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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
114/173

現れた暗殺者

 

 悲鳴ともうめきとも取れる声を漏らしながら、

隊員2人がよろよろと後ずさり、倒れた。

 胸と腹に数本のスローイングナイフが刺さって

いる。


 軽鎧を装備していたが、鉄板の隙間を的確に

打ち抜いた投擲だった。

 道に血が流れ、制服を黒く染めていく。

 急所は外れているが予断を許さない重傷だ。


「くっ、お前が暗殺者だったのか!?」

 ユウキとアキノはとっさに地に伏せ、飛来した

ナイフを回避していた。

 リュウドとアスターも、剣を抜き放ちながら

それらを弾いた。


「全く、面倒な奴等だ」

 ファント、いや暗殺者は眼鏡を外し、投げ捨てる。

 そして姿勢を正して息を1つ吸うと、痩せぎすな

身体が心なしか厚みを持ったように見えた。


「全て順調に行っていた。嗅ぎつけた教師もすぐ

始末した。何の支障もなく、このまま俺達に対する

恐怖が根のようにこの街に広がっていく予定だった」


 暗殺者──男の目付きが変わっていた。

 険のある、殺意がにじみ出ているような瞳。

 一人称も俺に変わり、声も人の良さそうなものから、

腹の底から響いてくる低音になっている。


 男はゴキリと首を鳴らし、

「だが異界人が街へと介入して数日でこのザマだ。

教祖様がおっしゃるように、お前等の干渉は俺達に

とって災厄でしかない。まあ、奴がローレン殺害を

しくじったせいも多分にあるが」


「奴?」

 体を起こしたユウキが聞くが、

「今回はペラペラとよく喋る男を演じていたせいか、

舌がよく回るようになっていたらしい。お前等が

知る必要はない」


「はあっ!」

 ほんの僅かだが、注意が逸れたと見たアスターが

長剣で斬り込んだ。


 男は両の袖から刃物をするりと出すと、それを交差

させ、真正面から打ち込まれた剣を防いだ。

 右にアサシンダガー、もう一方はダークダガーだ。

 この武器は繁華街に現れた暗殺者のもの。


 男は剣を跳ね上げると、右で喉元を狙った突きを

繰り出す。

 アスターはこれを向かって左に受け流すが、左手の

ダークダガーの斬撃がほぼ同時に首筋へ向かってくる。


 彼はそれを剣を立てて防ぐが、今度は受け流した

はずの右のダガーが再度喉に迫ってきていた。

 コンパクトで取り回しの良いダガーだからこそ

出来る攻撃の回転率。

 だがアスターは脇を締め、足元に剣を振り下ろす

要領でこれも弾いてみせた。


 壁を背負っていた男は軽やかに横へバク宙すると、

アスターと一定の距離を取った。


「ほう、右往左往するしか能のない木っ端役人かと

思っていたが。多少は覚えがあるのか」

「それなりにはな。暗殺者が饒舌じゃあカッコが

つかないだろうが、洗い浚い吐いてもらう!」


「……少し褒めると付け上がるのが役人の悪い所だ。

お前などが俺をどうこう出来るつもりか」

 男は両の刃を構えるが、


「逆に聞くが、お前1人で俺達までどうこう出来る

つもりでいるのか?」

 ユウキがワンドを構えて言った。

 リュウドとアキノも臨戦態勢に入っている。


 戦闘力ではこちらが上のはずだ。

 一斉に畳み掛ければ、いかに素早い攻撃が可能な

武器であろうと凌ぎようがない。


 だが男は怯まず、構えを解かない。

「ならば逆に聞こう、どうこう出来ないとでも思って

いるのか? 人を殺める(すべ)、殺人の技をひたすら

練り続けた暗殺団の暗技。侮る者には死あるのみ」


 左手を腹の前に、右手に握られたダガーの切っ先を

相手に向けながら顔の横へ。

 漂う空気を切り裂いているかのように錯覚させる、

緩やかな動き。


 ほんの少し前まで、人の良さげな小市民だった姿は

もうそこにはない。

 研ぎ澄まされた冷徹な殺意を、己の存在理由として

刃に乗せる暗殺者がいるだけだ。



 ユウキは考える。

 ここはどう動くべきか。

 自分が先制するか、それとも2人に切り込んでもらい、

動きを封じてから強力な魔法を当てるか。

 相手は防具を付けていないが、生半可な攻撃魔法では

戦闘不能にさせる事は出来ないだろう。


 いや、理想は生け捕りだが、一切容赦せずに殺すと

いう選択肢も考えなくてはならない。

 一般人や単なる犯罪者というレベルの相手ではない

のだから。


 モンスターなら悩んだりせずに攻撃できるが、対象が

人型だというだけでこうもあれこれ考えるものか。

 ユウキの頭の中に、自己矛盾が漂い出した時、


 ドォン!


 どこかで大きな音がした。

 爆発音だが遊興に上げる花火などではない。

 明らかに攻撃として爆発物を使っている音だ。


 対峙する緊張感が一瞬薄れ、誰もが、暗殺者さえも

そちらの方角を見た。

 街中で、黒く立ち昇る煙。



「お前等の仕業か!?」

 男が叫んだ。

 という事は、暗殺者の仲間が仕掛けた攻撃では

ないらしい。


 あの方向は、店主が変わったという例の店が

借りたという、疑惑の倉庫がある辺りだ。

 誰かがそこを襲撃でもしたというのか。


 チッと舌打ちすると、男はその方角へ走り出した。

 風を切る速さで駆けて行く。

 取り逃がすわけにはいかない、追わねばならないが。


「アキノ、2人を治療してくれ。俺達はあいつの後を

追う!」

「分かった、回復させたら私も」

 治療を担うアキノをその場に残し、3人は倉庫へと

向かった。




 倉庫は一般住民が住む地区とそう遠くない、路地が

入り組んだ地区に建つ2階建てで、奥行きのある

カマボコ型の建物だった。


 リアルの世界でサイズをたとえるなら、少しばかり

屋根の低い体育館と言えるだろうか。

 そこで麻薬製造と完成品管理が行われていたのだ。


「やっちまえや! こいつは、ガルザの仇討ちだ! 

ファルロファミリーの幹部を殺し、シマを荒らしたら

どうなるか分からせてやる!」


 爆発物が所々で爆発し、炎が上がる中、その勢いに

負けないくらいの怒号を上げる男がいた。

 坊主頭の幹部、ピリオだ。


「勘弁してくれ、俺は金で雇われただけで、グガッ!」

 中で麻薬製造を手伝っていたと思われるならず者が

次々と外へと連れ出され、袋叩きにされている。


 表向きは穏やかだと思われるファルロファミリーも

今まで外敵との戦いが無かったわけではない。

 そうした抗争の度に、彼、ピリオのような武闘派が

相手の組織と陰ながら戦いを繰り広げていたのだ。


 何故彼が一見何の変哲も無い倉庫を襲撃できたかと

言えば、この位置をラルバンの舎弟が、ピリオ派の

人間に話してしまったのだ。

 口止めされていたわけではないが、これを機に、

敵を見つけたピリオの怒りは限界に達した。

 つまりファミリーの総意ではなく、彼の独断での

襲撃である。



「派手にやってやがるな」

 カーライルを伴って駆けつけたラルバンは、その

破壊活動に顔をしかめた。

 ピリオの気持ちはよく分かるし、ファミリーに

楯突く連中を叩きのめす事に異論はない。

 彼等は、暴力が一種のルールとしてまかり通って

しまう世界で生きているのだから。

 問題は思っていた以上にやり過ぎている所だ。


 争いに備え、武器を所有しているファミリーだが

爆発物は周囲に影響が出る。

 薬物を扱う街だけあって爆発物も良いものが手に

入りやすく、その破壊力は倉庫をターゲットとして

使用するには過剰だと言えた。


 地域に根付いている組織とは言え、大火事でも

出せば住民の許容範囲を超えるかもしれない。

 ラルバンは一般人と自分達の関係性を心配して

いるのだ。


「いざって時は俺が、冷気魔法でよそへの延焼は

食い止めますがね」

 まるで暴動を見ているような気分でカーライルは

この現状を眺めていた。


 麻薬製造に関わっていた男を囲んで蹴っている

男達に目をやった時、

「うぐぁ……!?」

 数人の背中にナイフが刺さり、その場に崩れた。

 見覚えのあるスローイングナイフ。

 次々にその餌食になり倒れていく男達。


「……巣を突っつかれて、出てきやがったか」

 カーライルの目が投擲者を捉える。


 麻薬倉庫から細い道を挟んだ向かい側、平屋の

倉庫の上にそいつはいた。

 黒いクロークに2つの覗き穴が穿たれたマスク。

 両手のアサシンダガーを鈍く光らせて───

 暗殺者は屋根から飛んだ。



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