プロローグ
ルーゼニアは恵まれた気候と豊かな大地を持つ王国である。
広大なティアス大陸の中央に位置し、主な産業は土地を生かした農業。
隣国とのいざこざは時折あるが、政治は安定し、魔族やモンスターによる侵攻も無く、今の所は概ね平和だと言えた。
国王が治める王都、その賑わう街中に一軒のPUBがあった。
美味い酒と地元料理を味わえる人気店で、今も15あるテーブルとカウンター席の八分ほどが埋まっている。
「そろそろ、帰って出発の準備に取り掛かるか」
テーブルで食後の茶を飲み干すと、ユウキは床に置いたリュックに手を伸ばす。
連れの仲間も倣うように荷物を手に取った。
「ホントに、一体どうなっちまったんだよ」
「まさかずっとこのままなのか」
隣のテーブルから鎧姿とローブを着た男達の声が聞こえてきた。
見回せば、ユウキ達を含めて、他の客も彼等と似たり寄ったりの姿をしている。
「もう1週間だ。未だに、戻れた奴の話は聞かないだろ」
「7日の無断欠勤だぞ。こんなの、会社になんて言えば良いんだよ」
「会社なんて戻る方法が分かってから考えろよ」
「それが分からないからこんな……ああ、くそぉ」
声のトーンから混乱と落胆ぶりが聞き取れる。
その様子を眺めながら、ユウキはもう1度空のカップを啜った。
(この状況で落ち込まない方がどうかしてるよな)
カップの手触り、料理を食べた満腹感、体を預けるとギィギィと鳴る木の椅子。
全て本物だが、数日前までは全てモニターの中の物だった。
そしてユウキも数日前は、まだ日本にいる普通の学生だったのだ。