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俺は何処にでもいる普通の高校生だった。

何時の頃からか不思議な現象に悩まされている。


朝、目が覚めると日付をチェックするのが日課だ。

何年の何月か、何日であるか。

「よし、戻ってない」

携帯を開けて確認する。良かった。今日は昨日から続く一日だ。


ループしている。

今の状態はこうとしか言いようがなかった。

最初のときはすぐに気づけずに普通に学校に行った。

それで多分、上級のクラスに入ろうとして友達に止められた。どうして『多分』なのかは実際には覚えてなくて、やらかした時に既視感として思い出したからだ。

戻ったのが小さな子供のころでなくてよかったと思う。

いや、制服とかなかったらもっと早く気付けただろうか。その時期に戻れないからわからないけど。


リアルな夢を見たんだと思い込んでいた。

おかしいと気付いたのは気に入っていた漫画やゲームの内容が『知っている』ものだったから。


期間は長くて二年。

ごくごく稀に一月ひとつきとか数日だけ戻ることもある。

自分以外は誰も覚えていない。

とはいっても、全部を覚えているわけじゃない。ただ繰り返されるからなんとなく覚え易くなるだけだ。


自分のすぐ近くで試せることは大体試した。

ゲームならフラグを立てたり、クリアしなければいかないことがあるはずだと思って。だけど少し変えたところでほとんど変わることはなかった。

事故など何が発端になっているのかわからないものは止めることができなかった。

テストの内容も同じものが繰り返されるからだいたい覚えてしまった。

期間は空くかもしれないけれど何度も何度も繰り返されればさすがに俺だって覚える。

途中何度目かは満点を取ってみたりしたが、だんだんと面倒になってやめた。

あんまり勉強のできなかった俺が急にできるようになれば、皆にどうしたんだって突っ込まれるのが本当に面倒だった。

それに長くても二年経てばリセットされるのだ。

それも何が切っ掛けになっているのかも、わからない。


いつも一緒にいる幼馴染に打ち明けて、原因を探したこともあった。

こんな奇抜な話なのに真剣に聞いてくれて、協力してくれてすごくうれしかった。

だけど、いつ来るのかわからないタイムリミットに間に合わず振り出しに戻った。

覚えているのはやっぱり自分だけ。


荒れに荒れまくって不良みたいになったこともある。

何もする気が起きなくて部屋に引きこもったこともある。

どんなふうになっても戻ってしまう。

やり直すことはできるが先に進めない。それがすごく辛かった。

家族に八つ当たりしたり心配かけたことによる罪悪感も半端ない。

その時ばかりはやり直せることに感謝した。

やっぱり何とかするしかないんだ。何とかしなくちゃ。このままじゃダメだ。


十回を超えて数えるのをやめたころ、少しづつ日数が短くなっていることに気付いた。

始まる日は同じだけれどリセットされる日が一年ほどに。

十六から上にならなくなった。


「行ってきます」

そのころから休日になると俺は一人出掛けるようになった。自分の家の近くから行ったことのないところへ。

(今日はどこに行こうか)

小遣いだけではたかが知れているから移動手段はもっぱら自転車か電車。

泊まることもできないから日帰りできるように時計や時刻表とにらめっこする。

スマホ様様(さまさま)だ。

こんなことで本当に何かを見つけることができるのかわからないが何もしないよりはましだ。と自分に言い聞かせるようにして。


この辺りでは一番大きな駅の近く。表通りは人も多いのに二つばかり裏道に入ると一気に閑散とする。

よく来るわけではないが似たような場所をうろうろしていれば、なんとなくでも「いつもと違わない景色」なのだとわかってくるものだ。

今日も空振りか。と空を仰ぐ。天気が良すぎて空の青と雲の白さが目に染みた。

いつ分岐点があるかわからないから他に行くか日を改めて訪れるかは悩むところだが、こういった作業は地道すぎて自分には合わないとつくづく思う。

本当に調べつくすつもりなら毎日同じ場所にずっといることが必要になるだろう。

(せめてメモでも残せれば楽なのに)

頼めばつるんでたダチも、いつも喧嘩ばっかりしてるけど仲はいい腐れ縁の奴等だって付き合ってはくれるだろうが、あの日に戻ってしまった時の幼馴染に忘れられて辛かったことを思い出すと二の足を踏んでしまう。


薄いグレーの服の男に出会った。

普通にすれ違ったのに何か違和感があって思わず体ごと振り返って、まじまじと後姿を見てしまっていた。

急に気づいた。髪の色が黒いのに光の加減か緑がかって見える。少し変わっているなと思った。

視線に気づかれたのか立ち止まった男が肩越しにこっちを見た。

そのままぎろりと睨まれる。

「じろじろ見てんじゃねぇ」

やばい。こういう薄暗い雰囲気の場所(いや夜になれば賑やかで如何わしい場所になる)だからこそ柄の悪いやつがうろついていてるものなのだ。

初見がそんな感じでなかったから油断した。

「す、すんません」

慌てて視線を逸らす。


襟首を捕まれ持ち上げられた。背は俺より高くて足が届かなくなる。細身そうな体のどこにそんな力があるんだ。っていうか首締まりそうでやばい。

ギリギリと

何がフラグになってるかわからないといっても些細な事で――それもこれは言いがかりに近い――こんな目に遭うなんて。


「……思ったより早かったな。空気の読めない奴等だ。お前、運が悪いな」

何処か他所を見てつぶやいた彼だったが、最後の台詞は俺を見て言った。


音はなかった。

ただゾクリと背中に気持ち悪くなるような悪寒が走る。寒くもないのに。

「なんだ、これ……?」

男の視線の先には黒い靄みたいな、影のような渦巻くものがあった。

彼は俺を投げ落とすと薄いハーフコートの内側から携帯みたいなものを出して何か声をかけながらその暗く淀んだ影の周りを包むように細い針のようなものを投げる。

空間が歪み、彼が滑り込んだ先に巻き込まれた俺が見たものは、その渦から出てこようとするドロリとした半透明の、アメーバのような生き物の姿だった。

何時の間に現れたのか一様に同じ眼鏡をかけた彼の仲間達に保護されながら分かったことは。

その化け物が〈クラゲ〉と呼ばれていること。

それと戦っていること。


みつけた。

とうとう見つけたんだ、と俺は思った。


〈クラゲ〉は何匹もいて、大きさは俺と同じ高さのものから手の平くらいの奴がいた。

「気を付けて! あいつらの粘液はなんでも腐らせてしまうの!」

オレンジ色した髪の女がその小さいやつを踏み潰しながら教えてくれる。

その向こうでグレイの服を着たあの男が何処から出したのか武器を手に持ち、大きめの〈クラゲ〉に飛び掛かっていくのが見えた。

それは自分が知るより二倍は長い太刀で、ものすごい速さで〈クラゲ〉の肉を切り裂いたかと思うと飛び退き様体を捻るようにその裂いた中に何かを投げつける。

ドンッ。

鈍い音が控えめに鳴り〈クラゲ〉がぶるりと震えた後、でろりと崩れた。

彼はバシャリと太刀に何か液体をかけると次の〈クラゲ〉に向かって行く。

二匹目。三匹目。あっという間だった。

(なんだあれ。すげぇ)

戦う彼の強さと格好良さに目が離せなかった。

「班長! 準備完了しました!」

丈の短い白衣の男が彼に声をかける。

「! 退却しろ!」

「「「了解!!」」」

動けない俺は引きずられるようにして後ろへ下がらせられた。

拳大ほどの青白く光る球が黒い渦へと吸い込まれていく。

違う。どちらかと言えば光る球に渦が吸い込まれていくみたいに見える。

光は膨らみ一瞬爆発するみたいに眩しくなって。消えた。

「……状況は?」

「〈クラゲ〉殲滅完了です」

「よし。撤収するぞ」

「あの、この子は?」

ぼんやり座り込む俺の後ろで話が進んでいく。


車のクラクションの音で何処か遠くに行っていたらしい意識が戻った。

もうすぐ夕方で人通り増えてきたのか、俺の傍を通る奴が時々胡散臭げな視線を向けながら通り過ぎて行く。

……気が付いたら一人、道路の端に膝を抱えるように座っていた。

あんなに待ち望んでいたはずなのにあんまりにも夢みたいな出来事について行けなかったんだ。


しばらく彼を探しにそこへ出掛けたが、会うことはなかった。

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