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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
115/173

もう1人の暗殺者

 

 暗殺者はクロークの裾をなびかせ、緩やかな

軌道で着地した。

 ここは倉庫が数件並ぶ場所で、普段は薬品の匂いが

漂っているが、今辺りの空気は一呼吸でむせるほどの

硝煙にまみれている。


 仲間をスローイングナイフで負傷させられ、元々

いきり立っていたファルロファミリーのメンバーは、

懐から短剣を取り出す。


 道を斜めに挟んでにらみ合う形になった両者。

 距離にして20メートルもないだろう。

 頭に血は昇っているが、それでも暗殺者には

敵わないと彼等は理解している。


 なので刃物を出して威嚇し、陣形を組むように

集まった。

 まとまれば下手に切り込んではこられまいと

考えたのだろう。

 ここで数に任せて一斉に襲い掛かったりしない

くらいの理性は残っているようだ。


 ラルバンがピリオに撤収を促そうかと考えていると、

「ここは俺が」

 カーライルが駆け出した。


 暗殺者とファミリーの間に立ち、下がっていろと

手で合図する。

 今の彼はファミリーのバウンサー、用心棒である。


「お前等、下がれ!」

 ラルバンが大声で統率すると、刃物を構えながら

メンバーは後ろへと退いた。



 奴め、相当怒ってるな。

 カーライルはマスクに覆われた暗殺者の感情を

察した。


 彼は、暗殺者との遭遇はこれで3度目になる。

 墓地の襲撃、繁華街での奇襲、そして今だ。

 過去2回は感情らしい感情は感じ取れなかった。

 だが今の暗殺者は体から憤怒の空気を発している

のが、それとなく分かった。


 思考や感情を読まれては、凶手として失格だが、

怒りに震えていてもおかしくはない。

 麻薬やその材料は極端な温度変化に弱い。

 ファミリーが行った爆薬での襲撃で、一部火事が

発生し、器具は壊れ、発送出来る状態になっていた

完成品も全て商品価値を失っている。


 相手はこの襲撃を止めるために出てきたのだろうが

時既に遅し。

 機能不全に陥った麻薬製造所は事実上の壊滅、もう

直しようがないはずだ。


 諦めて逃げ帰ってくれる、わけはないよな。

 カーライルの予想通り、暗殺者がゆらりと1歩目を

踏み出した。

 実体を持たない幽鬼が近寄ってくるように。


 どう攻めてみるかと考え始めた矢先、ウインドウが

目の前に表示された。

 薬学学校へ向かったユウキからの連絡だ。


(今街のマップでそちらの現在地を確認した。煙の

上がった倉庫の近くにいるのか?)


「ああ、倉庫に煙を上げたのはこっちの関係者様だ。

こちらはこれから取り込み中になる」


(取り込み中? こちらは今暗殺者を追ってる所だ。

理由は後で話すが、多分そちらに向かっていると

思われる)


「そっちで何があったか、何となく予想できるが。

しかし奇遇だな、俺もこれからもう1人の暗殺者

とやり合うところだ」


(なんだって!?)

 そこで連絡が切れた。

 正確には戦闘に集中するために、カーライルが

メッセージ受付を一時断ったのだ。


 恐らく向こうの暗殺者は合流するつもりだ。

 ならその前にこいつを叩いておいた方がいい。

「タクティカルビット!」


 カーライルが魔法を唱えると、拳大の光の弾が

彼の両手から次々と生み出された。

 それが縦横無尽に飛び回った後、カーライルの

周りに配置される。


「ここに12個の魔法弾がある。攻防どちらにも

対応できるこの空間を、お前は突破できるか?」

 別々に動くため12個数えるのも一苦労だが、

カーライルはこれらを全て意識下において操作

している。

 魔力コントロールのスキルを磨きぬいた魔術師

だからこそ出来る技術だと言えよう。


 攻防一体の性能を持ち、周囲に浮遊する魔法弾。

 だが暗殺者は恐れを知らない。

 ダガーを構えながらただ愚直に前へと進む。

 まるで恐れないのは、恐るるに足らないという

自信の表れか。


 暗殺者が低い姿勢で加速した。

 カーライルは1つの魔法弾で牽制する。

 縦にカーブする軌道で飛来してきた魔法弾を、

暗殺者のダガーが切り払った。


 シャボン玉が割れるように光弾が消える。

 物理攻撃を1回だけ相殺可能とする機能が

見事に果たされた瞬間だ。


 こんなものでは暗殺者は止められない。

 ほとんど速度を落とさずにより接近を狙う。

 続けてカーライルが操作、正面突撃させた

3発は真一文字に切り裂かれた。


 残り8発。

 更に2発ずつを左右から襲わせるが、両手を

器用に使ってほぼ同時に切り落とされる。

 負けじと今度は3発を足元へと送り込むが、

暗殺者は駆け寄りながらアンダースローの

ようなモーションで、その3発も切り裂いた。


 魔法を操作する僅かな意識のずれ、自分への

注意が逸れるタイムラグを利用して、暗殺者は

カーライルに一気に肉迫した。


「くっ、ラスト1発!」

 胸の辺りを狙って放たれた魔法弾は右手での

一突きで容易く消されてしまう。


 身を守る(すべ)を失ったカーライル。

 このままでは左右から鋭く繰り出される連撃に、

無防備な彼は八つ裂きにされてしまう。

 と思われた、その時、


 中折れ帽のつばを人差し指で上げ、彼は言った。

「さっきここに魔法弾が12個あると言ったな? 

………悪い、ありゃウソだ」


 カーライルが一瞬だけ上に視線を向ける。

 刃を構えた暗殺者が釣られるようにそちらを

向くと、

「!」


 上から3発が降って来て、暗殺者を直撃した。

 最初に発動して飛び回らせた時、マジシャンが

鮮やかにコインを隠すように、3発分を上空に

上げて待機させておいたのだ。


 落下する魔法弾に脳天と後頭部を打ち付けられた

暗殺者はさすがによろけた。

 魔法に耐性のあるクロークとフードであろうと、

急所に不意打ちで受けた衝撃は肉体にダメージが

直接通るようだ。


 こいつは繁華街でやり合った奴じゃない。

 動作も危機感への読みや直感も、数段劣る。

 相手の実力を査定しながら、カーライルは強力な

単体魔法を唱え、すぐさま発動させた。


「ブレイクロア!」

 彼の手から、牙を剥く魔獣の頭を模した魔法弾が

咆哮と共に放たれた。


 大人が両腕を広げたほどのサイズになるそれは、

よろめく暗殺者の上体を飲み込むと、噛み砕くように

グッと収縮した後、大きく破裂した。


 熱を持たない魔力の爆発だが、常人なら一瞬で

上半身が消し飛んでしまうような破壊力だ。

 相手の耐性を考慮した上で、戦闘不能に陥らせる

威力を彼は選択したつもりだった。


 だが──倒しきれなかった。

 暗殺者はその攻撃を受けながらも、大きく後方へ

飛び退き、がくりと片膝を着いた。


 規模は小さいが魔法の破壊力は相当なもので、

耐性を持つはずのクロークとフードはボロボロに

破れ、マスクもヒビだらけになっている。


 暗殺者が何とか立ち上がろうとした時、フードの

一部が完全に破けて地に落ちた。

 すると、晒された頭から垂れ下がるものが。

「!? どういうことだ!? これは」


 フードの下から出てきたのは、亜麻色の長髪だった。



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