表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
140/173

ジェスターの力

 

 こやつは分厚い鉄板か何かか!?

 それが、斬りかかったゲオルグが、己の剣を軽く

防いだ道化師に対する感想だった。


 既に齢80近くだが、稽古を欠かさず、矍鑠(かくしゃく)とし、

年齢と共に若干痩せてはきたものの、同年代とは

比べ物にならないほど壮健な肉体を持っている。


 そんな長年の鍛錬に裏打ちされた老騎士の斬撃は、

黒い魔力の剣で受け止められた。

 何度剣を振り下ろしても、鉄板を叩いているように

ビクともしない。

 分厚い鎧に身を包んだ巨体の闘士なら分からなくも

ないが、目の前の男はピエロでしかないのに。


「でやぁ!」

 フェイントを入れてから鋭く払うが、その先には

既に守りの剣が用意されている。

 反応が尋常ではないのだ。

 防がれるというより、構えている所にただ愚直に

打ち込んでいるようにさえ見えた。

 まるでボクサーが、トレーナーの持っている

ミットに決められたコンビネーションパンチを

打っているかのように。



 何故だ、何故通じない。

 老いたとはいえ、名誉騎士の称号を持つ自分の剣が

こうも容易く捌かれるとは。

 騎士として長年仕えた王と国を、害しようと企む

不埒な者を相手に一太刀も浴びせられない。

 その焦りは彼の矜持が大きいばかりに皮肉にも加速

され、徐々に平常心が乱されていく。


 太刀筋が荒くなったところで、キンッと音が響いた。

 彼の剣はジェスターに切り払われ、床へ飛んだ。

 そして僅か数瞬の間も置かず、黒い魔力の衝撃波が

ゲオルグを弾き飛ばした。


「ぐうぅ!」

 招待客達の前に放り出されるように、彼は倒れた。

「大丈夫、あなたのプライドは守られましたよ。

だからもうその辺にしておきなさい。短い余生を

寝たきりで過ごしたくはないでしょう」

 ジェスターは魔力で生み出した剣を指で摘んで、

プラプラと揺らして見せる。

 それはゲオルグに対し、酷く挑発的に見えた。


「何故だ、ワイバーンを討ち取ったことさえある

私の剣が通じぬとは……!?」

 体を起こせないゲオルグは悔しげに語るが、

「ワイバーン? ご老体、昔を懐かしむのも結構

ですが、そんなものと私を一緒くたにされては

困りますな」

 マスクで分からないが、ジェスターは呆れ顔を

作っているようだ。




「よし、ならば俺が」

 勇ましく行こうとするレオンの腕を、アキノが

両手で掴んだ。

 そして小声で伝える。

「レオン様、いけません。アレは私達異界人でも

苦戦するほどの強敵です。騎士団長と言えども」

「だからと言って逃げ隠れなどできるものか」



 レオンはアキノを、下がっていろと手で制して、

転がっている剣を拾った。

「俺はルーゼニアの第一王子にして王立騎士団の

長を務めるレオンだ。王を前にしての貴様の狼藉、

見過ごすわけにはいかん!」


 彼の名乗りを聞いて、ジェスターは腰に手をやり、

くだけた滑稽なポーズを取った。

「騎士殿が次から次へと。私は言うなれば使者。

よそからの使いに剣を向けるのは、人としていかが

なものでしょう」

「魔族に堕ちた者がどの口で人の道理を語る! 

ゆくぞ、外道め!」



 ダンッとホールを蹴って、レオンは余裕綽々の

ジェスターに斬りかかった。

 道化師は驚異的な反応で対応する。


 先ほどと変わらぬ展開が待っていると思われたが、

どうやら同じではない。

 振り下ろし、水平に払うスイング、鋭い突きから

剣を返しながらの打ち込み。


 力強く、それでいて流れるような太刀筋。

 若い肉体から発揮されるパワー、スピード。

 天性のセンスで会得した剣技の冴えとテクニック。

 それらは恩師とも呼べるゲオルグの能力を大きく

引き離すものだった。


 鉄壁と思われたジェスターの守りにも、若干の

ぶれが生じてくる。

 そしてついに、切っ先が彼の肩を切り裂いた。

「さすがはルーゼニアの武と呼ばれるレオン王子。

騎士団を率いているだけのことはある」



 ここで初めてジェスターが攻勢に入った。

 魔力で形作られた剣は鋭利なサーベル状に形を

変化させる。

 その剣を用いて、素早い連続突きを繰り出した。


 本来、剣と盾を対で使う剣術を得意とするレオン

は突きを弾き、捌くのに精一杯。

 で、あるかのように見えた。

 しかしその眼は、虎視眈々と狙っていた。

 突きのリズムに僅かにでも乱れが出る瞬間を。



 ───今だ!

 コンマ秒のずれを彼は見逃さなかった。

 突きが戻るその一瞬を狙って懐へと躍り込み、

捻った上体から爆発的速度で斬り上げを放つ。


「ウイングライザー!」

 それは騎士の剣技スキル。

 美しく羽ばたく水鳥の片翼を思わせるような、

純白のエネルギーを剣にまとわせて切り払う

最上位の技だ。


 速度と衝撃がそのまま大きな破壊力となり、

それを至近距離で浴びせられたジェスターの

頭部は胴体から高く跳ね上がった。

 体も威力を物語るように後ろへと吹き飛ぶ。


 ピエロ帽を被った生首がゴロンと転がる。

 悲鳴と同時に、歓声が上がった。

「やった! レオン王子が魔族を討ったぞ!」

「さすが騎士団長、見事に賊を討ち取られた!」



 その光景を後ろから見ていたアキノ、王子を

挟むように反対から見ていたユウキ達も見事な

剣の閃きに感嘆した。

 だがそれも一瞬のことだった。


 喜びを打ち消すように、疑念が生じる。

 あれで寝返ったプレイヤーが死ぬだろうか、

最強ランクのパーティーと互角にやり合える

ものがあんな終わり方をするだろうか、と。


 その疑念が杞憂に終わることを誰もが願って

いたはずだ。

 しかし、そう都合良くはいかないものである。



「ホホホ、お見事。いや、実にお見事」

 転がった首が笑い出した。

 舞踏会場が凍り付く中、倒れた体が起き上がり、

ボールでも拾うように首を掴むと、あるべき位置へ

戻したではないか。


 手の平でグイグイと押し込むと、彼の頭部は

元通りに繋がってしまった。

 ロボットのプラモデルの頭が、カチッと音を

立ててはまるように。


「おのれ、化け物め!」

「ホホホ、その通り。私は既に人ではない」

 そう言うとジェスターは右手の掌を前に出し、

魔力を集束し始めた。


「今のは、十分及第点に値する攻撃でした。

ですが、私達を倒すには、まだ程遠い──!」

 漆黒の魔力が半球体となって発射された。

 レオンはそれを剣で受け切ろうとしたが、

「っぐわああ!」

 大きく跳ね飛ばされ、背中から壁に叩きつけ

られた。


「……くそ、俺の剣が完全に入ったのに」

 そのまま、壁にもたれながらズルズルと床に

座り込み、うな垂れたレオンは動かなくなる。


 誰よりも早く駆け寄るアキノ、そして数名の

給仕役が集まる状況を見て、ジェスターは

ため息をついた。


「どうやら僕、単なる乱入者だと思われてる

ようだなあ。なんかナメられてる気がするよ。

使者としての役目も終えたし、ついでだから、

少し痛い目を見せて分からせてあげようか」

 メッセンジャーの任から解き放たれた彼は、

慇懃無礼だった口調が元に戻った。


 ジェスターはジャグリングのボールを2階ほど

の高さにいくつも出現させる。

 そこに彼から放たれた魔力が浴びせられると、

それらは魔獣やドクロ、巨人の頭に変化した。


「道化師の喜びは印象深い芸で楽しませること。

さあ、忘れられない晩餐会にしてあげよう」



 強い兄と穏やかな弟というキャラの組み合わせは、最近リメイクも出た名作RPGロマサガ2の王子達をモチーフにして考えました。

 台詞の1つもそれを連想させるものに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ