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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
108/173

水瓶と証拠

 

「な、何事ですか!? これは!?」

 眩しそうに光を片手で遮るようにして、

光源に向き直ったのは、ファントだった。


「ファントさん、あなたも邪教団と関係を

持つ一味だったのか?」

「邪教団? 何のことです? 僕は先生に

頼まれたのでここで探し物を」


 ユウキの問いにファントは混乱気味だ。

 備品室の外には剣や盾で臨戦態勢を取った

警備隊員の姿もある。


「こんな時間に、何を頼まれたのですか?」

 僕だって早く帰りたかったんですけど、と

彼は愚痴でもこぼすように話し始めた。


「僕は調合の研究で遅くなってしまい、他の

教員や研究員はほとんど帰ってしまいました。

帰り支度をしていたら、先生が妙に神妙な

顔をして、今から探し物を頼むと」


「水瓶を持った女性の絵、その下の本棚に

何かあると言われなかったか?」

 リュウドの質問に、彼はその通りですと

素直に答えた。


 ファントの目の前には本棚があり、その上に

水瓶を持った女性の絵画があった。

 なかなか良い絵だが、飾る場所がなかった

のか、額に入ったまま置かれていた。


「僕は初めて知ったのですが、この棚には

長期保存される書類が収納されているそうで。

ここにナンバー等が記載されていない、正規の

書類とは違うものが紛れ込んでいるだろうから

それを探して保管しておけと。見つからない

ようなら、近くにある書類や本を丸ごと全部、

別の棚に移しておくようにと」


 ファントは眉を寄せて、ポリポリと頭をかいた。

「一体どうしてこんな時間にわざわざ、と思い

ましたが、先生がどこか思いつめたような顔で

頼んできたので断る事も出来ず。何かいつもと

雰囲気が違うと言うか、何と言うか」


「焦っていた、ような?」

 アキノが聞くと、そうですねえ、そんな風にも

見えたかも、と彼は返した。


「焦るというか、怯えていたようにも見えました。

心なしか顔色が悪くて、声も震えていたような。

……あの、ところでこの騒ぎは何なのですか? 

警備隊の方々もぞろぞろといるようですが」


 不思議がるファントにユウキは、

「実はですね」

 と切り出した。


「学校名義で器具や希少な材料を買い込んで、

どこかに横流ししていた張本人は、あなたが

助手を務める、ワイズナー先生だったんです」

「先生がそんな事を!? し、信じられない」


「スタイナー先生の自宅に書類の改ざん等を

調べ上げた証拠があったんです。文章で書き

残したものとは違う方法でしたが」


 アスターと数名の警備隊員が部屋を調べた

ところ、証拠書類の類は見つからなかったが、

投影用の宝玉が見つかった。


 投影用宝玉とは一般に出回っているマジック

アイテムの一種で、テキストや画像を取り込む

事ができ、それを壁などに映し出す事も出来る。

 リアルの世界で言う、撮影カメラと映写機に

近いかもしれない。


「隠されていた宝玉に全て記録されていました。

もしかしたら証拠書類の方も存在するのかも

しれませんが、これだけでも十分な証拠です」

「? なら今日学校であなた方を見かけたのは。

先生を捕まえに来たのでは? でも先生は」


「悪いが、偽りの情報を教え、少し泳がせてみる

事にした。邪教団や暗殺者まで芋づる式で一気に

釣れるかも知れないと、アスターが提案した」


「何故先生の不正と邪教団や暗殺者の話が一緒に

出てくるんですか?」

「横流ししていた相手が、邪教団だった可能性が

高いからだ。現にこの辺りで奴等が麻薬を作り、

各地に送っていたという情報もある」


 動揺した瞳でファントがリュウドを見る。

「麻薬と言うのは、最近世界に広まっていると

いう、凶悪な幻覚や心身を破壊する……例の?」

 彼も薬学に携わる者、知識はあるのだろう。


「そうだ。殺された教師は、違法薬物取り締まり

強化を掲げたからではなく、その不正を調べた為、

口封じで消されたという見方が強いのだ。昨夜は

未遂に終わったが、教師のローレンも狙われた」


「そんな。ワイズナー先生がそんな恐ろしい事に

手を染めていたなんて」

 ファントの眼鏡の奥で、目が泳いでいた。

 自分を取り立ててくれたワイズナーの裏の顔を

知り、よほどショックだったに違いない。


「ファントさんに、人目につかない時間になって

探し物をさせたのも、俺達が昼間に告げた嘘を

本当の証拠のありかだと信じたからに違いない」


 助手に授業や実験の準備をさせるのは普通の事だ。

 暗い備品室で1人作業させていても、怪しまれる

事はないだろう。


「ファントさんがここに入ってしばらく探し物を

するのを確認してから、アスターと警備隊員達が

ワイズナー先生の部屋へ行った。今頃捕まって、

連れてこられるはずだ」



「大変だ!」

 突然の大声に、ユウキ達が部屋の外を見ると、

校舎から数人の隊員が走ってくる。

 その先頭はアスターだった。


 ワイズナーの姿はない。

 調合の実験をしていると言っていたが、事前に

悟られて逃げられてしまったのか?


 いや、早い段階で学校に出入り出来る通路には

アスターが私服姿の部下を常駐させている。

 それをそう易々と突破できるはずがない。


「アスターさん、どうしたんですか!? まさか

ワイズナーが既に逃亡した後だったとか」

「違う、教師のワイズナーは──」



「ワイズナーは自分の実験室で死んでいた……」


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