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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
105/173

ローレンと暗殺者

 

「アキノ、行けるか!?」

「行くってどこへ? 重傷者はみんな治療を

終えたけど」

 回復魔法で介抱した怪我人を警備隊の救護員に

任せながら、アキノは立ち上がった。


 ユウキは手に持った飛声石を見せ、

「暗殺者がローレンさんを襲撃しに来たらしい。

向こうからの連絡はそれで途絶えて」


「なんで!? 暗殺者はユウキ達がさっき追って

いったんじゃ?」

「ああ、奴は屋敷と正反対の方向へ逃げていった。

あそこからじゃ、どれだけ足が速かろうとこんな

タイミングで襲撃なんて出来るはずがない!」


「それじゃあ、屋敷を襲ったのは」

「この街に潜む暗殺者は1人じゃなかったんだ」



 また暗殺者が戻ってくるとも限らず、ファミリーの

警護へと戻ったカーライルを残し、ユウキ達3人は

ローレンの屋敷へと走った。


 暗殺者は1人。

 そんな思い込みがユウキの中にあったのだ。

 謎の多い邪教団、人知れずに市井(しせい)へと潜り込んで

素知らぬ顔で街の者として生活する暗殺者。


 忍者で言えば、その地域に長年住んで一般人の中へ

溶け込み、任務を果たす『(くさ)』に近いだろう。

 隠れて信仰する者も多いと言う邪教団ならば、

そういった手を使い、何人も潜り込ませている

可能性は大いに有り得たはずだ。


 それを失念していたと言うよりも、クレアが目撃した

という男の話、墓地での戦いを経て、単独で殺人を重ねる

暗殺者の姿が無意識に頭に焼き付いていたのだ。


 暗殺者が複数人いるとして、その1人が何故、どんな

動き方をしても人目に付き、すぐ目撃者だらけになって

騒ぎが大きくなる繁華街の中心で襲撃を行ったのか。


 そもそもファミリーへの襲撃は、毒ガスを用いたり、

不必要に爆薬を使ったりと、広範囲を一度に狙ったと

考えればおかしくはないが、周囲に攻撃を知らしめて

訴えかけるような部分が多すぎる。


 自分がここにいるぞ、とアピールしているきらいが

どことなく感じられたのだ。

 作為的とも取れる、派手な攻撃の主張。


「陽動だったのかもな」

 だとすれば本命は──。

 ユウキは高級住宅地の路地を駆け抜ける。




「これは!?」

 屋敷の門を開けると、庭に2名の隊員が倒れていた。

 隊員は制服の上に軽鎧、小手と具足というスタイルだが、

防具の施されていない二の腕と両脚に刃物によるものと

思われる深い傷があり、身動きを取れずにいた。


「と、突然塀を飛び越えて暗殺者が」

 体を起こした隊員が呻くように言う。

 彼の目線を追うと、玄関付近でも2人が倒れていた。


 いずれも剣や魔法の技術を持つ警備隊員達であるが、

まるで相手にならなかったのだろう。

 墓地や繁華街でユウキ達が見せ付けられた戦闘力から

すれば、それは仕方の無い事だと言えた。


 自分達の事は良いからと促され、3人は屋敷の中へと

入った。

 残りの隊員達は、何よりローレンの安否は。


 ローレンの邸宅。

 屋敷が立派な造りだと言っても、それはごく一般的な

レベルで言う立派で、大富豪が住むような御殿ではない。

 入った玄関ホールで隊員が1人倒れており、階段を

指差す。


 ユウキ達が護衛中、ローレンがいたのが2階の奥に

ある書斎。

 彼がそれから移動しておらず、暗殺者が居場所に

見当を付けて襲撃してきたのならそこにいるはずだ。


 階段を駆け上がると、廊下に隊員が、壁にもたれて

力なく座っていた。

 足元には飛声石が転がっている。


「ユウキさん、奥へ。ローレンさんを」

 傷は浅くはないが、致命傷は避けられているようだ。

 彼が首を向ける廊下の奥、そこには半開きのドアが。


「ローレンさん!」

 3人が暗殺者との遭遇も覚悟で部屋に飛び込むと、

ローレンの妻と娘が、彼を抱きかかえていた。


 ローレンは肩口から片側の脇腹へと斜めに斬り付け

られたらしく、シャツには正確な斜線を引いたように、

真っ赤なラインが染め付けられている。


「……うう、はあ、はあ……」

 妻と娘に傷を押さえられながら、彼は荒い息をもらした。

 酷い怪我ではあるが、ローレンは生きている。


「アキノ、すぐに回復を!」

 そのユウキの指示よりも早く、アキノは飛び出して

回復魔法を唱えた。


 彼の奥さんと娘にどいてもらい、手を添えた箇所に

温かな光が溢れる。

 魔法とて万能ではないが、出血を抑えられるだけで

生存率は大きく跳ね上がる。


 ローレンの呼吸が徐々に楽になり、青ざめていた妻と

娘の顔にも安堵の表情が訪れた。

 更に念入りに回復魔法を続ければ、心配ないだろう。


「あれは……?」

 リュウドが割れた窓に気付いた。

 ガラスの破片はほとんど室内にはなく、中から外へ

何者かが打ち破っていったようだ。


 この状況では、暗殺者しかいないだろう。

 しかし何故、ローレンを殺し切れなかったのか。

 護衛部隊が暗殺を躊躇させるような大ダメージを

与えたとは思えない。


 かと言って、ローレンは薬学と医術に優れているが、

別に何か魔法を使えるわけでも、剣などの身を守れる

武術を体得しているというわけでもない。

 一緒にいた家族もそういった能力は持っていない。


「……見逃してくれた」

「え?」

「暗殺者は、私を殺さずに去っていったんだ」

 額に汗を浮かばせながら、ローレンはそう呟いた。



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