06脳細胞
レトロネットワークの構築から二年が経った。
脳細胞の分裂制御プログラムとアポトーシス制御プログラムが完成した。
プログラムを塩基配列にコンパイルする。エンターボタンを押せばレトロネットワークがDNAを書き換えるだろう。
失敗が怖い。
自己が保てなくなる程の変質は死と同等だ。
バックアップを取る事を考えたが止めた。
コピーされた人格は果たして自分自身といえるのか。
これまで読んできた小説でも、度々出てきた問題だ。
例えば自分のクローンは自分自身といえるだろうか。これはいえない、と断言できる。脳が分かれているからだ。たとえ同じ人格を持っていたとしても、自分自身はここで思考し観測し自我がある自分だけだ。
ではデータ化された人格はどうか。データ化されればいくつものコピーを作ることが出来る。そうなればどれが自分自身といえるのか分からなくなる。
故に今回のバックアップの方法として、クローン作成とデータ化は却下した。
他にバックアップ案として脳内にバックアップ領域を作るというものもあったが却下した。仮に失敗してバックアップ領域から復旧したとして、それが自分自身であるといえる自信が無い。
まあ、失敗しなければ良い話だ。
ここで止めたら不老不死にはなれない。
俺はエンターボタンを押した。