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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
117/173

暗殺者2人

 

 偽ファントはほぼノーモーションでナイフを

放った。

「ぐあっ!」

「うげぁ!」


 麻薬の製造者達を袋叩きにしていたファミリーの

メンバーが、5人ほど悲鳴を上げて、倒れる。

 ニードルナイフは彼等の首や喉に深々と刺さって

おり、一目で致命傷だと分かる。


「ぐうぅう!」

「があああ!」

 倒れた者達は苦しそうに喉を掻き毟ると、体を

大きく痙攣させ、すぐに動かなくなった。

 毒、しかも繁華街の時に使われた刃物の物より

格段に毒性が強い。


 吐血と泡で顔を濡らした部下達の亡骸を前に、

ピリオは進退を決めかねていた。

 恐ろしいがここでおめおめと引き下がっては。


 偽ファントは彼等の断末魔と共に地面へと降りた。

 及び腰のファミリーメンバー、ユウキ達と三つ巴の

形が作られる。


「ラルバンさん、ピリオさん達を連れてここを

離れてください」

 カーライルがそちらを見ずに言った。


「ファミリーとしての意地は分かるが、あいつには

あなた達じゃあ、どうあっても勝ち目は見えない。

奴等の製造所は破壊した、街への麻薬流出はこれで

一先ず防げたんだ。それで面子は立つはずでしょう」


 ラルバンは苦々しい思いで頷いた。

 彼等のような界隈では面子やプライドを重視する。

 戦って勝てないにしても、何らかの成果が出たなら

今はそれで良しとする判断も通せる。

 カーライルは彼等独自の精神的価値観に訴えたのだ。


「ピリオ、動ける奴を連れて下がるんだ。あいつにゃ

勝てねえ。これ以上はな、部下ぁ減らすだけだぞ。

頃合を見て、メンバーを抑えるのも幹部の仕事だ」

 ピリオは猛毒でほぼ即死状態だった者達を見て、

「くそ、しゃあねえ。引き上げだ、動けない奴には

手を貸してやれ!」


 彼の舎弟達が、偽クレアの刃物投擲で倒れた者達を

引き摺って撤収を始めると、

「待ってくれよ、ピリオさん!」

 ピリオの部下で、スキンヘッドの男が彼の肩を掴む。

 武闘派の中堅の位置にいる若者、シバヤだ。


「ガルザの兄貴が奴等にやられて、今だってこんなに

やられちまった! ここで何も出来ずに逃げるなんて

俺は、そんなのできやせんよ!」

「聞き分けろ、シバヤ! そりゃ俺だってあいつらを

ぶち殺してやりてえが……命懸けりゃあ()れるってぇ

レベルの相手じゃねえんだ!」

 諭されて、シバヤは短剣を懐に収める。

 だがその目は、隙あらば一太刀浴びせてやる、という

暗殺者への殺気でぎらついていた。



 撤退していくファルロファミリー。

 偽ファントはこれで異界人達が自分に噛み付いてくる

口実が出来たと、ほくそ笑む。


 その彼に、全身ボロボロで青アザだらけの男がよろよろと

近寄っていった。

 麻薬製造のため、金で雇われていたならず者だ。


「うう、助かった。あんたが来てくれなかったら殺され──」

 ヒュッと風切り音がしたかと思うと、男の喉は真一文字に

切り裂かれていた。


 かっ、はっ、と傷から血と息を漏らして、倒れた男が

地面をのたうつ。

「どうあれ、この街での計画はしばらく凍結になるな。

念入りにやったつもりではあったが」

 ぼそぼそ呟く偽ファントは、眉1つ動かさない。


「貴様!」

 ごうごうと燃え盛る倉庫をバックに、ユウキはファントを

名乗っていた男と対峙する。

 リュウドとカーライルもそれに続くが、アスターだけは

まだ隣の倉庫の上に目をやっていた。


 その彼の視線の先で、偽クレアが跳んだ。

 しかし偽ファントと合流せず、倉庫の裏側、こちらとは

正反対の路地へ降りる。

 路地を真っ直ぐに進めば、人通りのある通りへと出る。


「皆さん、すみません! 私は彼女を追います!」

 避難させているとは言え、住民の事を思えば、暗殺者と

分かった偽クレアの後を追うのが正論だろう。


 単なる逃亡か、こちらの分断やかく乱を狙うために、

あえて反対方向を選択したか。

 アスターは真意を掴み切れなかったが、強敵を3人に

任せ、自分が追うのが正解だと信じた。

 何より、この中でクレアと最も接していたのは自分

なのだ。


「仲間がいる可能性もあり得る。気をつけろ!」

 リュウドは彼の選択を黙認した。

 先ほど見たアスターの剣技なら、一対一でなら何とか

なると踏んだのもある。


 ユウキも彼を行かせたいが、不安があった。

「追いつけば必ず戦闘になる。アスター、あなたは

街を守る警備隊員として彼女とは親しく接してきた

はずだ。彼女を前にして、あなたは」


「そう、私は街を守る隊員です。理由があるにせよ、

彼女が平和を(おびや)かす者と分かった以上、抵抗すれば

容赦なく斬る覚悟は出来ています!」

 断言すると、彼は倉庫の裏の路地へと駆け出した。



 偽ファントは妨害する様子もなく、スルーした。

「こちらの思った通りに分かれてくれたな。あいつも

気に入らんが、まずは異界人、お前等だ。お前等の

せいでこちらの計画は水の泡だ。少しばかり頭に血が

昇ってしまってな、痛め付けてやらんと気が済まん」


 ユウキは右手にワンドを、左手にスティレットを持った。

 二刀流スキルを持たないが、スティレットは刃物を

防御するのに必須になるだろうという予想からだ。


「俺達3人を前に、よく上から目線で物が言えるな。

繁華街の時のように行くとは思うなよ」

 各々が数々の戦いを経験し、数多の強靭なモンスターを

倒してきたプレイヤー達である。

 ユウキの発言はそれらに裏打ちされた実力者の言葉だ。


「お前ほどの卑劣漢に私も手心を加えるつもりはない。

腕や足の1本や2本で済むとは思わないことだ」

 リュウドは兼光を青眼に構え、剣気を昂ぶらせる。


「俺も邪教団がここまでの外道だとは思わなかったぜ。

これから俺に焼かれようが凍らされようが、自業自得って

やつだ。恨むなら性根の腐った己の悪行を恨むんだな」

 カーライルは中折れ帽子を深く被ると、広げた両の手に

それぞれ火炎魔法と氷結魔法の塊を浮かべた。



「……舐められたものだ。もう勝った気でいるようだな。

戦いの勝利とは何ぞと、突き詰めて考えれば、目の前の

敵を屠る事へと行き着く。つまり、標的を殺すために

徹底的に磨き上げられた暗技こそ勝利を呼び込む技よ。

受け継がれた暗殺術、そして教祖様から授けられし力を

以ってすれば、お前等など、どうとでもなる!」


 男を腰を落とし、低く構える。

 いつもの脱力ではなく、体の隅々にまで力が(みなぎ)って

いるかのような構えは、とにかく力強い。

 それは音だけで大型車のエンジンと分かるような、

体に伝わる迫力を放っていた。


「では、行くぞ!」

 咆哮を思わせる宣言と同時に、男の体からどす黒い

闘気が放出した。


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