表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
134/173

舞踏会のありかた

 

 一足先に最初のダンスを終えたユウキ達が

注目すると、皆一応にダンスをこなしている。


 ミナと生真面目なマキシは自由な時間を

見つけては、練習に励んでいたらしい。

 特にミナはギルドの拠点から出歩くことが

少ないため、運動不足の解消になるからと

トレーニングを楽しんでやっていたそうだ。


 ヨシュア達は最強ランクのプレイヤーと

呼ばれるだけあって、ダンスにおいても

連携が取れていてそつなくこなしている。

 何より事務的ではなく、本人達が楽しんで

いるのが周りにも好印象に映りそうだ。


 リュウドとレインは特に秀でているという

わけではないが、片足を出してもう一方の

足をそちらに引いてくる、というダンスの

足捌きは剣術の歩法に通じるものがあり、

流れるようにリズムに乗っていた。



 これなら無礼や無様を晒さずに済みそうだな。

 ユウキは安心して、椅子でくつろいだ。

 隣にはアキノが座っている。

「このまま和やかに過ごせそうだな」

「うん、お開きになる時間までリラックスして

いられそう」


 慣れないドレス姿も大分板についてきたようで、

座っている姿もゆったりとしている。

 自分が買ってやった、などと恩着せがましくする

つもりは毛頭ないが、ユウキは彼女の胸元で輝く

ネックレスを見て、高価でも購入を決断して本当に

良かったと思った。


 ふんわりと上品に広がるスカートのドレスと

相まって、非常によく似合っている。

 そんなアキノが隣で微笑んでくれているだけで

ユウキは満たされる気持ちでいられた。


 果物のソフトドリンクのおかわりを貰う頃には、

他のメンバーのダンスは終わっていた。

 皆、やるべきことはやり遂げたといった顔で

戻ってくる。

 招待された晩餐会でこなす、最低限の行動は

これで成し遂げたことになるわけだ。



 それから、舞踏会の参加者が次々とダンスに

参加し、もうそろそろ全員一巡するかどうか

といった時間になると、ホールは新たなダンス

ペアを見つける者と、歓談に興じる者の2つに

分かれるようになっていた。


 ダンスは男女どちらからでも誘っていいのだが、

誘われたら基本的には断らずに、1度は相手を

するというのが暗黙のルールであるらしい。


「舞踏会はダンスのためだけに集まるんじゃ

ないんだって?」

 ユウキがマキシに聞いた。

 重要な交流の場所ですよ、と彼はアイスティー

のグラスを掌で遊ばせながら言った。


「商談であったりコネを作ったり、生臭い話は

したくないですが、誰かと繋がりを持つために

活用される場です」

 マキシは、多くの領主や政治関係者に囲まれて

歓談するミナを見た。


 笑みを絶やさず、しっかりとした受け答えと

どこか艶然とした仕草が、年齢層を問わずに、

主に男性に人気のようである。


「ああやって会話しながらギルドをアピール

したり、何か役立つ情報を集めているのだと

思います。僕は専ら頭脳労働が仕事ですが、

彼女には計算力、決断力、統率力の三つが

揃っています。頼りになるリーダーですよ」


 こうした場で好印象を得る方法をミナは十分

心得ているのだ。

 強引な駆け引きなど使わず、笑顔と気配りが

支持者を増やすのだと、彼女は理解している。

 いくらかの打算も当然あるだろうが、彼女が

望むのはあくまで誠実な人間関係だ。


「交流の場だけあって、ここは男女の出会いの

場所でもあるのです」

「ふーん。熱心にダンスに誘う人がいるのは、

そういう意味なんだな」

「さながら、リアルでの婚活パーティーです。

玉の輿や逆玉を狙うものも多くいるようですよ」


 有力者と結びつきたいのは誰もが同じだろう。

 貴族や国政に関わる責任者が数多く招待される

この場は、確かに婚活には打って付けだ。


 マキシは国の大臣を見つけると、挨拶に向かった。

 プレイヤーの王都守備隊の件でも世話になって

いる間柄のようである。


 ユウキは辺りを見回す。

 ヨシュアとエルザは交流の意味で、ダンスの

誘いを受け、別々の場所で踊っている。

 レインは同年代の女性グループとの会話に花を

咲かせ、アキノは祖父と孫のような年齢差がある

御高齢の紳士からダンスに誘われ、かなりのんびり

としたリズムで踊りに付き合っていた。


 リュウドは1人か。

 グラスを片手に、ぽつんと立っているリュウドに

ユウキは近付いた。


「飲み物を片手に壁のしみか」

「まあ、そんなところだ」

 皮肉ったユウキの前で、ゴクリとグラスの中身を

飲み干す。


「こうしていると、やはりリザードマンは珍妙な

ものとして見られているのがよく分かる。あまり

声もかけられないものでな」


 異界人としてのリザードマンは広く知られているが、

この世界に元々いるリザードマンは人間と共存する

ものもいるが、大半はモンスターである。

 そのため、頭では異界人と分かっていても苦手意識を

感じてしまうものが多いようだ。


「気にするなよ」

「気になどしていない。ただ種族ごとにしがらみが

あるものなのだと、改めて悟っていただけだ」

 権力者の中に人間至上主義者も多い世界である。

 優れた能力を持っていても、世渡りのしづらい種族が

あるのは事実なのだろう。


 リュウドはグラスに残った氷を弄びながら、

「セカンドキャラでログインしていたら、今とは

違った物の見方もできていたかもしれん」

 リュウドはファーストキャラであり、セカンドは

仲間からネタ用のキャラを作れと言われ、要望を

聞いてその通りに作られたキャラである。


 足首に届きそうなほど長く、シルエットの数割を

占めるほどのボリュームを持つツインテール。

 童顔設定でデフォルト体型より巨乳にされており、

ノースリーブの巫女服に超ミニスカの緋袴、ニーソ

というレアアイテムの数々を仲間から渡されるままに

装備した、ごった煮の如きキャラであった。


「あっちでログインしてたら、リュウドは今頃、

ヒラヒラのドレスを着て踊ってたろうな」

「……ファーストでログインしたのは間違いでは

なかったようだ」


 冗談を言い合っていると、アキノが戻ってきた。

「なんだか家のおじいちゃんと踊ってるようで

なかなか楽しかったよ」

 老紳士も満足げにダンスを終えたのだそうだ。



「しかし、不思議なもんだな」

 ユウキが、テーブルからホールを見ながら言った。

 煌びやかな室内を、豪華絢爛な衣装でクルクルと

回りながら踊る招待客の姿は、まるで愉快な夢を

見ているかのようである。


「何ヶ月か前に、突然この世界に放り込まれた時は、

右も左も分からなかったのに、今じゃ国王様から

晩餐会に招待されるまでになってる」

「それはまあ、色々と冒険したり、頑張って事件を

追ったりもしたわけだし」

「その努力を認められたから、と解釈できる」


「それもそうなんだけどさ。なんだろうなあ、

急激に運命が動いてるような気がして」

 カーベインに旅立つ前日であったろうか。

 ユウキは、アキノと夜空を眺めながら考えて

いたことをふと、おぼろげに思い出す。


 星の巡りと運命、だったか。

 あれから続いた多くの出会い、難敵との遭遇、

苦難の末の勝利。

 自分達は知らず知らずのうちに、激しい潮流の

ような運命の渦に飲まれているのではないか。

 きっと、そこから逃れる術などは存在しない。



 3人が話していると、ホールの一角から黄色い

声が上がった。

 今までダンスを眺めていただけの2人の王子が、

席を立って、いよいよパートナーを探し始めた

らしい。


「舞踏会って、婚活の場でもあるんだってさ。

玉の輿狙いって、つまりあれのことなんだろ」

「王子に選ばれれば、見初められたも同じだと

でもいうのか」

「舞踏会に王子様って、シンデレラの後半も

確かそんな内容だったよね」

 アキノが柑橘系のソフトドリンクを含んだ。


 未婚の招待客、あるいはその両親は、王子が

選んでくれはしないかとそわそわしている。

 そんな期待をされている王子達だが、次男の

ルーシュは誰にしようかとかなり迷っている。

 フィーリングにとことん拘るのか、それとも

優柔不断な性格なのだろうか。


 一方、長男にして第一王子のレオンは迷いを

感じさせない足取りで歩いてくる。

 そう、歩いてくるのだ。

 ユウキ達のほうへと向かって。


 招待客のざわつきがウェーブとなり、その

波のような声を浴びながらレオンは来た。

 3人の前へ。


 あ、この度はお招きいただき──。

 そんな決まりきった挨拶をユウキがしようと

していた、その時、

「1曲、踊ってもらえるだろうか」

 レオンが下から掬うように手を差し出した。


 差し出された手の前には、

「え? は……え?」

 ポカンとした表情を浮かべたアキノがいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ