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冒険者達の集い  作者: イトー
国王主催パーティー
123/173

ダンスはうまく踊れない

 

 翌朝、宿泊棟の食堂で適当に朝食を済ませた

ユウキは拠点内にある多目的フロアに向かった。

 ここは大勢のギルドメンバーが一同に集う事を

想定して作られた部屋で、ちょっとした体育館

ほどの広さを持つ。


 動きやすい服で来るようにとミナからの指示で

呼ばれた理由は、ここでダンスの練習をする

らしいのだ。


 昨晩も添い寝したアプリコットも呼ばれてない

のにユウキにくっ付いてきている。

「ダンスのれんしゅう?」

「うん。一応形くらいは習っておかないとさ」

「わたし、ダンスおどれるよ」


 アプリコットはそこで、拳を交互に上下に振る、

モンキーダンスを踊った。

「ダンスダンス!」

「そういうのじゃないんだよ。ちゃんとしたやつ」

「えー」

 歩いて行ってしまうユウキを、彼女は手を止めず

に追いかけた。




 ああ、やっぱり彼に習うのか。

 フロアに入ったユウキは、先に来ていたリュウド、

アキノの前に立つ男を見た。


「やっと来たのね。じゃあ、早速始めるから」

 特徴ある口調でその男は言った。


 彼の名はパッション倉橋。

 アフロヘアーにサングラス、浅黒い肌と筋骨隆々の

肉体に、上は素肌にベスト、下は下半身のラインが

分かりすぎるほどフィットしたパンツというスタイル

である。


 彼は、真面目なファーストキャラを使っていた

プレイヤーが完全にウケ狙いのセカンドキャラ

として作ったキャラである。


 本人もまさか、このキャラでログインした時、

こんな事態になるとは思いもしなかっただろう。

 だが今ではキャラが憑依したかのように、日々

生き生きと生活している。


「ノーダンシング、ノーライフ。私の座右の銘よ。

基本だけって頼まれたけど、ダンスを覚える事に

一生懸命になって。いい、一生懸命よ」


 彼の設定は、世界中のダンスをマスターする為に

冒険している異界人、というものらしい。

 それだけに踊り子としてダンスに関わるスキルは

ほぼ最上限まで揃えており、その副産物として

剣や拳法のスキルもそれなりに高まっている。

 踊り子の中でも数少ない、

『神の踊り手』

 の称号を持っている、確かな実力者だ。


 踊り子とは特殊な踊りを踊る事で仲間の士気を

鼓舞し、ステータス上昇効果をもたらす職である。

 その効果はスキルレベルが高ければ高いほど増し、

極めれば最上級補助魔法重ね掛けと同等と言われる

ほどになるのだ。


 踊り子の大部分が露出度の高い女性なので、彼の

ような男性踊り子は少ない部類に入る。

 それだけに、存在そのものが個性とインパクトの

塊と言っても過言ではなかった。


「パーティーのダンスはワルツが定番だと聞いて

るわ。まあ、私の好きな滾るような熱い踊りは

ああいう場には向かないでしょうからね」

「あの、ワルツって言われても、よく分かんないん

だけど」


 シャツにパンツという普段着スタイルのユウキが

質問するが、倉橋は、

「ステップと動く順序だけ覚えれば、初心者でも

それらしい形にはなるから安心なさい。だからと

言って、いい加減な気持ちでやっちゃダメよ? 

ダンスはコミュニケーションなの、誰と組んでも

相手に合わせて踊れなきゃいけないのよ」


「決まった相手とだけ踊るんじゃないの?」

「よほどの理由が無ければ、誘われたら受ける

べきね。あなた達、王族や貴族と交流するために

行くんでしょ? なら消極的じゃダメよお」


 アキノはてっきり、エスコート役と踊れば良いと

思っていたがそうではないらしい。

 彼の言うようにダンスがコミュニケーションだと

言うのなら、誰に誘われるか分からない。


「それじゃほら、まずはあなた達で組みなさい。

あなたは私と」

 倉橋の指示でユウキとアキノ、彼とリュウドが

組み、ダンスのトレーニングが始まった。


 最初はボックスを踏む、四角をイメージして足を

動かしていく練習が始まった。

「あ、これ、結構タイミング、むずいかも」

「一緒に動くのって意外と、あ、ごめん」

 当然だが、ユウキとアキノは足がぶつかったり、

どちらかが先に動いてしまい、ぎこちない。


 しかし倉橋リュウドペアはスムーズだった。

 マスターレベルの倉橋がリードし、リュウドは

武術の足運びをイメージしながら動いている。

 何より、戦士系は運動神経が優れているのだ。



 それから数時間、みっちりと練習は続いた。

 終わる頃には倉橋の手拍子や掛け声でリズムを

取りながら、ダンスと呼んでもいい動きは出来る

ようになっていた。


「ま、基本の基本はこの程度ね。パーティー

参加者の中で1番遅れてるのがあなた達なの、

だから午後も練習の時間を取るわよ」

 はい解散、と手を叩いて、パッション倉橋は

部屋を出て行った。


「結構疲れるもんだな。下手なモンスター戦より

よっぽど体力がいる」

 ふう、と息を吐きながらユウキが言った。


 ダンスは一見優雅に見えるが、リズムに乗りながら

姿勢を崩さずに踊るのは、想像以上に体力と精神力を

消耗するものだ。


「本番でバタバタしていては恥をかいてしまう。

みっともないと思われない程度には踊れんとな」

 そう言うリュウドはダンスをそつなくこなした。

 ぶれない姿勢とリズム感の良さは、武術の賜物か。

 はたまたリアルで習った日舞が影響したのか。


「動いてほどよく腹も減った。テーブルマナーの

練習を兼ねて特別に昼食を準備してくれるらしい。

しばらくしたらリビングで落ち合うとしよう」

 リュウドが出て行くと、部屋にはユウキとアキノの

2人だけとなった。

 アプリコットは途中で飽きて、とっくに出て行って

しまっている。


「もうちょっとだけ、練習しよっか?」

「ん、ああ」

 アキノに聞かれ、ユウキは彼女の手を取った。


 他に誰もいない、だだっ広い部屋で2人はステップを

踏む。

 さっきまでは練習だと思ってやっていたからそれほど

意識しなかったが、体の距離が非常に近い。

 恥ずかしがるものではないのだが、ユウキは少しだけ

気恥ずかしくなってしまった。


「パーティー、実は結構楽しみなの」

 何となく視線を外しながらアキノが言った。

「まだ見てないけど、ドレスも届いてるって。それと、

あの、ユウキに買ってもらったネックレスも」


ユウキが、アキノがドレスと共に身に付けている姿を

見てみたいと思って注文した、例のネックレスだ。

買うにはかなりの決断がいる額だったが、ユウキは

全く高いとは思わなかった。

アキノがとても魅力的な姿でパーティーに参加できる

だろうと、そう考えるだけで自分に納得が行く。


「本番のパーティーで、上手く踊れたらいいね」

「ああ、そうだな」

 今までの中で1番のターンがそこで決まった。


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