ。

 黒い体に紅玉のような目がらんらんと輝いている。


「ダブルヘッド・ドレイク! どうだい、この凶悪な

面構え。もういかにも悪役って感じだろう?」

 自慢のオモチャを誇るかのように、ジェスターは

その不気味なドラゴンを称えた。


 極まった異形さの魔物に、招待客の中には震えで

立っていられないものも出始めた。

 身の毛もよだつ恐怖、とはまさにこのことだ。


 この晩餐会に呼ばれるような身分のものが目にする

モンスターなど、野原などで見かける、ごく動物に

近いものがほとんど。

 粘着質の液体に物質化した魔力が、ドラゴンへと

変化したモンスターなど、悪夢そのものである。


 さらにグロテスクなのは、背中から次々に、触手状の

蛸足めいたものが生えてきている所だ。

 人が持つ、醜悪さへの嫌悪感に対する挑戦である。



 さすがにあれはやばい。

 明確な根拠はないが、ユウキが察した。

 強いて言うならば経験則からか。

 あの姿はハッタリではない、相応の力を持っている

のは迫力で感じ取れる。


 どうしたものかと考え始めていると、

(みんな、ついさっきベースに応援を呼んだから)

 ミナからのチャットメッセージが表示された。

 これは現在この場にいるプレイヤー全てに見えて

いるものだ。


(到着まで恐らく十数分、それまで人的被害を

出さずに何とかもたせて。今、彼等を守れるのは

私達だけよ)

 現時点での最低限の勝利条件は、王族と招待客に

被害を出さないこと。

 ジェスターを華麗に撃退して場を治められるなら

それに越したことはないが、容易ではないだろう。


 ミナが救援などの何かしらの打開策を打つであろう

ことは誰もが分かっていたが、その応援到着までの

十数分は短いようで長い。

 現在、各々散り散りになりやすい夕食時であり、

ベース近辺か王都内にいて、ジェスターに対抗

できるだけの実力を持つプレイヤーを呼ぶには、

やはり最低でもそれくらいは必要となる。


 各自が口には出さず、チャットメッセージで

ミナの要求と期待に了解していると、

「ねえねえミナさん」

 とジェスターが彼女を名指しした。


「そんな所で防御魔法を唱えっきりになんて

なってないで、こっちにおいでよ。お互いに

知らない仲じゃないんだから」

 彼はかつてのギルドメンバーであり、ミナと

冒険を共にしたこともある。

 平時であればこんな声の掛け方もあったかも

しれない。


 ランチかお茶にでも誘うようなフレンドリー

さで参戦を希望したが、

「………!」

 ミナは黙して動かず、曲がらない頑なな視線を

向けるだけだった。



 つれないなあ、と彼は残念がるが、

「まあいい。さあ、僕の新しいモンスターだ。

しばらく遊んでおくれよ、異界人の精鋭たち」

 どこか芝居がかった台詞を言い、モンスター、

ドレイクの後ろでゆったりと立つ。


 ドレイクはノシノシとは歩かず、なめくじが

這うように足部分を揺らしながら前進すると、

その複眼で標的を見据える。

 鬼灯(ほおずき)のような瞳にはユウキが映っていた。


 がばあっと大口が開かれ、口内で黒紫色の

魔力の粒子が集束し始める。

 明らかに何かが放たれる前兆行動だ。


 ブレスか!?

 対ドラゴン戦の経験からそう予測した彼を

目掛けて発射されたのは『光線』だった。


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