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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
102/173

カーライルと暗殺者


「暗殺者が聞いてあきれるぜ。バカスカと

派手に毒だの爆薬だの使いやがって!」

 暗殺者と対峙するカーライルが吠えた。




 ほんの数分前。

 ファミリーの用心棒となったカーライルは、

ファルロファミリー御用達のバーにいた。


 場末の安い酒場とは違う、豪華で品があり、

落ち着いた空気が流れている。

 高級なクラブといった風格だろうか。

 スーツに中折れ帽の今の彼には似合っている。


 ゆったりと背をもたれて飲める、革張りの

ソファ。

 窓には、カラフルな色で動物や風景が表現

された色ガラスがはめられている。


 ファミリーのメンバー──彼等は静かに酒を

飲み交わし、幹部の死を悼むという。

 どの世界にでもある、鎮魂の仕方なのだろう。


 カーライルは殺されたガルザを個人的には

何も知らない。

 赤の他人ではあるが、これだけ惜しむ人達が

いるのだからそれ相応の人なのだとは思う。


 周りの話から、なかなか良い兄貴分だったの

であろう、という印象を持ちながらグラスを

傾けていた、その時だった。


 ガシャンと音がした。

 誰か粗相でもしてグラスを落としたか、と

思ったがすぐに窓ガラスからなのだと気付く。


 ガラスに穿たれた数センチの小さな穴。

 何か硬い物が投げ込まれた跡か。

 酔っていないカーライルがそう分析した、

次の瞬間、


「な、なんだこりゃあ!?」

 誰かが声を上げた。

 室内に投げ込まれ、席の下へと転がって

いったものから煙が噴出したのだ。


 紫がかった煙が床を伝うように広まって

いき、誰ともなくむせ始める。

 カーライルはこれを一目で有害な物だと

見抜いた。


 噴き出した煙、ガスが、モンスターが吐く

ポイズンブレスのそれと酷似していたからだ。


「シーリングステイト!」

 ゲホゲホと咳き込みだすメンバーに対し、

カーライルは部屋全体に魔法を掛けた。


 毒を含む、状態異常への耐性を持たせる

補助魔法の1つ。

 エルドラド人にどれだけ効果があるかは

不明だが、たとえ即死するような猛毒で

あっても、重症化は防げるはずだ。


「は、早く外へ!」

 メンバーの1人が出入り口へと駆け出す。

 退路を確保して幹部を逃がさなくては。

 この状況では誰だってそう思うだろう。


 彼もそう考え、ドアを開けて飛び出した。

 酒場の前には、馬車が擦れ違えるように、

 リアルの世界で言えば三車線ほどの幅の

道が通っている。


 後の者が彼に続こうと殺到するが、

「ぐはっ!」

 最初に出た男は小さく悲鳴を上げ、体を

微かに揺らすと、その場に倒れ込んだ。


 勢い余ってその横へと連なって倒れた者達が

見たのは、男の胸から生えた、数本の刃物の

グリップだった。


 飛び出た所を近くから投擲で狙撃されたのだ。

 広がる血溜まりを横目に、慌てて起き上がった

男の胸にも3本の細身のナイフが突き刺さる。


「あそこか」

 外へ飛び出したカーライルは、投げ放たれた

ナイフの軌道から相手の位置を読んだ。


 道を挟んだ、2階建ての店の屋根。

 振り仰いだ彼と、そこに立つ者の視線がぶつかる。

 いや、相手の向けたそれが視線と言えるかどうか。


 2つの覗き穴が穿たれたマスク。

 闇夜との間に輪郭を失わせる、黒いクローク。

 まるで不気味な案山子(カカシ)のように、それ、暗殺者は

下を見下ろしていた。


 注意を逸らさず、一瞬だけ刃物にやられた2人を

見ると、震えながら血と共に泡を吐いている。

 恐らく、スローイングナイフに毒が塗られている。

 傷の深さから見て、助けるのはかなり困難か。

 だが、用心棒役になったからには最善を尽くさねば。


「っ! ミサイルガード!」

 浴びせかけられるような殺気を感じ、カーライルが

魔法を唱えた。

 寸でのところで、飛んできたナイフが弾かれる。


 矢などの飛翔体に限定し、完全に防ぐ障壁を作る。

 体力的に余裕の少ない魔術師は、敵の攻撃ごとに、

身を守る(すべ)を対応させる事が必須となる。


 彼は再度この防御魔法を唱えると、店内から出るに

出られない者達全員にこの魔法を掛けた。

 これで投擲からの被害は抑えられる。


「早くこの場を離れろ!」

 その指示に、ボディガードが幹部達を囲むように

して店を離れた。

 とにかく暗殺者の攻撃範囲から逃れてもらわねば。


 遠ざかっていくファルロファミリーのメンバー達。

 だがこれだけの騒ぎとなると、他の店の中から

様子を窺いに出てくる者達がいる。


「なんだ、火事でも出たか?」

「あれ人が倒れてるんじゃない?」

「あ、おい! 屋根の上に変な奴がいるぞ!?」


 野次馬が増えてくる。

 酒が入っているであろう者達が既に30人近く。

 暗殺者と戦うにしろ、追うにしろ、周りに人が

いては厄介で仕方ない。


「ここから離れろ! あいつは暗殺者だぞ!」

 突然の事に額面通りに受け取れない者が多数いたが、

やばい奴がいるというニュアンスは伝わったらしい。


 野次馬たちが一目散にその場から離れようとすると、

屋根の暗殺者に動きがあった。

 袖からするりと、5センチ弱の球を両の手に下ろす。


 それをしっかり握ると、野球で言うサイドスローの

フォームで走る者達の前方へと連投した。

 球は早くも遅くもない、キャッチボールのような

速度と軌道で地面に到達すると、


 ドォン!


 道幅いっぱいに広がる爆発が起きた。

 空気が振動し、下っ腹に響くような重低音が周囲の

建物を揺らしているかのようだった。


「あいつ、爆薬を使ったのか!?」

 直撃した者はいないが、爆風で地面に叩き付けられた

者達は多数いるようだ。

 道は大きく抉れ、爆ぜ飛んだ破片が周りの店の壁に

めり込んでいる。


 俺1人では捌き切れないな。

 眼下を見下ろす難敵、倒れる負傷者たち。

 実力に自信はあるが、この現状を1人でどうにか

しようと考えるほどカーライルは自惚れていない。


 ローレンの護衛をしていると聞いているユウキ達に、

興奮しながらも極めて手短に応援を要請する。

 それから彼は、近くで血と泡を吐いて倒れる2人に

最大パワーで回復魔法をかけた。


 塞がる傷口がナイフを半分ほど押し出し、真っ青な

顔色にも若干だが赤みが戻ってきた。

「間に合えば、ギリギリ助けられるかもな」


 魔術師ギルドのマスターだけあり、魔法の全般を

会得しているが回復量と効果は、回復系ジョブの

ほうが高い。

 重傷を治すにはアキノの力が必要になってくる。


「ユウキ達が来るまで、逃がす訳にはいかねえ」

 ハッと魔力を集中させて発すると、カーライルは

飛行魔法で飛び上がった。


 彼は射出されたような勢いの跳躍で跳ぶと、暗殺者が

立つ屋根へと降り立った。

「派手にやりやがったな。狙いはファミリーか。

墓地では逃がしたが、今回はそうはいかないぜ」


 カーライルは中折れ帽を深く被り直す。

 暗殺者はやはり、以前と同じように脱力した構えを

取った。


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