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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
104/173

暗殺者との再戦

 

 ユウキは飛行魔法で、カーライルの隣に降り立った。

 リュウドも窓のひさしを蹴って、屋根へと飛び乗る。


「さて、形勢逆転となったな」

 二の腕のナイフを引き抜き、カーライルが言った。

 痛みと出血は回復魔法の応用で抑えてある。



 3対1──アキノは欠けているが、昼間の墓地での

戦いと変わらない布陣で向かい合う。

 真正面からやり合えば、取り押さえる、あるいは

袋叩きにする事も可能だろう。


 だが昼間の結果を鑑みれば、暗殺者がこれから

取るであろう行動は簡単に予想できる。

 逃亡だ。


「まったく」

 マスクの奥から、潰れた低い声が発せられた。

 性別年齢を悟られないための特殊な発声法なの

だろう。


「異界人は厄介だ。我が技では完全に殺し切る

ことかなわず。不死とは我らの暗技を根本から

否定する、恨めしいものよ」


 声を出したという事は、コミュニケーションを

取る気がないわけではない。

 ユウキはそう感じ取った。


「今回の件に俺達が絡んできて参ったって事か? 

お前の目的は邪教団の麻薬絡みだろう」

「……異界人は鼻が効くと見える。エサを探す、

痩せ犬のように」


「犬は、邪教団に飼われている貴様だろう!」

 リュウドがきつく浴びせかけた。

 刀は既に抜かれている。


「そうだとも、我らは猟犬。主人の(めい)とあらば

どんな獲物の喉笛にも喰らいつき噛み千切る」

「なら、犬には鎖が必須だよなあ!?」


 カーライルの掌から魔力で繋いだ光の鎖が放たれた。

 それが暗殺者の左腕に巻き付く。

 不意打ち気味に放った魔法はチェーンバインド。

 麻痺属性は持たないが、対象の行動を抑圧する。


「ミミックバイト!」

 続けてユウキが特殊技を放つ。

 半透明のミミックが現れると、右足に噛り付く。

 これも相手の動作を鈍らせる効果を持つ。


 先手で相手の逃亡を阻止できた。

 誰もがそう思っていた。

 術を受けた、当の暗殺者以外は。


 暗殺者は袖から短剣を取り出す。

 剣身はタールのようにどす黒く、そこには呪術の

意味を持つ文字が赤く刻み込まれている。


 右手に持ったそれが振るわれると、魔法の鎖は

粒子を放って切り裂かれ、ミミックのビジョンも

一突きで散じた。


「ダーク・ダガー!?」

 ユウキが目を剥く。

 アサシンダガーより数ランク上のレアな短剣。

 最大の特徴は鎖や重しのような、形として現れる

タイプの妨害魔法を即時キャンセルする性能だ。


 間隙を縫い、暗殺者は駆け出した。

 踵は返していない、低く構えたままユウキ達の

方へと向かって。


 横薙ぎのダガーをユウキは咄嗟にスティレットで

防ぐ。

 しかし擦れ違い様の一撃であるにも関わらず、

体を跳ね飛ばされんばかりの威力だ。


 短剣同士をぶつけ合った反動を上手く生かして、

暗殺者はそばにいたカーライルに蹴りを放つ。

 上体を倒しながら喉元を狙う、プロレスで言う

トラースキックだ。


 中折れ帽が宙に舞う。

 彼はこれを何とか両腕で防いだが、後ろへ転倒

し、(したた)かに背中を打ち付けてしまう。


「イヤァ!」

 青眼から気迫を込めてリュウドが打ち込む。

 暗殺者は両手にダガーを持つと、クロスして

防御し、これを弾いて押し返した。


 武器の強度、戦士の一撃を返す膂力。

 戦うためにその身に備えているものは、やはり

尋常ではないレベルなのだ。


 暗殺者は攻勢に出る。

 両のダガー、そして手首に仕込んだ短剣を使い、

嵐のような連撃を繰り出す。


 対するリュウドは、素早い動きのプレイヤーとの

対戦経験は豊富にある。

 リーチと切れ味を併せ持つ兼光をコンパクトに

使い、攻撃を防いでいく。


 互いに剣を弾き合い、超接近戦になった瞬間、

暗殺者は無数の蹴りを放った。

 モンクのスキル、蹴り足が複数に見えるほどの

高速蹴りを放つ、キックラッシュと酷似した技を

リュウドは胸と腹に受けてしまう。


 そこから派生技の水面蹴りで足払いを狙うが、

蹴りに耐え切ったリュウドはこれをジャンプで

避け、上段から剣を振り下ろす。


 暗殺者は素早く横転してこれをかわすが、

「レイ・シュート!」

 ユウキが魔法弾を背中へ直撃させた。


 衝撃で屋根を転がった暗殺者はそのまま落下

するが、体勢を乱さずに着地する。

 体操競技なら減点しようのない体捌きだ。


 その暗殺者が落ちたのは、毒ガスを投げ込まれた

店の前の通り。

 懸命に回復魔法で治療を続けるアキノに向かって、

奴はズカズカと歩み寄っていく。


 ロッドを持っているとは言え、あの戦闘能力を

持つ暗殺者相手では護身用にもならない。

 それでもアキノは、倒れた2人をかばうように

ロッドを構える。


 暗殺者は威嚇する動物のように、腕を左右に広げ、

両手のダガーで一気に襲いかかる。

 そこへ、


「レイ・シュート!」

 ユウキの魔法弾がまたしても背中へ当たった。

 耐性加工のクロークのため、ダメージそのものは

微量だろうが、これが暗殺者の方針を変えさせた。


 ダガーをしまうと、そのまま駆け出す。

 爆発に巻き込まれた怪我人が倒れ、野次馬で溢れて

いる繁華街の道を。


 何名かの警備隊員が駆けつけていたが、迫り来る

暗殺者の姿にパニックを起こした野次馬達は、彼等を

飲み込みながら道の両端へと逃げた。


 割れた海を行くが如く、暗殺者は通りを駆け抜ける。

「アキノ、この辺の怪我人は任せた!」

 屋根から飛び降りたユウキ達は、追跡を始めた。


 高級なバーが軒を連ねているこの界隈の先には、

安い飲み屋街があり、その先には家族連れが外食を

楽しむレストランが多数ある。


 邪魔だという理由で通行人を切り殺しかねない、

冷酷な暗殺者がその通りを逃げるのだ。

 ユウキとカーライルは飛行魔法を応用して、地を

蹴りながら滑るように進み、リュウドは早駆けの

スキルで逃亡者を追った。



 ユウキはすぐに追い付けそうな気がしていたが、

暗殺者がこの逃走経路を選んだのは理由があった。

 騒動に怯える者、途中でなぎ倒された屋台から

散乱する食器や椅子、それに集まる野次馬達。


 その全ての要素が追跡を阻み、また逃走を助ける

障害物となったのだ。

 それでも追ったユウキ達だったが、細い路地裏を

数回行き来した辺りで完全に見失った。


「土地勘まであるのか、あいつ」

 傷の塞がり切っていない腕を押さえながら、

カーライルが言った。


「昼間は余力を残していたか。想像以上に手強い」

「確かに。なかなか不利になるような場所には

出てこないだろうし」


 アキノが治療を続けている所まで戻ってくると、

警備隊員が駆け寄ってきた。


「あの、暗殺者は」

「すまない、取り逃がした」

「……残念です。こちらは毒や爆発からの避難を

優先させていて、手伝えず」


 世界は違えど毒の散布や爆発物など、リアルで

言うテロ騒動が起きたのと同じだ。

 周囲にいる者の安全確保は警備隊の役目だろう。


 周りに事情を説明したり、怪我人の救助を行う

警備隊員達を見回す。

 ユウキは何となく現状をアスターに伝えたかった

のだが、彼が見当たらない。


「アスターはここに来ているのかな」

「例の教師の、屋敷で証拠を見つけると言って

いたので、恐らくそこから近いレストラン街の

ほうで活動していると思いますが」


 それならそれで構わない。

 向こうには向こうの仕事があるのだろうから。

 そう思っていると、ユウキのポケットの中から

ピーピーという呼び出し音のような音が鳴った。


 遠くの者と会話できる飛声石。

 それをローレン警護からこちらへ駆け付ける際、

残った警備隊員から連絡用に渡されていたのだ。


 携帯電話ほどのサイズのそれに軽くタッチし、

耳に当てると、

「こちらに早く戻ってきて下さい!」

「えっ、急に何が」

「暗殺者が屋敷に、くっ! ぐわあ!」


 ゴトンと飛声石が地面に転がる音がして、そこで

連絡は途絶えた。




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