衣装合わせ
夕方、参加メンバー達は衣装を合わせてから
ダンスの練習をする事となった。
合同でやるのは勿論、本番と同じ衣装を着けて
踊るのはこれが初めてだ。
本来は冒険前に装備品のチェックをするための
更衣室で、各々が衣装を身に着けた。
準備が何かと大変な女性陣の部屋には、メイドの
アメリアがサポートとして入った。
ユウキ達は既に準備されていたタキシードを
着て、更衣室を出た。
特に難しい着付けなどいらないのが男性陣の
楽なところだろう。
細やかなアクセサリーなどは1度リビングに
集まってから、その場で着ける事になっている。
冒険の中で手に入れた装備品としての装飾品は、
王族や貴族でも珍しいと感じるものが多い。
精巧な出来でデザイン性も正装にマッチする。
それを参加メンバー同士や他のプレイヤーから
シェアしてもらい、持って行く事になった。
「鎧と違って着慣れないが、こんなものだろう」
カフスをいじりながら、ヨシュアが言った。
口では不慣れを心配しているが、その姿は海外の
ファッション誌からそのまま飛び出してきたかの
ような、決まりっぷりだ。
シルバーブロンドの長髪、引き締まった長身の
体躯に、整い過ぎていると言っても過言ではない
鼻梁の通った顔付き。
紛う事なき正真正銘のイケメンである。
マキシもその性格通り、服にシワ1つ作らない
きっちりとした着こなしだ。
普段かけている眼鏡も、わざわざ賢者の眼鏡に
変え、より知性的な雰囲気を感じさせている。
インテリジェンス溢れるオーラは正装と相性が
良いようだ。
「少し違和感があるな」
リュウドが腰の辺りに手をやりながら言った。
当初は紋付袴で参加するつもりだったリュウド
だが、ダンスを考慮してタキシード着用という
判断に落ち着いた。
一応尻尾を出す穴はあるのだが、着慣れない
服装のため、どうも納まりが気になるらしい。
そもそもマナー上、尻尾をどうしておくべき
なのかもよく分からない。
「足につけて垂らせば、大丈夫じゃないか。
しかし、着慣れない服は大変だなあ」
ユウキはそれらしいアドバイスをしてから、
自分の襟の辺りを直してみた。
そこそこ様にはなっていると自分でも思うが、
正装と言うのは肩が凝りそうで困る。
プレイヤーは正装をせずに冒険できるのが
良いところなんだろうな、と悟った。
リビングのテーブルの上にはアクセサリーを
入れた複数のジュエリーボックスがある。
その中で、ユウキがアキノのために購入した、
例のネックレスが入った特注の平たい木箱が
目立っている。
4人がリビングでしばらく待っていると、
ドアが開いた。
「お待たせ」
レインを先頭に、あくまでしずしずとした
動作で女性陣が入ってくる。
「急ぎで作ったにしては、なかなかでしょ」
レインは落ち着いた緑色のパーティードレスを
着ていた。
肩には控え目なパフスリープの入っており、
スカートは膝丈ほど。
可愛らしさをより引き立てている。
同じくエルフのエルザは、淡い水色をした
マーメイドドレスにイブニンググローブ。
見事なプロポーションのラインを主張しながら、
美しさと清楚さに溢れている。
髪はそのままだが、彼女に限らず、当日に
髪結い師を招いてヘアースタイルをセット
してもらう事になっている。
代金を払うとキャラの髪型を変えられる、
というシステムの応用だろう。
髪結い師はその為に存在していたNPCだ。
ギルドの代表であるミナは、大胆に肩を
出した黒のマーメイドドレスだが、エルザと
違い、首で止めるホルターネックのタイプだ。
豊満なバストは露出されていないが、そこは
シースルーになっていて上半分は透けている。
花の模様があしらわれたイブニンググローブも
シースルー仕様になっていて、スカートには
膝上までスリットが入っている。
本人は代表として、大人の雰囲気がある服を
選んだつもりだが、ユウキは、
「聖職者が着るデザインのドレスではない」
「と言うより夜魔の類が着そう」
「セクシーを超えて、エロの領域に入っている」
といった感想を持った。
口には出していないが。
最後にアキノ。
白いドレスは店で最初に試着した時とデザインが
大分違っている。
試着後、店員と細部までやり取りし、足が完全に
隠れるくらいのスカート丈にしてもらったのだ。
初めの試着の時とイメージが変わるが、ユウキも、
そういうデザインもいいなと、店内で素直に賛成
していた。
豊かなパフスリーブに大きく開いた胸元。
ドレスの下にパニエを着けており、そのため、
腰の下からスカートがふわりと広がっている。
シンデレラが着ているような、円を描くように
スカートが広がるドレス。
子供っぽいと言われるかもしれないが、そんな
ドレスを着るのがアキノの密かな夢だった。
「ユウキ」
名を呼び、感想を求める。
「うん、とても似合ってる。すごく綺麗だ」
世辞など微塵もない、ごく素直に出た感想だった。
「早速、あのネックレスをつけてみよう」
勿体ぶらずにユウキは木箱を開けた。
周りから、おおっと声が上がる。
宝石が散りばめられ、メインとなるルビーの
ような赤い魔法石の表現しがたい煌びやかさ。
一目で逸品だと分かる、迫力にも似た輝きが
そのネックレスにはあった。
ユウキはネックレスを手に取ると、アキノの
前から、首の後ろへと両手を回す。
吐息が耳にかかるような位置で、ユウキは
しっかりとネックレスのホックをかけた。
「……ああ、やっぱりよく似合うな」
1歩引いてアキノの全体像をその目に捉え、
ユウキは息を漏らした。
ドレスを身にまとったアキノが放つ輝きと、
ネックレスの輝きが互いを引き立たせている。
アキノがそっと胸元に手をやってはにかむと、
ユウキは感動にも似た感情で胸がいっぱいに
なった。
「すごいなあ、これ」
レインがアキノの隣で宝石を見る。
「ユウキ、これどうしたの?」
「どうしたって、買ったんだよ」
「買ったって、ユウキが? アキノのために?
ちなみに値段はどれくらいしたの?」
「5万、だったかな」
「ご、え!? ご、5万?」
一同から先ほどとは違う、おお、という声が
上がった。
日本円に換算して500万円相当である。
「そっかあ、そういう事かあ。幸せ者だなあ、
アキノは」
レインが肘でアキノを突っつく。
アキノは、はにかみながら体をよじる。
ユウキはレインの言葉の意味をいまいち察して
いなかったが、胸の中は満足感で満たされていた。