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冒険者達の集い  作者: イトー
始まり
14/173

採掘会社と男

 

 3人は、採掘会社に乗り込んできた男と一緒に喫茶店にいた。


 店はさっきの通りから一本奥へと入った所にあり、テーブルは8つほど。

 内装はなかなか洒落た物だと言える。

 他に客がいないのは、中途半端な時間のせいだろう。


 ユウキはあの後、道端でうな垂れていた男に、乱入してきた事情を説明して欲しいと切り出した。

 両者の間にあったであろうトラブルに何かの予感を感じたのだ。


 男は最初、ユウキ達が自分と同じ境遇にあると勘違いしているようだったが、調査の内容を聞いて、話を聞かせてくれる事になった。

 男はダップと名乗った。


「殺人事件に、あの会社が関わっているかもしれないのか。悪い奴ってのはどこまでも悪い事を繰り返すもんだ」

 壮年のマスターが運んできたコーヒーを啜り、ダップは憤った。


 間を置くように、ユウキも1口だけ口にした。

「騙されたと言っていましたが、どういう事なのか教えて下さい」

「ああ。俺はここから少し離れたネソンって村に住んでたんだ」


 ネソンは王都から南東に行った所にあり、特筆すべき物は無いが、宿屋などが異界人の中継地として使われている。


 住んでたんだ、という過去形が気になるが、続きを聞く事にした。


「俺はそこで職人をしていたんだが、ある日突然奴等が現れた。俺が持ってる小山から鉱石の反応が出たから、山を売ってくれとな」

 彼の家系は代々、その小さな山の所有権を引き継いでいるらしい。


「俺は断った。引き継いだ物を簡単には売れないし、あの山には豊かな湧き水があって村を支える水源とも言えた。それにちょっと生臭い話だが、相手が出してきた金額がかなり安かったんだ」


「断ったのに、強引な交渉を迫られたとか?」

「そうだ。しつこいくらいに何度も家に来られて、段々と態度が悪くなっていくんだ。柄の悪い奴等も加わってきて、王立警察に言うぞと言ったら奴等、自分達にやましい所は無いと言いながら、後ろ盾に議会の議員がいるような事を脅すようにほのめかしてきて」


「議員?」

 ユウキ達はこの世界の政治に詳しくないが、この国は絶対王政ではなく、議会もそれ相応の力を持っているらしかった。


 その議員ともなれば、平民から見れば強大な権力を持つ存在である。


「俺からしたらとにかく雲の上の人間だ。逆らったらまずいんじゃないかと思って、俺は屈する形でサインしたんだ」

 そこからは後悔しかなかった、とダップは続けた。


「あれだけ湧き水には気を付けてくれと言っていたのに、無茶な採掘をしたせいで水が濁り始めてきたんだ。村中からお前の責任だと何度も責められて、居た堪れなくなった俺は、何とかすると言ってこの王都へ1人やって来たんだよ」


 ユウキはダップの話を聞いて不安になる。

 多分2人もそうだろう。

 こちらはこちらで、とんでもない話になっている。


「俺はなけなしの金で弁護士を雇って会社に直訴したんだが、水源が淀んだ事と採掘に因果関係は無いと開き直られてな。その後に調べて新たに分かったんだが、山から掘り出されている鉱石は全て、最初に埋まっていると聞かされた鉱石より数ランク上の物だったんだ」


「それ、どういう事?」

 アキノが聞く。


「あの会社は、最初から価値のある鉱石が出ると分かっていながら、安い鉱石の相場で土地を買い取って、差額で丸儲けってやり方をしていたんだよ。調査で反応があった鉱石以外の鉱脈を、偶然見つけた言ってきたが絶対嘘だ」

「それだけ利益を出してるのに、貴方に追加で支払われたりは?」


 ダップはコーヒーを飲み、無念を吐き出すようにため息を吐いた。


「何も無かった。買い取った時点でこちらの土地だから、そこからどんな資源が出ても、元の持ち主は口を挟む権利は無いって」


 法的には確かにそうなのかもしれないが、埋まっている鉱石を故意に偽ったとなれば問題になるのではないだろうか。


 国土管理局に出すべき、土地に関する重要書類の提出が遅いのも、意図的な可能性がある。


 ユウキは順を踏んで考えながら、気付く。

 途中までのプロセスが、オークの村と同じでは無いだろうか?


 彼は圧力を掛けられ、言われた通りの金額で土地を売る事になり、結果的に大変な大損をしてしまった。

 だがオークの村では、売るかどうかの交渉中にルイーザが現れたのだ。


「ユウキ、これは」

 リュウドが声を掛ける。恐らく同じ事に気付いたのだろう。

 ルイーザの介入がどんな影響を与えるのかを。


「俺は悔しくて何度もあの会社に出入りしてたんだ。その時、同じように食って掛かっている人を見つけた。話をして目の前が真っ暗になったよ、あの会社はああいう汚い商売を他でもやってるんだって」


 ダップはもうぬるくなったコーヒーを飲み干した。

 グッと眉根を寄せたその顔は、コーヒー以上に苦い物を腹の中に抱えているからだろう。


「ダップさん、話してくれてありがとう。これは捜査の参考になる。会社のやり方も含めて、王立警察で話してみようと思います」

「……頼むよ」


 出来る限り元気そうな顔に努めて、ダップは言った。


「ああ、あそこはやっぱりまずい事をしてるんだなあ」

 会話の終わりを待っていたように、マスターが近寄ってきた。

 多分、全てを聞いていたのだろう。


「何かご存知なんですか?」

「ええ、たまに店を使ってもらってるんですが、一緒に連れてくる人に柄の悪そうなお客さんが多くてね。何度か確認してるうちに、これは確実に悪い奴だなって分かったんですよ」


「どうしてです?」

「だって連れてくる人の大半がね、ワイダル商会の人間なんです」

「ええ!?」


「この辺は土地柄、色々な商会のメンバーを見るんですけどね、社章を見れば1発で分かるんですよ。裏の事情に詳しいお客さんにそれとなく聞いてみたんですけど、あの採掘会社、ワイダル商会と関わりが深いらしいんです」

 他に客はいないが、マスターはひそひそと話した。


「採掘会社が脅迫に連れてきた柄の悪い連中って、あの護衛隊の事だったんじゃないの?」

「有りえる。あいつらはそういう為に飼われているようなものだ」


「ああ。すいません、連れてきた中に、こう、立派な長剣を持った男はいませんでしたか? ジャックスって名前なんですけど」


「ここでは見ませんでしたねえ。でも買い出しに出た時、あの会社の社員がそういう連中と話してる所を見かけたような」


 ユウキは、頭の中に散らばっていたピースが合わさって、1つの絵になっていくような感覚を覚える。

 キーワードがリンクし、形になろうとしているのだ。


 ダップの連絡先を聞き、話してくれた2人に礼を言うと、ユウキ達は多めに代金を置いて店を出た。



「何となく、見えてきたわね」

 リンディが椅子に座りながら腕組みをする。

 3人はいつもの部屋で、午後のお茶を飲みながら報告した。


「こっちもゲザン鉱業について調べてみたけど、採掘物を報告する書類に曖昧な記述が多いみたいね。それと、鉱石類の販売ルートを確認したら、全てワイダル商会の傘下にある業者が取り扱ってたの」


「あそこも実質、傘下みたいなもんか」

「悪者なのに、手広く商売してるんだね」

「悪党が商才を持つとろくな事にならんな」


 ユウキ達は口々に言い、香り立つアフタヌーンティーを口に運んだ。


(あの匂いはもっと、鎮痛系の薬草に近かったかな)

 アキノは例の匂いの正体を掴みつつあった。


「議員の話があったけど、ワイダルは何人かの議員に献金してて、裏に表にお金が動いてたって噂よ。多分この手の話だと地方の豪族から成り上がったベケロって議員が絡んでそうね。黒い噂が山ほどあって、外見も中身もほとんどヤクザみたいな奴なのよ」


 ユウキの脳内には、時代劇ではお約束の、悪代官とならず者を手下に持つ悪徳商人の図がはっきりと浮かんだ。

 古今東西、異世界でさえ、そういう関係は無くならないのだろう。


「ダップって人の件はもっと詳しく調べていかないとダメそうね。まあ、あの会社がそういう商売をしてたのは間違いないだろうけど」

「俺の中ではもう、動機が分かりかけてるんだけど」


「ええ、簡単に言えばオークを騙してガッポリ儲けようって商売を、ルイーザが邪魔した形になってる訳よね」

「ちゃんとした調査をされちゃったら、相場より安い値段で土地を買い上げる事が出来なくなるものね」


「そして奴等の一味には、ルイーザに致命傷を与えられるほどの使い手がいる」

 もう全貌は見えかけている、だがまだ足りないのだ。


「リンディ、あの切れ端の検査ってまだ終わらないのか?」

「うーん、明日には結果が出るみたいよ。犯人を特定できるようなものが出てくれば良いんだけど」

 決め手となる、言い逃れ出来ない物的証拠さえあれば──。


「でも、殺しちゃうって言うのは、どうなんだろうね?」

 アキノが首を傾げながら言った。


「だって、調べられてベタン鉱石以外の物が見つかっても、自分達の調査でミスがあったかもしれないとか言えば、調査ミスって事にして逃げる事も出来た訳じゃない?」


「そうだな、採掘物を偽ってどのくらいの利益が出るかは知らんが、皆に慕われている騎士を殺害するリスクに見合う物なのだろうか」

「そうは言っても、ルイーザは殺されちゃってる訳だし」

 ユウキは顎に手をやり、しばらく考える。


 確かに正規の調査をされても、自分達の調査に落ち度があったと言えば、罰せられずに言い逃れは出来るだろう。


 人気のある騎士を殺してでも得たい利益なんてあるだろうか?

 そう常識で考えると、どうしても納得の行く答えに辿り着けない。


 なら、逆に考えてみたらどうだろうか?

 言い逃れしてみすみす手放すには、余りにも惜しい利益があるとしたら?


 その辺の鉱石とは比べ物にならない、国中から愛される騎士の命を奪う事に見合うような、そんな宝があの場に埋まっているとしたら?


「──殺してでもうばいとるってやつか」

 ポツリとユウキは言った。

 3人の視線がその顔に集中する。


「リンディ、国土管理局に調査の依頼は可能か?」

「えっ、なに突然に。そりゃあ、うちから連絡すれば予定は立ててくれるだろうけど……どこの土地を調査するの?」


「オークの村だ。あそこに本当は一体何が埋まってるのか、確認するんだ」

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