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冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
142/173

ジェスターとの戦い

 

 ジェスターは全身にどす黒い魔力をまとった。

 燃え盛る炎のようなエネルギーの奔流。

 その立ち昇る業火のごとき威圧感が舞踏会場を

震わせる。


 ユウキ達は彼の前に立ちはだかった。

 身をもって、王と招待客を守らねばならない。

 それを為せるのは彼等、プレイヤーしかいない。

 しかし皮肉なことに、襲い来るジェスターも

また、以前はプレイヤーだった者だ。



「オディールと同じ力だ。手加減をしようもの

なら、こちらがやられてしまうぞ!」

 ヨシュアが剣を両手持ちにし、低く構える。

 エルザは強く同意して頷き、

「セレスティアル・フィールド!」

 上級の防御魔法を全員にかける。


「元々彼は、僕と同じ賢者になれるステータスを

持っていたほど。油断してはいけません」

 マキシはいつでも術を放てるよう、全身に魔力を

通わせた。


 ユウキ達の戦力は、王子を介抱しているアキノ、

防御魔法に徹するミナを除いた6人。

 装備は、防御力では初期装備の布の服と大差ない

タキシードやドレス、武器は中盤の市販品程度の

衛兵の剣のみだ。

 以前、ヨシュア達が最強装備のベストメンバーで

挑んだ時に比べるとかなり分が悪い。

 だからと言って、ハンデマッチを要求できるわけ

ではない。


 リュウドは腰を落とし、八双に構える。

 衛兵の剣は両刃の所謂西洋剣だが、サムライの

スキルにも対応している。

「あのジェスターという奴。会ったことがあるが、

もっと知性的で落ち着いた男だったはずだ」

「俺もそう思う。あんな支離滅裂でころころと

態度が変わるような人ではなかった。魔族側に

なると、頭の中まで変えられてしまうのか」

 ユウキもマキシ同様、魔力を体に循環させる。



「聞こえてるよお。僕だって前は君等のギルドに

入ってたことがあるんだ。人がメチャクチャな

人格破綻者になったような悪口は控えようよ」

 ジェスターは口元をにやりと歪ませる。


「知っているからこそ、その異様さが際立って

見えると言っているのです」

 マキシは悲しみにも似た色を瞳に湛えていた。

 ジェスターは複数のギルドを回り、みんなの会に

所属していた期間もあった。

 ピエロの衣装は当時からの趣味で身に付けていた

ものだが、実力、マナー共に一目置かれるほどの

優良なプレイヤーだった。


「互いに知り合う、かつての仲間同士がぶつかり合う。

なんともドラマティックじゃないか。なんかこうさ、

盛り上がるよねえ」

 ヒヒヒと笑う男。

 仮面で表情の全ては読み取れないが、まるで中身を

そっくり別物に入れ替えられてしまったかのようだ。


 その姿はユウキ達に、言葉での説得は無理だと

悟らせた。

「なんだか、見ててイライラしてくるわ。少しばかり

強めに叩かないと元には戻らないってことでしょ」

「叩いたら治るなんて、僕を壊れた家電みたいに

言わないでおくれよ。まあ、叩いてみるがいいさ。

叩けるものならね?」

「そう。なら試してみるわ」


 レインは二刀流に構えた長剣に、

「エンチャント・ブレード」

 魔法を付与した。

 右の剣身が赤熱し、左は(しも)が降りたように白い

冷気を発する。

 彼女の魔法戦士のスキル、魔法剣だ。


 レインはヨシュア、リュウドに一瞬目配せすると、

剣を左右に開くように構え、突撃した。

 前衛として先手を取るという合図である。

 一番手の動きに合わせ、他のものが呼応する。


「ラピッドストライク!」

 高速移動からの速度を乗せた物理攻撃。

 ゲームで言えば、普通よりも少ないフレームで

攻撃でき、硬直時間も大幅に減らす効果がある。


 右の赤、左の蒼白が、上下左右斜めに、数多の

軌跡を残しながらジェスターに打ち込まれていく。

 激しくも鮮やかでさえある連撃。

 だが彼は、

「おお、忙しい忙しい。これは大変だ」

 魔力を込めた両の掌でそれらを全て受け切っていた。

 バトル漫画で見かける拳の連打を、現実に再現した

かのような動きだ。


 愚者(フール)とは本来、魔術師系統のジョブである。

 設定上のステータスは非力で体力の数値も低い。

 だがゲオルグとレオンを打ち破ったことから見て、

肉体が異常な段階にまで引き上げられているのは確かだ。


「少し腕が疲れた。もう勘弁してくれ」

 そう言うと、受けていた掌から魔力を噴出する。

 弾かれた剣に体ごと持っていかれる力を利用して、

レインは1度間合いを取る。


 そこにつるべ落としで入れ代わるように、ヨシュアが

飛び込んだ。

「はあっ!」

 パラディンの聖なる力を剣身に満たし、斬撃を放つ。

 レベルの違う一撃だと察し、ジェスターは魔力の壁を

展開した。


 ノートほどのサイズの防壁だが、剣とぶつかり合うと

スパークし、放電現象のように黒いエネルギーが弾ける。

 それでもヨシュアは怯まず、体ごと剣で防壁を押して

いく。


「オディールのような歪んだ者ならともかく、なぜ

君のような男が魔族に寝返った!?」

「さてね。こちらに来た時から、僕は魔族にたまらなく

魅力を感じていたんだ」

「こちらに来た時から!? くっ!」

 防壁の圧が高まり、一種の衝撃波となってヨシュアは

十数メートル後ろへと弾き飛ばされた。

 が、見事な体捌きで片膝をついて体勢を保つ。


「ソリッドブロウ!」

 横合いからユウキが、手元から水平に竜巻を放つ。

 ソリッドブロウは、物質のように硬質に固めた魔力を

回転させながら勢いよく叩き付けるという、魔法と物理の

両方の性質を持つ特殊技だ。


 間隙を縫った一撃をまともに浴びせられたジェスターは

衝撃で飛び上がるが、クルクルと回転して体操選手並の

華麗な着地を見せた。


「あなたは例の、俺達のギルドで起きた騒動には

関わっていないはずだ。それなのにどうして」

 ユウキも顔見知りであったジェスターに聞くが

彼は首をかしげ、


「んん? オディールが適当なことを言ったのか、

それとも君等が勝手に誤解して勘違いしてるのか」

「勘違い!?」

「あの騒動に関わった者の大半が魔族側についたのは

事実さ。でもあれに関わったかどうかなんてのは、

絶対的な条件でも何でもないんだよ。寝返った理由は

もっとシンプルなものさ」

 ジェスターの瞳の奥が黒く揺らめいた。



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