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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
120/173

最後の戦い

 

「かわせまい、残迅烈破(ざんじんれっぱ)!」

 残像をまとった変則的な高速移動から、

男は無数の連撃を放った。


 槍ぶすまのような、激しい連続突きを

受けたカーライルの肩、両腕、脇腹が

無残に切り裂かれる。


「ぐぅ!」

 とっさに彼が展開した魔法のバリアの

脇を抜くように、刃が届いたのだ。


 男はヒットアンドアウェイで1度距離を

取ると再び構えを取る。

 カーライルは、ボロボロの上着と血に

まみれたシャツに目をやる。


「まずいな、スーツの心配をしてるどころ

じゃなさそうだ」

 軽口を叩くものの、その表情に余裕は

ない。


 3人は劣勢のまま、戦いを続けていた。

 どす黒い闘気で形作られた残像により、

男にペースを握られ続けている。


 彼等も素人ではなく、数多の戦闘を経験

したベテランであり、ただ手をこまねいて

いた訳ではない。


 相手を捕捉できないのならと、自らの目に

映った相手を追尾する攻撃魔法で狙ってみた。

 だがどれだけ意識を集中させても、残像と

本体の位置が巧みに入れ代わり、その度に

誤認した方へ魔法弾が飛んでしまうのだ。


 リュウドはその変幻自在の動きに短時間で

目が慣れたが、それでも攻撃を当てるのが

やっとで効果的な手傷を負わせられずにいた。


 ムーンウォークのように前に歩いている

ようで実は後退していたり、上体を後ろに引く

姿勢を取りながら急接近してきたりと、意表を

突く男の動作と、彼の後を追うように発生する

残像によって、3人は攻撃の的を絞れないまま

一方的に防戦を続けていた。


「ざまあ無いな……」

 男は嘲笑してから、3人とはあらぬ方を見た。

「そろそろ戻ってくると思ったが。あいつめ、

あの男にやられたか」


「クレアのことか!?」

 ユウキが聞くが、男は表情を全く変えず、

「ソレになりすましていた者の話だ。火傷の跡が

使えると思い、じじいを殺して潜伏場所を作って

やったと言うのに。くだらん情にほだされおって」


 やはりこの男が、毒を盛ってラウドを殺したのだ。

 孫娘に店を継がせたい、という老人の言葉を

私欲に利用したいがために。


「剣に見所があったから目を掛けてやったものを。

何を勘違いしたか、仕事が済めば自由になれると

思い込み、仮の名であの店を経営していきたいと

言い出すようになった。それは適当な嘘を並べて

あしらっておけば良かったが、今度は親しい者は

殺せないなどとふざけた事を」


 ユウキは2人の間に何があったか悟った。

 良心への呵責があったから、彼女はローレンを

殺せずに屋敷を出たのだ。


 クレアが怪しい黒ずくめの男に殴り倒されたと

いう目撃証言は、この男が不甲斐ない彼女に

怒りをぶちまけた所だったに違いない。

 確かに彼女は暗殺者に殴られていたのだ。



「本当に人でなしだな、邪教団の暗殺者は」

 斬られた二の腕の傷を押さえながら、ユウキが

言った。

 手が震えている。

 痛みからではなく、男に対する激しい怒りで。


「老人を殺し、孫娘を殺し……自分達の都合で

好き放題殺しやがって」

「ああ、じじいも孫も俺が殺した。あの教師もな。

だが他は、あの女が手に掛けたんだ」

「そうさせたのはお前等だろうに!」

「身寄りのないガキの有効利用だ。技を仕込めば

邪教団の役に立つ人材になる。素晴らしかろう? 

飢えて痩せ衰えるだけのガキが、教祖様のお役に

立てるのだ」


「子供をリサイクル品みたいに言うんじゃねえ! 

お前はそのクソ理屈で今まで何人を殺した!?」

「何人殺した? 暗殺者にとって殺人とは生活の

一部なのだ。 お前はいちいちクソをした回数を

頭にとどめておくのか? そういう事だよ」


 ユウキは逆上した。

「貴様ぁ! ヒュドラバインド!」

 ワンドを向けると、数匹の大蛇の幻影が男の足元

から現れ、その体を締め付けようと這い上がる。


 だが男はダークダガーで大蛇を切り払う。

 板前が鮮魚を華麗に捌くように、幻影は見事に

スライスされ、その場に散じた。


「怒ったところでお前等に何が出来る!」

 ハアッ! と声を上げると、男は体を捻りながら

跳んで宙返りし、逆さまに落下しながら3人に

襲い掛かった。


天舞蛇蝎刺(てんぶだかつし)!」

 噛み付く蛇のように、サソリの尾が獲物を突く

ように、複数の軌道から刺突が繰り出される。

 男は残像を残しながら空中を舞うように滑り、

3人はその連続攻撃を浴びた。


「うあっ!」

「ぐ、ぬう!」

「ううぅ!」

 3人のHPは確実に減らされていく。

 男の攻撃は無闇に放たれているのではなく、

腕や足を的確に狙い、相手の攻撃力や機動力を

徹底して削いでいく。


 暗殺術と言っても、暗闇から一撃で仕留める

だけが暗殺ではない。

 世界中にある各流派の武術を十分に吸収したで

あろう暗技の源流は思いのほか深い。


 満身創痍とまで行かないが、3人は身動きが

鈍くなるほど大幅に体力を奪われていた。

 ユウキとカーライルは回復魔法の類を習得して

いるが、攻撃が激しいため、それを使うだけの

余裕がないのだ。


「あの教師から学校秘伝の精製法による麻薬精製の

効率的なレシピを引き出せたし、材料を仕入れる

裏のルートも、奴のおかげで十分に確保出来た。

もうここに長居する必要はない──」

 そう言うと男は闘気をダガーへと集中させる。


「しかし、ここを去る前に1つ試しておこう。

教祖様から授かったこの力、場合によっては

不死と言われる異界人の魂を打ち砕く威力さえ

あると聞く」

 お前で試してみよう、と男はダガーの切っ先を

ユウキに向けた。


 刃を向けられたユウキの心中(しんちゅう)は怒り1色だった。

 煮えたぎる腹の中に、もし白い布を放り込んだり

したら、怒りの色で染め上げられてしまうほどに。


 怒りを具体的に語るなら、平然と他者を踏み躙る

男への不快感。

 不条理に殺されていった者達の無念を思うと、

その怒りは更に純度を増していく。


 何とかして必殺の一撃を打ち込みたい。

 だが男はまた、捉えどころのない動きでユウキに

あの刃を突き刺しに来るだろう。


 ──突き刺しに来る。

 自分の近くに踏み込んでから、力強く抉るように。

 そのプロセスを頭に思い浮かべながら、ユウキは

ある反撃を思い付いた。

 あまりにも馬鹿げた着想、いや本当に自分で自分の

頭がどうかしてしまったのではないかと思うほどの。



「さあ、異界人の不死がどの程度か見せてくれっ」

 燃え盛る倉庫をバックに、闘気で黒く彩られた刃を

右手に握って、男は疾駆した。


 ユウキは切っ先の軌道だけに集中した。

 男が目の前に迫り、右手が後ろへと引かれる。

 僅かな予備動作から、迷いのない刺突が放たれた。

 そして、


「ぐはあっ!」

 ユウキが男の手首を押して刃を下へとずらしたが、

ダガーは彼の鳩尾の数センチ下へ突き刺さった。

 剣身が見えなくなる、根元まで深々と。


「ユウキ!」

 リュウドが叫ぶ。

 その声を聞いて、男は満足そうに口元を緩めた。


「急所は微かに逸れたが、もう自力でダガーを

抜く事は出来まい。このまま俺が授かった力で、

その魂を裂いて──!」

 緩んでいた男の口が引き締まった。

 ユウキの左手が、がっしりと男の右手を掴んで

いたのだ。


 しかもその力は尋常ではない。

 筋力に自信のある男が、全く腕を動かせない。

 まるで、手錠できつくロックされているかの

ように。


 男は左手の突きでユウキの顔面を狙うが、その

手も掴み取られてしまう。

 巨人に握られているかと錯覚するほどの力で。


「刺しに来るって事は、どんなに残像を出して

かく乱しても、腕だけは俺に触れるって事だ」

「き、貴様」

「不死ってのは便利なもんだよなあ。こういう、

文字通り捨て身の戦法も選択できる」


 ユウキはこの瞬間を狙っていた。

 パワー系モンスターの宝石でステータスを筋力に

一点集中させ、確実にキャッチする準備を調えて。


「ヘルファイア!」

 ユウキは左手から、特殊技を放った。

 男の闘気にも似た黒い炎が、男の右手を包み込む。


「おのれ!」

 男は右手のダガーを離すと、無理矢理ユウキを

振り解いて距離を取った。


「それは炎魔将軍から覚えた地獄の炎とやらだ。

1度火がつけば、水に飛び込もうと消える事は

ない。腕から這い上がって、体を焼き尽くすまで

消える事はない!」


 ユウキは宣言する。

 この技を使ったのは、容赦なく命を奪うという

果断な対処の表れだ。

 この男を生かしておくわけにはいかない。


「自分の体を囮に、その僅かな機会を狙うとは。

何という(したた)かさよ。これが異界人か」

 男は手を焼きながら肘にまで到達しそうな炎を

意にも介さず、ユウキを称える。


「お前の思い切りの良さへの敬意だ。この腕は

お前にくれてやる」

 そう言うと男は、左手のダガーで右腕の肘から

下を一息に切り落とした。


 義手などではない、生身の腕だ。

 切断された腕は地獄の炎に骨まで焼き尽くされ、

その場で灰となる。


 男は激しく流血する傷口を押さえると、

「度胸のある、面白い男もいたものだ。次に

会った時には、今回の借りを返すとしよう」

 そう言い放ち、先ほどまで登っていた倉庫の

屋根へと跳んだ。


「待て!」

 3人が叫ぶと、男は屋根の上で軽く首を傾げた。

「名乗る名など無いが、このままでは不便だな。

……お前等は俺を殺したいほど憎いのだろう? 

なら、俺の事はヘイトとでも呼ぶがいい」 

 男はにやりと笑うと、片腕を切断したばかり

とは思えない機敏さで走り去っていった。


「ヘ、ヘイト……」

 憎悪を意味するその名を呼ぶと、ユウキは体を

ガクガクと震わせ出した。

 軽鎧を貫かれた傷からは大量に出血している。


「また思い付きで無理したな」

 腹に残ったダガーに手をやりながら、ユウキは

崩れ落ちた。

 自分を呼ぶ声を聞きながら、彼の意識は深い

闇の中へと沈んでいった。



技の命名は北斗の拳や男塾みたいなノリです。

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