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冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
139/173

ジェスター

 

「オディールが発していたものと同じ魔力だ」

 ヨシュアの頬を冷たい汗が伝った。

 最強ランクを自負する自分達のパーティーと

単独で渡り合った、裏切り者オディール。

 彼女と同等か、それ以上の力を備えたものが、

無力な人々が集う、ど真ん中に現れたのだ。


愚者(フール)? 何それ、聞いたことない

けどなんか頭悪そうなクラスじゃない」

 レインは強がって見せるが、マキシが(かぶり)

横に振った。


「愚者は新たに追加される予定だった、闇の

ジョブの1つ。愚か者ではなく、愚かな選択を

した者を意味する」

「愚かな選択?」

「ええ。全てを魔族に捧げることで、暗黒の魔術を

会得した魔術師」

 そこでマキシは再び首を振った。

 何かを否定するかのように。


「ジェスターは、彼はこちらの世界に来る前は

大魔術師として僕と変わらない道を歩んできた。

オディールのように歪んだ性格でもなければ、

例のギルド騒動にも直接的には関わっていない

はず。それなのに何故」



 賢者が疑念の目で見つめる先に、ピエロ姿の

愚者がいた。

 その道化師はまるで、漆黒の業火の中に身を

置いているようだった。

 溢れ出る黒の魔力は火の粉のような粒子を

辺りにばら撒いている。


 招待客達はその、禍々しいとしか言い様の

ないものを目の当たりにして、その男から

離れるのが精一杯だった。


 中には部屋から逃げ出そうとする者もいたが、

その足取りはドアを前に躊躇してしまう。

 何故なら、国王が微動だにせず、道化師を

にらみ付けていたからだ。

 国王を置いて逃げたとなれば、後々どんな

評価を下されるか。


 勿論、人格者である国王がそのような裁きを

行うはずはないのだが、常に人の目を気にして

生きてきたタイプの人間は、この非常時でも

そんな余分ごとを考えてしまう。


 だが、妙なしがらみや世間体など考えなくとも、

身動きの取れないものは大勢いた。

 どす黒い魔力の表れは、暗黒の力、魔族の威を

人々に想起させる。

 それは生物が1番恐れる本能的な恐怖、つまり

死への恐れを強烈にプッシュしてくる。


 魔族とは言わば、弱き人間の天敵である。

 その力を前にした人間は、恐れを超えた先に

ある、死を受け入れる覚悟さえしてしまう。


 未だ恐怖に震えるもの、既に諦めの段階にまで

達しているもの。

 1人の男により、招待客に恐怖が感染し続ける

中にあって、国王は決して視線を外すことなく、

道化師をねめつけていた。


 ジェスター、道化師そのものを名乗る男は、

ユウキ達に目配せを済ませると黒き魔力の放出を

止め、国王に応えるように彼のほうへと向いた。



「これはこれは国王陛下。お目にかかれ、恐悦至極に

ございます」

 名が体を表すの通り、オーバーなおどけた仕草で

礼をするジェスター。


 一方、国王は寄せた眉をピクリとも動かさない。

「お前が魔族へと寝返った異界人か」

「左様でございます。(わたくし)めは寝返りました。

仲間である異界人や、救いの手を差し伸べるべき民を

裏切った次第でございます」

 いけしゃあしゃあ、とはこのことだ。


「その裏切り者が今宵は何用じゃ。わしの首を

狙いに来たか?」

「いえいえ、そのようなことは。ことを荒立てる

つもりがないのは、誰1人殺していない私の姿勢で

お分かり頂けたかと」

 魔族の力を得たものからすれば、その辺の人間を

一瞬で肉塊に変えることなど造作もない。


「ならば何のためにここまで来た」

「メッセンジャー、とでもお考え頂ければ」

「メッセンジャー? 何を伝えに来た。まさか、

手を取り合って共存共栄を望む、などと言う

わけではあるまい」


 ジェスターは、ホホホとおどけて笑う。

「陛下はご冗談がお上手だ。絶対ありえない

だけに心置きなく笑えます」

 更にオホホと笑うと、

「私のほうは冗談が苦手で、こう見えて口下手。

メッセンジャーの役目だけを果たしましょう」

 慇懃無礼にそう言うと、ジェスターはマスクの

奥の瞳をギラつかせた。


「魔族は近いうちに、このルーゼニア王国へ

攻撃を加えます」

「な、なんと!?」

「いつ、どのようにかはお伝えできませんが

たくさん壊して、たくさん死人を出します。

サプライズも十分に用意してありますから、

のん気な晩餐会よりは楽しめますよ。ホホホ」

「我が王国を攻撃する、などと!?」

「これは親切心でも、警告でもありません。

ただ攻めるという事実を伝えるのみです」


 貴様っ! と、たまらず招待客の中から飛び

出してきたものがいた。

 老いた名誉騎士ゲオルグ・クリューガーだ。

 彼は近衛兵が落とした長剣を拾い、構える。


「陛下を前にして、この王国を攻めるなどと。

そのふざけた口ぶり、あまりにも許し難い。

名誉騎士の名において、魔族に寝返る腐った

性根ごと叩き斬ってくれるわ!」

 ゲオルグは剣を右手に間合いを詰める。

 ユウキが思わず叫んだ。

「ゲオルグさん、いけない!」

 だがその忠告は彼の耳には届いていない。


「年老いても血気盛ん。元気があって羨ましい。

ですが、この世界にもあるんじゃあないですか。

年寄りの冷や水、という言葉が」


 ジェスターはおどけたポーズを取ると、右手から

魔力を発振させ、黒い剣を作り上げた。



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