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ソウルブレイダー  作者: けすと
第三章 追撃
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「お前……何でここに!?」

「それは話すと長くなるっていうか、なんていうか……」

 昂の言葉に、沙耶は気まずそうに目をそらす。

「どういうことだか説明してもらおうか」

 直哉が問う。

「う、うーん……」

 目を泳がせてしどろもどろの返事をする沙耶。

「答えないなら、星川さんをさらった奴らの仲間と見なすぞ」

「え、光がさらわれたの!? いつ!?」

 沙耶は血相を変えて、逆に直哉に問いただした。直哉はやや面食らって、

「つい数分ほど前だ。女と男の二人組みにさらわれた」

 それを聞いて、光の顔が曇る。

「そんな……じゃあ、あれは光だったの」

「お前、光が連れ去られるのを見てたのか?」

 沙耶の呟きに昂が反応した。

「男が誰かを担いでるのは見えてたんだけど……」

「見えていた? どういうことだ」

 再度、直哉が問い詰める。

「待てよ」

 そこに昂が割って入った。

「望月が誘拐犯の仲間なんて事は、絶対にない。俺とも光とも、入学した時からの付き合いだからな」

 直哉はしばし昂の顔を見た。

「分かったよ。じゃあ、まずこっちの事から話す。だから望月もここにいた理由を教えて欲しい」

 沙耶はまだ迷っている様子だったが、しばしの黙考の後、決心したように一回頷いた。


 事情をつまびらかにすると、沙耶は納得したように呟いた。

「そっか、直哉君は神社本庁の依頼を受けてたんだね」

 直哉は自身の素性に関しても、その中で話していた。昂も静音も驚いてはいたが、同時にどこか納得もしたようだった。

「何かしらの目的があっての編入だとは思っていたんだけど、敵じゃなくて良かった」

 やはり通学中に話しかけてきたのは、さぐりを入れる目的だったのだろう。

 沙耶の鋭さに内心舌を巻きつつも、直哉は本題に入った。

「納得したなら、教えてくれ。何でここにいたんだ?」

「分かった、話すね。まず、わたしも学生の身分の他に、もう一つ顔があるの」

 そこからの沙耶の話は、思いもよらぬものだった。

「法務省外局、公安調査庁。本来はテロ活動とかの調査分析が仕事なんだけど、最近になって神社本庁と警察庁が手を組んだのを受けて、新しい部署が作られたの」

 直哉は神妙な顔になった。

「最近、警察とセットで本庁絡みの能力者が出張ってくるのが多いのはそのせいか」

 沙耶は頷き、

「目的は大規模な霊的災害や、それに類する事を引き起こそうとする団体への調査と対応。そして、わたしはその部署に所属するエージェントってわけ」

「で、そのエージェントが、夜の学校で何をしてたんだ?」

 昂が腕を組んで言った。

「順を追って話すね。以前から中国系の能力者が日本国内で何かを計画している、っていう情報をわたしたちは掴んでいた。具体的な内容は不明だったけど、目撃情報なんかから、どうもこの学校の失踪事件に関わっている可能性が高い、って事が分かったの」

 沙耶はさらに続ける。

「それで、わたしに失踪事件についての調査の指示が来た。わたしがこの学校で生徒やってるのは、個人的なことで今回の事件とは関係なかったんだけど……そりゃ、たまたまその学校で生徒やってる職員がいたら、調査指示くらい出すよね」

「そこまでは分かった。ここに居たのも、その調査の関係でってことか?」

 直哉が言った。

「うん。わたしも調べるうちに、内部犯を疑うようになった。それで校内での犯行に的を絞って、放課後は気配を潜めて校舎に隠れていたんだけど、それでも犯行を確認することができなかった」

「それで、今日になって初めて動きがあったってことか」

 直哉が言うと、沙耶は頷いた。

「まず、不審な車が学校に向かってるって連絡があったの。それでわたしは校門あたりで隠れていたんだけど、校舎の方で爆発音みたいなのが聞こえてきて……」

 静音と争っていた時のだな、と直哉は思い返した。

「様子を見に行こうかと思ったんだけど、実際に車が校門に現れて停車したから、それの確認ですぐには行けなかったの」

「あの女が言っていた、迎えの車か」

 静音が言った。

「そうだと思う。ちょっと車に細工をしてから待ってると、校舎から二人組が出てきたの。その時に大男が、誰かを担いでるのは見えてたんだけど──今思えば、あれが光だったんだね。……ごめん」

 そう言って、沙耶は俯く。誘拐犯をみすみす見逃したことを言っているのだろう。

 主に光の幼馴染である昂に対しての謝罪なのだろうが、直哉にしてみれば責める筋合いはない。自分もミスをして、犯人たちを逃してしまったのだから。

「いや、判断は正しかったと思うぞ。相手は二人だし、片方は厄介な術者だ。下手したら殺されてた。それに、さっき言ったよな。車に何か仕掛けたんだろ?」

 そう直哉が言うと、沙耶は顔を上げて、

「あ、うん。そうだった!」

 慌ててポケットを漁り始める。

「運転手は殆ど素人だったからね。ドア開けっ放しで、のん気に車の外でタバコ吸ってる内に忍び寄って、車内と車外それぞれに盗聴器と発信機を仕掛けておいたの」

 沙耶がポケットから取り出したのは、タッチパネル式の携帯電話だった。画面には周波数らしき数字や、音声波形などが表示されている。

「お、おい。ってことはあいつらの場所が分かるのか」

 昂の声が上擦る。

「もちろん。わたしの任務は、奴らの目的と居場所の調査。目的の方はまだだけど、場所はこれでばっちり」

 そう言って沙耶はウィンクした。

「もう盗聴の電波は圏外になっちゃってるけど、発信機はGPSを使ってるから、日本全国どこにいても見つけられるよ」

「おお……望月、よくやった!」

 昂が沙耶の両肩に手を置いて言った。

「ふふん、校内一のブンヤ、沙耶ちゃんを舐めないでよね」

 さっきまでとはうって変わって、沙耶は得意顔でふんぞり返る。

 そこに静音が声をかけた。

「望月。それで校門にいたお前が、校舎にいるのは何故だ?」

「あ、そうだね。あいつらの車を見送った後、車内の会話を途中まで聞いていたんだけど、その中に四階に符を残してきた、って会話があって」

「それで校舎にいたってことか」

「うん。みんなが三階にいるのには気付いてたんだけど。符を回収した後は、黙って去ろうと思ってたら……」

「直哉に見つかっちまった、と」

 昂が付け加えた。

「もう後は外に出るだけだったんだけどなぁ。いきなりこっちに来るんだもん。慌てて物陰に身を潜めて、やり過ごそうと思ったんだけど、それでも見つかっちゃった」

「それで、符ってのは今持ってるのか?」

「うん。これ」

 直哉の問いに、沙耶はポケットから紙切れを数枚出した。縦長の御札のようなそれには、漢字がびっしりと書き込まれている。直哉はそれを手にとって眺めた。

「あの大男は遁甲陣とか言ってたな。俺は専門じゃないから詳しく分からないけど、奇門遁甲を使った術だろうな」

 奇門遁甲とは、古代では兵法としても用いられたとされている、中国の占術だ。

 方位などで吉兆を占うことに始まり、他人の方向感覚や距離感を欺き、道に迷わせるといったことも可能と言われている。

「四階の廊下の両端と、資料準備室に隠して貼ってあったよ」

 それを聞いて、直哉は少し考え込んでから、

「昼間消えた生徒とかは、術を発動させて、隙をみてそこに引っ張り込んだんだろうな。後は放課後まで待ってから、運び出すわけか」

「元々資料準備室とか、滅多に人来ないしね。来たとしても、室内にさらに符が貼ってあったし、気付けないようになっていたのかも」

 納得したように沙耶が言うと、昂は呆れたように、

「じゃあなんだ、犯人たちは毎回誘拐したやつと一緒に、放課後まで資料準備室に篭ってたってことかよ」

「その可能性が高いな。そんな大胆な真似が出来たのはその符と、あの女の術のおかげということか」

 静音の言葉に沙耶が頷いた。

「確かに符で気配を隠しつつなら、術で動けなくして準備室に引っ張り込むくらい、昼間でもやれるかも」

 直哉は縛師と自称していた女の顔を思い返した。

「あの女、とにかく人の動きを止める術に長けていた。瞳術にしても影縫いにしても、初見じゃ防ぎにくい術ばかりだ」

「うちの生徒で三年生の術者ばっかりを狙うって、どんな凄腕の野郎だって思ってたけど、その術でいきなり不意打ちしてたんだろうな」

「そうでもなければ、姉があっさり捕まるはずない」

 静音の言葉に、沙耶が意外そうな顔をした。

「斉木さんのお姉さんって──」

「普段はおっとりしてるが、わたしよりもずっと強力な能力者だ」

「え、そうなのか」


 昂は三年生の静音の姉の姿を思い浮かべた。

 斉木陽香。静音とは対象的な、色素の薄い栗色の長髪に、透けるような色白の肌。物腰も柔らかく、落ち着いた性格でもちろん美人。学年、性別問わず人気の先輩だ。

 沙耶も昂も揃って驚いた様子だったが、静音の姉を知らない直哉は、そんな二人を不思議そうに見ていた。

「ともかく、どうやって犯行に及んでいたのかはもういいか。望月、あいつらが今いる場所は?」

 話を元に戻して、直哉が沙耶にたずねる。

「ちょっと待ってね」

 沙耶は携帯電話の画面を操作した。

第二章の3と4の間で抜けてしまっていた部分を付け足しました。申し訳ありません。

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