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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
111/173

見つけられた毒

 

 その夜、ユウキ達はローレンを病院まで送った。

 下手をすればここに暗殺者が来るかもしれない。

 万が一、毒ガスでも撒かれたら止められるのは

プレイヤーである自分達しかいない。

 そう判断し、彼の検死の作業が終わるまでは、

院内で待機する事にした。


 病院は3階建てで、ちょっとした砦にも負けない

ほどの規模である。

 この街では、薬学と関わりの深い医術も発展し、

療養のために遠くからこの病院に通っている者も

少なくないと言う。


 簡単に怪我を治せる回復魔法があるこの世界で、

何故薬学と医術が進歩したのか。

 ユウキは最初そういった疑問を持っていたのだが、

ローレンから理由を聞き、魔法がそこまで万能では

無いと知った。


 プレイヤーは、掠り傷にでも当たり前のように

回復魔法を使うが、エルドラド人にとって魔法とは

大変高度な能力とされている。


 修練を積んだ者なら使えなくもないが、重傷を

短時間で治してしまうような魔法は相当の熟練者で

なければ習得できない。


 その辺を探せばすぐ見つかるというものではなく、

それこそ大司祭のような高い法力を持つ者に限られて

くるという。


 なので一般的に怪我と病の治療には薬と医術が

用いられる。

 リアルでの医学レベルには及ばないが、この世界

独自の薬草や薬品には高い薬効を持つ物もあると

言い、魔法で痛みを麻痺させながら外科手術を

行うといった例もあるようだ。


 また魔法が効きにくい体質や、外傷は治せるが

病気には効果の薄い回復魔法もあり、魔法さえ

使えば全て完治すると言うわけでもないらしい。


 自分に合った治療方法で症状と向き合っていく

というのが、この世界での一般的な治療である。

 プレイヤーが、ステータス異常とは違う病気に

かかる事があるかはまだ不明だが、世話になる

日が来る可能性はあるかもしれない。



 それと、医術は今回のように犯罪における死因

究明にも必須となってくる。

 ユウキはルイーザ殺害事件の際、リンディに

説明を受けたが、何にどうやって殺されたのかを

知るには検死が重要なのだそうだ。


 モンスターに殺される事もあれば、何らかの

呪術で呪い殺されるようなケースもあるという。

 そういう死因が付きまとう世界なのだ。


 傷口のデータや魔法を受けた際に身体に起こる

現象など、全て検死で記録を残し、必要とあれば

魔法薬での分析などで更に追究を深める。


 ルイーザ殺害事件で、検死で得られた情報から

真犯人を割り出せた事からも、検死の重要性は

揺るぎないものであると言えよう。



 それらを熟知した上で、ローレンはワイズナーの

遺体を調べたいと強く申し出たのだ。

 友人ラウドの遺体に、毒を盛られたかのような

跡を見つけたが、そのまま見過ごしてしまった

ことに後悔を感じていたせいもあるのだろう。


 ローレンは白衣に身を包むと、元同僚の遺体を

前に、死の真相を手繰り寄せる思いでメスを握る。

 街に不穏な空気を流す、邪教団絡みの事件に

通じるヒントが、そこにあるのではないかと

信じて。



 それから数時間後。

 私服姿のローレンが、3人の前に戻ってきた。

「死因はやはり毒を飲んだ事による毒死だね」

「自殺ですか?」

 ユウキが聞くと、ローレンは強く否定した。


「いや。魔法薬で詳細な分析をしている所だが

自殺に使うには特殊な毒物が検出できそうだ。

自ら衝動的に死ぬ者があれを使うとは思えん」


 アキノは多少薬草や薬の知識はあるが、ユウキ

とリュウドにはそういったスキルは無い。

 だが、自殺説を覆すようなものが出そうなのは

彼の表情から分かる。


「明日の朝には結果が出るだろう。アスター

さんに確認してもらえば、今後の捜査に何か

変化があるかもしれない」

 ローレンは納得の行った顔を見せる。


 時間は丑三つ時。

 護衛を兼ね、ユウキ達はローレンの屋敷に

泊めてもらい、体を横にした。




 翌朝。

 9時を回った頃、詰め所には警備隊小隊長の

アスター、検死結果の書類を揃えたローレン、

ユウキ達、カーライルと数人の舎弟を従えた

ラルバンがいた。


「何かあればと言ったが……そのワイズナー

とかいう男がどう死んだのかを聞かせるため

だけに俺を呼んだのか」

 ラルバンが不機嫌そうに言った。


 よく眠れていないのか、目が腫れている。

 ファミリーには、ピリピリとした緊張状態が

継続しているのだろう。


「暗殺者を叩きたいのだろう。なら、捜査に

関わる事には顔を出してもらわなければな」

 アスターは彼にそう言い聞かせると、書類を

持つローレンに、どうぞと発表を促した。


「検死の結果を報告します。彼が毒を飲んで

亡くなった事は確かとなりましたが、自分で

飲んだかについては大きな疑問が生じました」

「疑問?」

 アスターが聞くが、ローレンは無言で書類を

めくる。


「分析の結果、モンスターから取れる毒物を

数種検出しました。ルドゲルネ、レッドソーン、

レガジャスク。これらは強い毒性を持っている」


 前の2つは茨とつるで相手を絡め取り、毒液や

毒花粉で攻撃してくる植物系。

 レガジャスクは1度の攻撃で神経毒や麻痺毒

などのステータス異常を同時に引き起こしてくる、

大変厄介な蛇系のモンスターだ。


「毒性も然る事ながら、この三つは調合次第で

遅効性の毒物を作り上げる事が可能となります」

「遅効性? 自殺した男が?」

 リュウドが問うと、ローレンが受け答える。


「おかしな話でしょう。楽に死ねる毒薬はあの

学校に多数ありますし、そういった毒薬の類を

主に管理していたのは彼、ワイズナー先生です」

「焦って衝動的に死を選んだのなら、遅効性の

ある毒薬など飲むはずがない」


「飲まされた?」

 分かり切った事だがアキノは思わず聞いてしまう。

 その方法も大体分かっているとローレンは答えた。


「毒薬と一緒に、お茶の成分も出てきました。

彼は長時間かかる調合の作業中、時間が空くと

よくお茶を淹れて飲んでいるようでした。毒を

そこに少し垂らせば、毒死させる事は十分可能

でしょう」


「じゃあ、誰でも殺す事は出来たと」

 ユウキが聞くが、

「誰でも、という括りは少し大きすぎる」

 とローレンは言った。


「遅効性と言っても、長くても1時間が限度。

それとそれら3種の毒は大変希少で、学校にも

サンプルとして小瓶に1つずつあるだけです。

何より、その毒は調合が非常に難しい」

「非常に?」

「非常にです」

 アスターの言葉に、ローレンは鸚鵡返しする。


 アスターは顎に手をやった。

「ワイズナーにサインを貰いに行ったという

研究員は薬学より錬金術の研究を中心に行って

いると言うからなあ。じゃあ、ファント──」


「彼の薬学の知識でも難しいのではないかと。

教師でも半分以上は失敗する難易度ですから。

ちなみにファント君はどこの学校を出ているの

ですか? 修めた分野でも知識は変わるので」

 ローレンがアスターに尋ねた。

 アスターが学校の関係者の履歴書を調べたと

いう話を、彼はユウキ達から聞いていた。


 アスターは事件用のファイルから該当している

ページを見つけ、即答した。

「ミルトーの町の薬学学校を8年前に卒業して

いますね。その後は薬師兼研究員として──」


「ミルトーの町? 8年前の卒業生?」

「? 何か気になる事でも?」

「私は8年前、ミルトーの薬学学校でその

『ファント』という生徒に会っているんだ。

だが、だとしたら───」

 ローレンは長く逡巡し、禿げ上がった額に

手を乗せる。


「今いる、あのファント君は誰なんだ?」



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