表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
143/173

裏切りの理由

 

「寝返った理由、それは」

 ジェスターが両手を大きく開いた。

「プレイヤーの身では得られない、この力だ!」


 彼に呼び起こされたかのように、床の下から

魔力が噴水状にそそり立った。

 噴き上がった間欠泉を思わせるそれは5メートル

ほどの高さを維持し、その数は8つほど。


 エネルギーは震える黒い柱となり、そこにある

だけで会場の床をひび割れさせていく。

 もうこのホールは使い物にならないだろう。


 魔力の柱を、大切なペットでも愛でるように眺めて、

ジェスターは言った。

「寝返った者達は、誰も彼も強力な力を欲していた。

他人を痛めつけるため、人を(かしず)かせるため、支配する

ため。理由はそれぞれだが皆、力を欲しがっていた。

それは僕も例外じゃない」

 柱から禍々しい瘴気がにじみ出る。

 部屋の空気はすぐに腐り、澱み切ってしまった。


「強い力をくれてやるからと、そう言われて魔族に

寝返ったのか!? それで今までの仲間を裏切って」

 ユウキが叫ぶが、ジェスターは意に介さない。


「ああ、裏切ったね。それだけのものを提示された。

何もかも捨てても惜しくないと思えるほどの力を」

「僕は君がそんな人間だとは思えない!」

 マキシが声を張った。

 耐え切れないものを解き放つような、彼らしくない

感情的なものだった。


「君は魔術師として僕と同じ道を歩んだ友だった。

切磋琢磨し、その姿勢に尊敬を抱く者も多かった。

なのに何故、急にこうも変わってしまったのです」

「ああマキシ、それは僕にも分からないのさ」

 ジェスターは親友に話しかける口調を使う。


「僕はこの世界に来た時から、更なる力が欲しいと

いう欲求に心を支配されていた。まあ、君達だって

分からなくはないはずだよね。プレイヤーは強く

なるためにこの世界にいるんだから」


 RPGの世界では、敵対する存在を倒すのが主題ならば、

そのためにレベルやスキルを高め、より性能の優れた

装備品を集めることを副題としても過言ではない。

 考えの差はあるものの、プレイヤーは常々強くなる

ことを第一の目標にしているのだ。

 だから力が欲しいと思うのは自然ではある。


 だが。

「どういうわけか、魔族ならそれに応えてくれると

思ったんだ」

「どうして、敵である魔族に」

「さあねえ。だが自然と同調するものが集まってね、

その日のうちに何人かと月下城へ向かったのさ」


 月下城とは魔族の城の1つである。

 大きな門で封された洞窟を入り口とし、地下へと

フロアが作られている地下城で、古参プレイヤーなら

誰もが挑戦したことのあるダンジョンである。


「僕等は簡単に最深部へ辿り着けた。まるで、そう。

今夜の晩餐会に招待された客と同じく、城の主に

招かれたかのように」

 小振りの城だが魔族の立派な拠点の1つである。

 敵対するプレイヤーを快く招き入れる者などいる

はずはないのだが。


「魔族の城主に、僕等は包み隠さず欲望を伝えた。

今まで戦ってきた相手であるのに、おかしいとは

思わなかったよ。なんだか、子供がサンタさんに

プレゼントをお願いするような、そんなとっても

ピュアな気持ちで打ち明けていた気がするな」


 ユウキはジェスターの告白を(いぶか)しんだ。

 この世界に来た途端、どうして力を欲したのか。

 ユウキ達は自分の力など二の次で、現状を把握

するのに精一杯だったというのに。

 そして唐突に、魔族に協力を願い入れようとする

頭の仕組みが理解不能だ。

 殺し殺されを続けてきた敵である。

 あまりにも飛躍しすぎた発想と言えよう。


 彼は本当に本心からそう思ったのか?

 どこか都合よく、記憶を改竄されているのでは

ないだろうか。


「魔族に協力するなら、今までにないほどの力を

与えてやろうと。僕等は喜んでその条件を飲んだ。

そして力を授かった。その充足感、たとえるなら

そうだな、3日4日飲まず食わずで飢え切っていた

ところに、くつくつと煮えた豊潤な肉鍋と香ばしく

焼いたパンをお腹いっぱいご馳走された、そんな

気分だったよ」

 幸福な時間を反すうするように、ジェスターは

マスクの下の目元を緩ませた。


 その顔を、哀れむようにマキシが言った。

「やはりどう考えてもおかしい。ジェスター、

君は操られている。君はいつも僕に言っていた。

レベルやスキルは地道に鍛えて高めていくもの

だと。それが突然、力を得たいがために仲間を

捨てて魔族の軍門に下るなんて」


「マキシ、僕が操られているとかいないとか、

そんなのはごく些細なことさ。今の僕は幸せだ。

思うままに振るえる力が、この手の中にある。

それだけでとてつもない多幸感を感じるんだ」



 ああ、やはりそうなのだ。

 ユウキは彼の顔を見て確信した。

 ある種の恍惚を浮かべる表情は正気ではない。

 どのタイミングかは不明だが、ジェスターは

何らかの術をかけられ、人が変わってしまった。

 そして多分、自分が術中にあることを自覚すら

していない。


「さあ、僕の自分語りはこのくらいにしよう。

言葉を幾つも重ねるより、実際にこの力を、

片鱗だけでも味わってもらったほうが魔族の

凄さを分かってもらえるだろうからねっ」

 ジェスターは押し出すように両手を前に出した。


 するとバリバリと床を剥がしながら、8本の

黒い柱が標的目掛けて移動を開始した。

 無論、鉾先となるターゲットはユウキ達だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ