表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

闇へ

作者: 小林 諒司

多少グロテスクな表現がありますが、描写力ないんでたいしたことはないと思います(汗

 三人の戦士は私たちを守るために、持てる全ての力を使って魔物と戦ってくれた。

 一人ずつ倒れていき、次は自分がやられてしまうかもしれない。それでも彼等は最後の一人の命が尽き果てるまで戦い続けた。

 擦り減っていく心と体、減る所か次から次へと町に押し寄せる魔物。

 それなのに、笑って

「大丈夫、まだやれるから」と、傷だらけの手で頭を撫でてくれた。

 なんでみんなやめろっていわないの?なんで手を貸そうとしてくれないの?なんで傷の手当もしてくれないの?

 包帯を巻く薄く柔らかい指を、剣を握り続けた厚く固い手で優しく握ってくれた。

「みんな自分の事を見ることで精一杯なんだ。だから、周りを見ることが出来る人間が守ってあげなきゃね」

 分からないよ!そのうち分かるようになるさ。泣く子供を綾すように、そっと抱きしめてくれた。



 魔物が町に現れるようになったのは五年前。壁に囲まれた町の中に魔物が現れたことは住民を毎日恐怖に怯えさせることになった。

 三ヶ月程で魔物は姿を見せなくなり、徐々に住民は心の安寧を取り戻していった。

 だけど、一年経つと壁の外に再び魔物が姿を見せるようになった。それも、四、五匹で群れをなして。それでも、高い壁と当時は傭兵を雇っていたから、まだみんな普段の生活を送っていた。

 でも時が経つにつれて、魔物の数は増えていった。殺しきれず、町の中に入ってくるようにもなった。

 傭兵が少ない報酬に見切りをつけて町を去ると、いよいよ住民はパニックを起こしはじめた。それを見た三人が剣を取ったのだ。

 三人の内二人は、夫婦で一時期傭兵をやっていた。もう一人は恋人を守るために、その両親と戦うことを決めた青年だった。

 溢れ出す魔物も彼等には到底敵わず、毎日魔物を追い返していた。でも、やはり三人は三人でしかなかった。 激しい戦いの中、最初に力尽きたのは夫婦の妻の方だった。

 最後に見た生きている姿は、銀の甲冑を身につけて笑っていた。

 帰って来たら弓を教えてあげるわ、そう言って女性にしては筋肉質な腕で後ろから抱いてくれた。服を通して甲冑の冷たさがひんやりと感じられた。

帰って来た彼女は顔中傷だらけで四肢が無かった。

 二人目に散ったのは恋人のために戦う青年だった。

 彼は町に入ってきた魔物から少女を助けるために餌食になった。少女は魔物見たさに家を出ていた。

 彼は右手首だけになって帰ってきた。

 残った夫婦の片割れは六時間休む事なく戦い続け、最後に魔物の死体と血溜まりの中で自ら命を絶った。腹部を貫いていた剣の刃は刃毀れしていて、とても戦えるような状態ではなかったという。



 柩に納められ、父のもう開くことのない目は静かに眠っているかのように閉じられ、もう話すことのない口はなんだか笑っているようにも見える。蓋がされ、母と私の愛した人の墓の間に埋められる。

 私は耐え切れず、その場を後にし家へと向かった。 父が座っていた椅子に腰を掛け、部屋を見渡す。父からはこんな風に見えてたのか。母と愛する人の席にも座り、同じように眺める。

 天井に吊られたランプの光が涙で滲む。拭うこともせず、頬を伝い零れる涙も気にせず、声も上げずに涙の流れるままに泣いた。

 突然、光が消えた。同時に辺りには何も見えない暗闇が広がる。声を出そうにも喉がヒューと鳴るだけで、あるのは手の感触だけだが、動かすことは出来なかった。

 足の感覚が無いことに気付いた。しかも、徐々に下の方から感覚が無くなっているようだ。下半身を奪われ、腹、手、胸、腕と消えていく。そして、頭も飲み込まれ、意識も薄れていく。私死ぬのかな。でもこれであの人の所に……。



 気付くと目の前には黒いスカートがあり、そこに涙のシミをつくっていた。

 手と足があることを確認し、顔も触ってたしかめる。

 外はもう日が落ちて暗くなっている。どうやら結構な時間を眠っていたようだ。

 ふと自分の心の中に黒い感情が芽生えているのに気付いた。それは急速に膨らみ、体を熱くしていく。抑え切れない衝動が体を支配し、両手に母と恋人の剣を持たせる。

 いつの間にか走り出していた。剣の重みを苦に感じることは無かった。

 散歩をしている小太りな男に出会った。男は私を見ると、顔に恐怖を浮かべ来た道を走り出した。私はそのあとを追い、二本の剣で切り付けた。短い断末魔と血飛沫は私を快楽へと誘い、快楽は再びそれを求めさせた。

 すぐさま近くの家の扉を蹴破り、寝ている男と女を斬首する。奥のもう一つのベッドから男の子が起きてきた。両親にすがる子供を背中から突き刺した。素晴らしい感覚に叫び声を上げる。それは大型の肉食獣の鳴き声に似ていた。



 すべての住民を殺害し、血を浴びると衝動は治まり、比較的冷静に考えることが出来るようになった。しかし、マトモでは無かった。

 自分が人外の存在になってしまったことは、不思議とすぐに受け入れることが出来た。

 住民を殺したことに後悔も無かった。私は彼等が許せなかったのだから。

 それとあの言葉の意味がやっと分かった気がする。彼等は力を持たない脆弱な人々だった。力を持つ人間を矢面に立たせ、自分達は安全な場所に身を隠すしか出来なかった。だから守るなんて言ったのでしょう? でも間違ってた。あんな奴らを生かす必要なんてない。だってあなたや父と母を殺したのは奴らなのだから。

 仇はとったわ。これであなたの元へ行ける。でも……。


「デモ……マダ、タリナイ」

読んで頂きありがとうございます。感想やアドバイスなど頂けると嬉しくて昇天します(笑

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 私の恐ろしさと悲しさ、狂気がすごく伝わってきました。 この『私』とお話の舞台を具体的にイメージするのが難しかったです。それで感情移入できない部分がありました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ