表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
129/173

晩餐会のはじまり

 

 給仕役が席を引き、ユウキ達は立ち上がった。

 彼等の横の席に配置されていたフェリーチャ

だが、カーベインの代表の代理であるため彼女は

立たなくていいらしい。


 異界人の代表という表現はいささか大袈裟だが、

公認という肩書き、ルーゼニアという後ろ盾を得た

みんなの会はそれくらいの勢いがあると言っても

過言ではないだろう。


「彼等が、わしが公認した異界人達。ギルドの

主要な者達だ。騎士ルイーザが殺害されるという

痛ましい事件を解決し、その裏にあった陰謀を

暴いたのも彼等。カーベインでは沖の小島に現れた

不吉な塔を攻略し、交易の要である海路に安定を

もたらした。それが魔族どもの仕業だと突き止め、

しばらく不便していた転送魔法陣の復旧にも大いに

貢献してくれた」


 国王がよく通る声で賛辞を贈った。

 転送魔法陣の機能不全、領内に突如現れた迷宮や

洞窟から魔物が周辺地域へと徘徊し始める事態には

領主達も困っていた。

 機能を復旧させ、果敢な探索でダンジョン周辺の

平穏を取り戻す異界人の活躍には、彼等も謝辞を

贈りたかったはずだ。


「最近ではメディ・ミラで暗躍していた邪教団の

暗殺者を退け、麻薬の密造を阻止したとも聞いて

いる。国の内外を問わず、よく動いてくれている。

実に頼もしい限りだ」

 公認の条件として、行った冒険の成果を報告する

ことになっている。

 邪教団は世界規模の敵であり、人知れず入り込む

悪辣な信者達に領主も手を焼いているのが現状だ。


「彼等には騎士団と協力して国の護りにもついて

もらっている。魔族の手がいつ何時(なんどき)伸びてくるやも

知れぬ昨今、守備は堅牢に越したことはない」

 そこまで話すと、国王はミナのほうを向き、

「代表として、何か言葉をもらおう」

 と言った。


 スピーチとまでは行かないが、他の招待客に対し

挨拶をしろというわけだ。

 ユウキだったら緊張で頭が真っ白になってしまう

だろうが、そこは数千人を束ねるギルドのトップ。

 何も考えなしに来ているはずはない。


 ミナは奥ゆかしさを感じさせる小さな礼をすると、

「皆様、はじめまして。異界人のギルドを主宰する

ミナと申します。英雄や勇者と持てはやされる一方、

流浪の民も同然であった(わたくし)供を公認してくださった

国王陛下の寛大さにはただただ痛み入るばかりで

ございます。その恩義に報いるべく、私供は魔族を

打ち破るため全力を尽くしていく所存でございます。

お集まりの皆々様、領地の中で同胞がご面倒をお掛け

することもあるやも知れませんが、何とぞご容赦の

ほどを」

 ここで一呼吸おき、そして、

「平和のために魔族を討ち滅ぼす。それが異界人に

課せられた使命であると私は自負しております」

 ミナはしとやかに礼をする。


 パチパチと誰ともなく手を叩き始め、やがて部屋に

拍手が鳴り響いた。

 ギルド代表としての最初の役目は十分に務め上げた

ようだ。


 うむ、と国王は納得したように頷き、ユウキ達に

座るよう命じた。

 今度は入れ代わるように、グラスを持った国王が

立ち上がる。

 それを見た招待客達は各々グラスを持った。

 ユウキも倣い、食前酒の注がれたグラスを取る。


 それでは晩餐を始めよう、と彼は宣言し、

「ルーゼニアの平和とさらなる発展を願って」

 乾杯とグラスを目線より高く掲げた。

 同じように皆グラスを軽く上げ、一斉に口元へと

運ぶ。

 こうして晩餐会が始まった。



「……はじまったね」

「うん」

 ユウキがアキノに耳打ちした。

 2人とも少しずつ緊張は解けてきている。

 ミナの肝の据わった挨拶を見て、ドンと構える

気持ちになれたようだ。


 向かいや遠くの席に目配せしながら、ユウキは

食前酒の2口目を飲んだ。

 ルヨーク産の酒と給仕役が説明していたような

気がするな、とユウキは思い出した。


 ルヨーク、所謂酒どころで有名な地方だ。

 シャンパンのようだが、後味は日本酒に近い。

 さっぱりした口当たりで薬膳効果もあるらしく、

食前酒には持ってこいだ。

 ブラッドだったらもっと産地や発酵の方法など、

色々分析しているだろうな。

 などと考えていると、すぐに前菜が給仕された。



「ティラチカの海草添えでございます」

 ティラチカ──リアルで言えば、おめでたい席で

喜ばれる鯛のような魚である。

 皿には、白身の切り身と海草が上品に盛り付け

されていた。


 ユウキはマナーを意識しながらフォークを使い、

身をタレと軽く絡めて口に運ぶ。

 前菜から、いきなり段違いに美味い。

 ブラッドの料理と似ているが、酸味のあるタレの

味付けがさらに工夫、洗練されている。

 王室専属のシェフともなるとこのレベルなのか。


 ユウキとアキノが小さく唸っていると、向かいの

席に座るちょび髭の領主が、

「城の料理人は、なかなか大したものですな」

「え、ええ。とても美味しいです」

「しかし新鮮な魚が手に入るようになったのも、

あなた方が漁業を復活させたため。ありがたい

ことです」


 魔族の迷宮を解くことで、完全にではないが

潮の調子が戻り、漁師から魚介類が入ってくる

ようになっている。

 こうした場面でも平和への第一歩を感じ取れる。


 続いて出されたジャガイモのポタージュも

文句なしに美味かった。

 前菜の酸味でさっぱりした口に、ミルクを使った

濃厚なスープで変化を与えてくる。


 他の面子はどうしたものかと、ユウキが首を

伸ばして左右を確認してみる。

 席順は王族の席に近い位置からミナとマキシ、

ヨシュアとエルザ、ユウキとアキノ、そして

リュウドとレインになっている。

 フェリーチャはさらにその隣だ。


 ミナとマキシは料理を美味しくいただきながら

時折小声で話している。

 これからの算段を話し合っているのだろうか。

 なんだかんだで2人とも、したたかで計算高い

部分がある。

 それはネガティブな意味ではなく、心強いと

思えるところだ。

 どうでも良いがプレイヤーならチャット機能を

使えばいいのに、ともユウキは思う。


 ヨシュアとエルザは、普段見せないくらい

ニコニコした顔で食事を楽しんでいる。

 あの2人、以前会った時から絶対デキてると

思ってたんだよなあ。

 とユウキはリアルでのオフ会を思い出す。



 権力者には、多からずだが人間至上主義者が

いると言われている中、容赦なくトカゲ顔の

リュウドは場に馴染めているかどうか。

 ユウキが様子をうかがってみると。


「ほう、東方(イースタン) 剣術(ソード)を使いなさるか。流派は」

「師はヤシマのタチバナ・ムゲツサイ先生です」

「おお、私も東方槍術のナギナタをタチバナ流で

習っていたことがありましてな」

「なるほど、それは興味深い」

 武芸に心得がある老紳士と打ち解けていた。

 レインもフェリーチャと絡みつつ、他の招待客と

上手くやっているようだ。



 ユウキが一安心していると、

「ユウキ、アキノ。楽しめているか」

 王族の席から突然声がかかった。

 王子にして騎士団長のレオンからだ。


「はい。楽しめています」

 ユウキは答えるが、ちょうどスープを飲んで

いたアキノは慌ててハンカチで口元を軽く拭き、

「あ、はい。料理もとても美味しくて」

「はは、焦らずともいい。楽しんでくれ」

 気さくにレオンは返す。


 その気さくではあるが、どこか熱い眼差しで

アキノを見る彼の視線に、ユウキが気になって

いると、

「陛下、失礼を承知で1つよろしいですかな」

 招待客の1人が食堂に声を響かせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ