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冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
124/173

食事と作法

 

 ダンスの練習でいい汗をかいたユウキは宿泊棟で

ひとっ風呂浴びてから、リビングに向かった。

 アイランドキッチンのあるリビングで、昼食を

兼ねたテーブルマナーの練習だ。


「もう皆集まってるな」

 白いテーブルクロスの敷かれた長方形のテーブル

には、参加メンバーが揃っている。

 ミナ、マキシ、ヨシュア、リュウド、アキノ、

昨日ヨシュアのパートナーとして加わる事になった

エルザ、そして久しぶりに見る顔が1人。


「あれ、レインも参加するの?」

 金髪ポニーテールのエルフ、レインがいた。

 この世界に来てから何度かやり取りはしていたが、

カーベインに向かってからは面と向かって話す機会が

まるで無かった。


「私のパートナーなのだそうだ」

 リュウドが言った。

 2人1組で参加するようにとダンスを考慮した

お達しが来ており、人数調整が行われたのだ。


「こんなイベント、滅多にないからね。謹んで

参加の話を受けた次第よ」

 レインは経験豊富なプレイヤーで、ギルドの

現状も上位陣ほどではないがよく把握している。

 追加メンバーとして妥当な所だろう。


「おう、そんなとこに突っ立ってねえで席につけ。

せっかくの料理が冷めちまう」

 アイランドキッチンのずん胴鍋の後ろからヌッと

頭を出したのは、ブラッドだった。


「テーブルマナーの先生はブラッドかい?」

「おうよ。意外って顔してるが、料理を作る側は

食べる側のマナーも勉強するもんなんだぜ」


「そういうもんなんだ」

「調理のスキルを高める時に、国ごとの作法も

一緒に習うんだ。その土地のテーブルマナーに

合った盛り付けや料理の出し方があるからな」

 高度なレベルに達すると、料理人は気遣いと

拘りを両立させなければならないらしい。


 納得しながらユウキが席に着くと、ミナが言った。

「今日はブラッドが、お城の料理人からつてで

教えてもらった、以前のパーティーで振る舞われた

料理を実際に作って出してくれるの」

 本番に近い、より実践的な練習らしい。


 席には既にナイフとフォークが用意されていて、

これを使っていくのだろう。

 ユウキは何となく、外側から順番に使用するという

知識は持っていたのでそれほど不安な感じなかった。


「この世界のマナーは、多少差はあるものの、リアル

でのそれに準拠していると考えていいでしょう」

 マキシの言葉を合図にするように、隅に控えていた

アメリアがワインボトルを持ち、席を回って順々に

グラスを満たしていった。


「まずは食前酒だな。グラスを軽く持ち上げるように

して乾杯するのがパーティーの作法なんだそうだ」

 ブラッドが調理しながら説明する。


 乾杯、とミナが音頭を取って、各々グラスを傾けた。

 コクがあるが、軽めでサッパリした口当たり。

 食事前に口を整えるにはもってこいだろう。


「料理を始めるぞ。前菜はカルパッチョ風の魚介サラダ

ってところだな」

 手早く盛り付けられたそれを、給仕役のアメリアが

これまた速やかに配膳していく。


 蒸した小海老、帆立のような肉に厚みのある貝、

パプリカと似た鮮やかな野菜のスライスとレタスが

小さめな皿に乗せられている。


 酸味のある調味液でほど良く和えられていて、彩り

豊か。

 それぞれの具材の食感が違い、歯触りが賑やかだ。

 目で楽しませ、食欲をそそる1品と言える。


「それじゃ次はスープ。シンプルなジャガイモの

ポタージュだ。スプーンの使い方と音を立てずに

飲む事に注意してくれ」


 出てきたのはジャガイモとミルクで仕立てられた

スープ。

 他に数種類の野菜が溶け込んでいるのが、後味に

残るほのかな甘みで分かる。

 冷たい食前酒、前菜から温かいスープへと繋ぎ、

口の中が食事にこなれてくる。


 テーブルマナーは楽勝だなあ、とユウキが思って

いると、マキシが、

「食事の時間はコミュニケーションを取る時間でも

あります。味の感想に交えて、世間話をするような

場面もあると思っていて下さい」

 会話のネタを各自仕込んでおけ、という事らしい。


「このワインは雨後の森を散歩するような爽やかな

湿り気が後味にありますね」

 みたいな、それらしい感想でも言えば良いのだろうか。

 ユウキは途端に考え込んでしまう。


「次は魚料理だ。ソースは好みの量を伝えてくれ」

 ゴルフボール大の丸いフライが三つ、皿に乗って

テーブルに並べられる。

 ソースポットを持ったアメリアが、ソースの量を

聞き、オーダーに応じてとろりとかけた。


「これは、とても美味しい」

「ええ」

 眉を上げて驚くヨシュア、隣のエルザもそれに

同意した。


 ユウキも全く同感だった。

 白身魚のすり身に潰したゆで卵を混ぜ合わせて、

からっと揚げたフライのようだ。


 それ単体でも美味しいが、かなり手間がかかって

いるであろうタルタルソースが、その味をより、

数段上にまで昇華させている。


 出来る事なら冒険に出るたび、持って行きたい。

 食にそれほど拘りのないユウキにそう思わせる

くらい、癖になる旨さがあった。



「それはどこかの大公の好物で、パーティーでは

献立によく選ばれるそうだぜ。それじゃメインの

肉料理に行くぞ」

 フライパンで肉をフランベさせながらブラッドが

言った。


 各々の前に肉の乗った皿が運ばれる。

「肉料理はステーキ。テルミド地方で育てられた

希少な牛のヒレ肉で、貴族御用達の肉屋にしか

出回らない最上級品だ」


 ミディアムレアで焼かれたステーキは、大きさは

100グラムほどだが、存在感と貫禄があった。


 焼き目で視覚から、ソースを絡めた香りで嗅覚

から直接食欲を刺激される。

 柔らかいバターを切るように、ナイフがスウッと

入ると、桃色の断面が現れる。

 たまらず口に入れたユウキが感じた食感と肉汁は、

美味いという表現を超え、官能的ですらあった。


 やばい、このレベルの料理が続いたら会話どころ

じゃなくなるぞ。

 不安がよぎるが、美味さに顔が綻んでしまう。


「美味い美味いと食べてもらえるのは料理人冥利に

尽きるんだが、あんまりがっつかないでくれよ。

あくまで、パーティーでお偉いさん達と顔を合わせて、

行儀よく食事をするのが本題なんだからな」


 そう言いながら、ブラッドは最後の料理を準備する。

 食事のしめはデザート、アイスケーキだった。

 この世界では、温度を調節出来る魔法石を用いた

調理器でなければ作れない、貴重な料理だ。


 これも抜かりのない出来栄えで、甘みがじっくりと

舌の中へと滲み込んで行く。

 甘みは生物が本能的に求める味だとも言われるが、

ひたすら幸福感に満ちた時間で食事会は終わった。



「何だか主旨を忘れて、すっかり堪能しちゃったわね」

 ミナが素直に言った。

 それだけ料理が素晴らしかったという事だ。


「テーブルマナーは、まあ問題ねえだろうな。正直に

美味いと言うのは良いが、騒ぐと田舎者みたいな目で

見られるぞ」

 ブラッドが注意すると、マキシが同意する。

「ええ。僕達に比べ、王族や領主はこういった料理を

日頃から食べなれているでしょう。あまりはしゃがず、

会話の時間を作れるように努めたいですね」


 食事もダンスも、それが目的ではなく、それを通して

コミュニケーションを取るツールのようなものだ。

 一目置かれるほどの徹底ぶりを見せなくてもいいが、

小馬鹿にされるような醜態だけは晒したくない。


「あと数日で本番だから、夕方辺りから実際に衣装を

着て、リハーサル感覚で1つやってみましょうか」

 ギルドの今後を左右する可能性さえ秘めたイベントでは

あるが、ひどく楽しそうにミナは言った。


食事を書きたいだけの回だった。

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