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ソウルブレイダー  作者: けすと
第二章 異能者
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 翌日、朝早くに校長室で経過の説明を受けてから、直哉は教室に向かった。校長の話では、超知覚能力者の協力は取り付けたが、到着にあと数日かかるとのことだった。

 念のため確認してみたが、やはり昨日の失踪者はなし。今までのペースから見れば、今日には犯行に及ぶはずだ。

 ただ、全ての犯行は校内で行われた、とする推測も証拠があるわけではない。校内で張り込む自分をよそに、帰宅中の生徒がさらわれる可能性もある。

 だが、そうなったらそれまでだ、とも直哉は考えていた。

 もとより、一人で全校生徒を監視するのは物理的に無理だし、自分は生徒の護衛を依頼されたわけではない。誘拐を本気で防ぎたいのなら、もっと多くの人員を導入すればいいのだ。

 そもそも姉も自分も、荒事の解決を主とした便利屋である。調査という名目ではあったが、要するにこれは、誘拐犯をとっちめろ、という依頼のはずなのだ。

 本当の意味での調査──証拠の分析や、犯人の特定──などは神社本庁の方で進めていると思っていたのだが、どうも動きが鈍い。超知覚能力者への協力依頼も、遅きに失している感が否めない。これも内部犯の可能性が影響しているのだろうか。

(何にせよ、今日の放課後だな)

 そう考えつつ、直哉は二年一組のドアを開いた。

 かなり早い時間だったのでまだ誰もいないと思っていたのだが、一人いた。

 教室最後部、左端の席に座る女子。斉木静音である。

「…………」

 静音は席に座ったままこちらを一瞥すると、すぐに顔を背けた。

 非常に気まずい。席が隣なのでなおさらだ。

 直哉は鞄を机の横にかけると、一応挨拶をすることにした。

「あー、おはよう」

 無視されると思っていたが、静音はこちらを向き、

「……おはよう」

 と返した。いやいやながら、という心の内があからさまに表情に出ていたが、それでも意外すぎて直哉は目を丸くした。

「……なんだ、その顔は」

 不機嫌そうに静音が言った。

「いや、返してくるとは思わなかった」

「受けた挨拶を返さないほど、わたしは非礼じゃない」

 むっつりとそう言うと、静音はまた顔を背けた。

(転入生に資料集を貸さないのは、非礼に入らないのか……)

 思いはしたが、口には出さない。手早く鞄から筆記類を取り出す。

 その途中、ふと目に入るものがあった。静音の机の左脇に置かれた、大きなボストンバッグだ。何かがぎっしり詰まっているらしく、パンパンになっている。

(……?)

 気にはなったが、それ以上は見なかった。


 何事もなく、無事に放課後となった。

 既に昂は部活に行っており、光も委員会の仕事とやらで早々に教室から出ていった。

 続いて直哉が席を立とうとすると、沙耶が近寄ってくる。

「直哉君、今日はこれから暇? クラスの暇な連中とどっかに遊びに行かない?」

 両手を腰の後ろに回し、首をかしげて聞いてきた。

「ああ……悪い、ちと無理だ」

「えー、転入してきたばかりなんだし、一回みんなと遊ぼうよー」

 直哉は頬をかいて、ばつが悪そうに、

「転入手続きの関係で、ちょっと職員室に用事があるんだ。悪いな」

 もちろんそんな用事はない。適当に真実味のある言い訳を言っただけだった。

「そうなんだ……。じゃあしょうがないね」

 残念そうにする沙耶を見て、さすがに罪悪感が募る。

「気い使ってくれてありがとな。また今度誘ってくれ」

 そう言って、直哉は教室を後にした。


 それから数時間後。星川光はようやく委員会での作業を終えていた。

 教室の窓からは、地平へ追いやられた夕焼け空と、淡いグラデーションを経て下りつつある夜の帳が見えた。

「星川さん、お疲れ様」

「お疲れ様です、先生」

 長い作業が終わりほっとするも、一緒に残っていた中年の女性教師は、やや心配げな様子だった。

「待っててくれる友達、まだ来ないわね。大丈夫? 先生が車で送ろうか?」

「ありがとうございます、先生。多分、部活が終わるのが少し遅れてるだけだと思うんで、大丈夫です」

「それならいいんだけど……。一応その子が来るまで、ここで一緒に待っててもいいかしら?」

 やはり失踪が相次いでいるこの状況で、生徒を一人にするわけにはいかないのだろう。 光は微笑んで頷いた。

「もちろんです……あ、でも、遅い場合は練成館まで来てくれって、言われてたんでした……」

「あら、武道部の子なのね。それじゃ練成館まで──」

 教師がそこまで言いかけた所で、教室の扉が開いた。

「ういーす、お待たせ」

 若干くたびれた様子の、昂だった。

「お疲れ様、昂君。それじゃあ先生、お先に失礼します」

「はい、さようなら。今日はもう他に残ってる先生もいないだろうから、気をつけてすぐ帰るようにね」

「はい、ありがとうございました」

「お先に失礼しまーす」

 光と昂は教師に挨拶をして教室を出た。

 廊下を渡り、昇降口へと続く階段を降りる。

 既に外は暗くなっており、時間のせいか校内の電灯も落とされていた。

「すっかり暗くなっちゃったね」

 下駄箱で靴を履き替えながら光が言った。

「そうだなあ。まぁ俺は部活終わったら、大体この時間だけどな」

 校内から外に出る。

 昇降口から校門へ続く道を、グラウンドのフェンスを横に見ながら歩く。

「それにしても、転入生の直哉君、何か面白い人だよね」

「ああ……一見ぶっきらぼうだけど、真面目そうな奴に見えたんだけどなぁ。初日でもう台無しだったわ……」

「初日って、体育の? 斉木さん、あの時顔真っ赤にしてたよ」

 光は静音の顔を思い出した。

 羞恥と屈辱の混ざった、怒りともとれるような複雑な表情。

 一年生の頃から、斉木静音はその美貌と怜悧さで、皆の注目を集める存在だった。

 容姿に惹かれて言い寄ってくる男子をことごとく冷たく袖にする姿は、男子だけではなく一部の女子すらも魅了しており、ファンも多いときく。

「直哉も斉木さんにあんな顔させるとは、いい度胸してるよな」

「でも、昂君と直哉君、なんだか馬が合いそう」

 光は自分の事のように嬉しそうに言った。

「んー……確かに違和感無く話せてるな。それより光、お前あいつの体見た?」

「えっ、あ、違うよ! なんかみんながそっちを注目してたから、わたしも見たら直哉君が裸になってて……。別に裸を見ようとして、見たわけじゃないよ!」

 顔を赤くして取り繕う光。

「何勘違いしてるんだ、バカ。あいつの体つき、ちょっと剣術やってるとかいうレベルじゃなかったぞ」

「え? 体つき? ……そんな所までじっくり見てるわけないよ!」

「何怒ってるんだよ……近くで見たから分かるんだけど、あれは相当実戦向けの筋肉の付き方だな」

 昂も隣の席の距離でじかに直哉の体を見て、初めて気付いたのだろう。

「でも、直哉君、自分で『社会勉強組』だ、みたいに言ってたよ?」

「にしては、ずいぶんガチで鍛えてるみたいなんだよな……」

 納得の行かない顔をする昂を見て、光は少し考えてから口を開いた。

「昂君、直哉君も色々あるんだと思うよ」

「まぁ、この学校じゃ訳ありじゃない奴の方が少ないしな。色々と詮索するのは良くないか」

「うん、そうだよ」

 話題がしばし途切れ、二人が校門に差し掛かった所で、光が声を上げた。

「あ、宿題教室に忘れてきちゃった……」

「なんだ、宿題くらい明日学校に来てから誰かに写させてもらえよ」

「昂君じゃないんだから、わたしは家でちゃんとやるんだよ。ちょっと取ってくるね」

「わざわざ取りに戻るのか。しょうがないな」

 来た道を戻り始めた光を昂が追おうとすると、

「ちょっと取ってくるだけだから、大丈夫だよ。そこで待ってて」

 光が振り向いて言った。

「んでも、もう先生もみんな帰って校内誰もいないし、真っ暗だぞ」

「へいきへいき、すぐ戻るから」

 そう言って、光は校舎へと小走りに駆け出した。


 下駄箱で靴を履き替え、階段を駆け足で上がる。

 二年生が使う三階まで一気に駆け上り、渡り廊下を走って、教室へ。

 教室に入った光は、まっすぐと自分の机へと向かった。

 無事に自分の宿題を見つけ、安心したのか、光はふう、と息をついた。

(待たせちゃってるし、急がなくちゃ)

 教室を出て、階段へと続く渡り廊下を進んでいると、階段の少し手前に人が一人立っているのが見えた。

 シルエットからして女性だろうか。タイトなスカートのダークスーツを着ている。

 光が一瞬立ち止まると、女性が口を開いた。

「あら、放課後は一人で行動しないよう言われていなかったかしら?」

 女性の口元が笑みの形に歪むのを、光は見た。

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