表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
127/173

晩餐会

 

 城の敷地内に建てられた宮殿は広く、招かれた領主達が

暮らす大屋敷を複数合わせたものに匹敵する。

 正面玄関前には赤い絨毯が敷かれ、その前には魔法石を

組み込んで噴き上がる仕組みの噴水、晩餐会の施設や

ダンス用のホールなども、最高のものが用意されている。


「タルベーヌ公、ごとうちゃーく」

 見事な装飾のなされた柱を持つポーチ前では、正装を

した宮殿の従者が次々と馬車の到着を告げる。

 馬車の中からは誰一人として見劣りのしない、品格の

ある男女が降りてくる。


 彼等は治めている地方から直接、あるいは王族貴族用の

転送魔法陣で王都内まで入り、馬車でやってきている。

 いずれも高い位を持つ者達だ。


 異界人として招待されたユウキ達の馬車も、玄関前へと

着けられた。

「異界人様ご一行、ごとうちゃーく」

 従者のよく通る声が車内にも響く。

 それは晩餐会とダンスパーティーが、今ここから始まる

ことを意味していた。


「……じゃあ」

「うん」

 ユウキは覚悟を決めて、馬車のドアを軽く開ける。

 それを合図に、玄関前から車のそばへと移動していた

従者が(うやうや)しくドアを開けた。


 ユウキが先に降り、アキノの手を取る。

 アキノはその手を頼りに、スカートの裾を気にしながら

降車した。

 周囲に気を遣う余裕は無かったが、他の3組も何事も

なく、赤い絨毯を踏むことができたようだ。


 馬車が走り去った後で、ユウキ達はその場に集まった。

 スポーツの円陣ではないが、冒険前にチェックをする

プレイヤーのくせのようなものか。


「私達は公的なパーティーは初めてです。相手もそれを

承知していますから、よほどの無礼がなければ大目に

見てもらえるでしょう。それでは皆さん」

 肩の力を抜いて行きましょう、とミナはこくりと頷く。

 さながらダンジョンに潜る直前のように、周りも息を

合わせて頷いた。



 それぞれがパートナーと腕を組み、エスコートする形で

赤い絨毯を歩く。

 宮殿のサイズと比例するように、降車した所から玄関まで

距離があり、15メートルほど歩かなくてはならない。


 ユウキの差し出した腕に自らの腕を絡めながら、アキノは

慎重に歩いた。

「なんかこういうの、テレビで見たことあるなあ」

「ハリウッド俳優がレッドカーペットを歩くところ?」

「そう、それ」


 しかしさすがのハリウッド俳優でも、王様が開く晩餐会に

呼ばれた者はそれほど多くはいないだろう。

 ファンタジーの世界と限定するなら、皆無のはずだ。

 などと考えながら、ユウキ達は従者が開け放ったドアを

くぐった。




「……おお」

 磨き上げられた石製の床を踏み、エントランスホールに

入ったユウキは感嘆の声をあげた。

 他の者達もそう変わらないリアクションを取る。


 吹き抜けになっておりとにかく広い。

 この空間に貴族の屋敷が1つすっぽり入ってしまうほどに。

 そしてまず目に入るのは大きなシャンデリア。

 一体どれだけのクリスタルと職人の技術が用いられたのか、

と考えるより先に、ただただその迫力に圧倒される。

 それが、ただの照明器具です、と言わんばかりに幾つも

当たり前のように、天井から提げられているのだ。


 これ以上ないだろうと思えるほど高級な調度品が並び、

なんでもない壁でさえ、細部にまで装飾が施されている。

 2階部分からは、左右からなだらかな大階段が複数伸び、

シンメトリーになっている。


 高い天井には、神々しい陽光と雲の中に佇む神々と辺りを

舞う天使達が描かれていた。

 これがこの世界における宗教観であろうか。

 ともかく、さぞや名のある絵師のものには違いない。


 ユウキは以前何かで見た、ヴェルサイユ宮殿を思い浮かべた。

 何もかもがそういうレベルなのだ。

 自分がまるで観光客のようにキョロキョロしていたことに

気付き、ユウキは姿勢を正した。


 そのプレイヤー一行の様子を、他の招待客は歓談しながら

横目で注目していた。

 どうも毛色が違う者達が来たと、向こうも気付いたのだ。

 晩餐会という名目だが、国王が公認した異界人のギルドを

見せられる、という主旨は大体伝わっているのだろう。


 決して奇異の目でも品定めする目でもないが、あれが例の、

といった感じだ。

 それでも露骨には表さず、笑顔でいるのは、こういった

多目的なパーティーに場慣れしているからだろう。


 ユウキは会場に足を踏み入れただけで、その雰囲気に

気圧されてしまった。

 今まで強大無比なモンスターを前に縮こまることが

なかったのに、だ。


 プレイヤーが怪物を知り尽くし、果敢に戦えるように、

ここにいる領主達はこういった場を熟知しているのだ。

 そういう血筋に生まれ、幼い頃からこの類のイベントを

生活の一部としてこなしてきたのだろう。




 しかし、意外と少ないんだな。

 落ち着いて会場を見回すと、ユウキが想像していたほど

人数がいない。

 7、80人といったところだろうか。


「参加人数ってこんなもんなの?」

 ユウキがマキシに聞くと、

「王族と食事をする晩餐会と、その後の舞踏会だけに

招待されたものは扱いが別なんです。王国二十数か所の

領地からパートナーとして妻、そして息子か娘を連れた

領主が晩餐会からの参加組です」

「俺達もそっちなんだ」

 言われてみれば、そんな説明をされたような気もする。

 だが別の街での騒動や、ダンスの練習が続いたせいで、

ユウキは記憶が曖昧になっていたようだ。



「『みんなの会』の面々、揃ってるわね」

 緊張気味だったユウキ達に、やたらとフランクに声を

かけるものがいた。



「あ、フェリーチャ」

 突然彼等の前に現れたのは、大規模な商人ギルドを

率いている女商人フェリーチャだった。


「なんでお前がここに」

「なんでって呼ばれたから。商人衆として、定例の

挨拶みたいなものね」


 商業都市カーベインは1つの領地のようなものだ。

 その重要性からして、代表である商人衆が呼ばれる

のもおかしい話ではない。


「今日はあのバカみたいな服装じゃないんだな」

「バカみたいって言うな。あれは商人同士で通じる

格好であって、フォーマルとは使い分けないと」


 彼女は落ち着いたグレーの、タイトなドレスを

着ていた。

 髪は簡単にまとめられただけで、真珠のネックレス

とブレスレットもアクセサリーとして主張が少ない。

 以前会った時は、ゴテゴテした服装とありったけの

装飾品で着飾っていたが、今日は非常にシックだ。


「パートナーは?」

「私、挨拶がメインだから舞踏会はパスで済むのよ。

重鎮の代理みたいなものだし。商人衆は金にならない

外出をしない人が多くて、出不精ばっかりなのよ」

 お金になる話がどこに落ちてるか分からないのにね、

とフェリーチャは冗談めかして言った。

 どんな状況でも条件さえ合えば商談を始めかねない

図太さが彼女にはあった。


「ミナ、久しぶり。帰りに少し、寄っていい?」

「ギルドの拠点に? ええ、歓迎するわ」

「ありがとう、ちょっと話したい事があって」


 フェリーチャが話そうとしていると、そこかしこにいた

宮殿の従者達が一斉に、ひときわ立派なドアの前へと

移動し、列を作った。


「おお、国王陛下がおいでになる」

 招待客の誰かが言い、部屋がにわかにざわつきだす。

 ユウキ達も注目していると、ドアが開かれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ