郵便局でアルバイト
ー今日からアルバイトだ。
郷田は時計を確認し、立ち上がる。
今、夏休み中で郷田はこれからアルバイトに行くところだった。
知人の紹介で入れてもらったのだが、緊張しないわけではなかった。
ー友達もいるし、大丈夫だよね。
スマホを手に取り、LINEを確認すると、一緒にアルバイトする2人から連絡があった。
アルバイト、行くよ、みたいな内容で、郷田はよしと気合を入れる。
まだ女子高生なのだが、薄くメイクし、バッグを持つ。
郵便局は郷田の家の近くにあり、歩いていくつもりだった。
「…外、暑そうだな」
すでに汗をかいており、匂いがしないか心配だった。
ピコン、と音がしたので、スマホを見れば、もう郵便局に着いたようだった。
「お母さん!! 行って来ます」
「はい、気をつけて」
母親がエプロンで手を拭きながら、見送りにやって来る。
自慢の母親で、親友のように何でも話せる仲だった。
双子みたいと言われたこともあるが、それは大げさだと、軽く笑う。
「どんなことをするんだろう?」
「何をするんだろうね? とにかく言葉遣いに気をつけなさい。分かった?」
「うん!! 気をつける。ーじゃあ」
靴を履いて外へ飛び出す。
その途端、むあっとした熱気が襲いかかり、郷田の息を止めようとしているかのようだった。
だから思いっきり息を吐き出すと、太陽に負けてたまるかと、睨みつける。
実は入道雲が気持ち良さそうに広がっており、太陽はかしずいている気がした。
ー郵便局まで我慢、我慢。
熱さを吹き飛ばすように、大股で歩いて行くと、すでに郵便局が見えてくる。
友達2人も外で持っていてくれたようで、悪いなと思いつつ、ほっとする。
「良かった!! 2人に会えた」
「もう遅い。暑くて溶けそうだわ」
「それは大げさでしょう? でも汗は気になるな。メイク、落ちないといいんだけど」
友達の1人が鏡を出すと、顔をチェックする。
鏡は光を反射し、光の道を作る。
「よし。行こうか。楽しみだね」
「お金をもらえるんだよね? これは頑張らないと」
3人はふふふと笑うと、郵便局に入って行く。
受付にいた女性、50代くらいだろうか。その人に声をかける。
「あの…!! 今日からアルバイトする者なんですが」
「…ああ。あなた達がそうなのね」
女性は柔らかく微笑んでくれ、郷田達の緊張が緩む。
「ちょっと待ってね。担当者を呼んでくるから」
「は、はい…!!」
3人はなるべく固まって一緒にいるのだが、郵便局の中はエアコンが効いていて寒いくらいだった。
自然に逆らう人間を、太陽達はどう考えているのだろうかと、ちらりと思ったが、涼しさにほっとする。
すぐに担当者40代くらいの男性がやって来て、郷田達に声をかけてくる。
「君達がアルバイトする娘達?」
「はい、そうです!!」
「よろしくお願いします」
口々に言うと、担当者ー名前は元原というらしいが、優しく言ってくる。
「じゃあついて来て。仕事を教えるから」
「はい!! 頑張ります」
ガッツポーズを作ると、元原が眩しそうに見てくる。
「元気だね。学校でもそうなの?」
「えっと…学校でもこんな感じです。3人で固まっていて…。ねえ?」
「うん、そうだよね。私達、明るくて元気なほうです」
「自分で言わないの、もう馬鹿」
あははと、郵便局内に明るい笑いが広がる。
3人集まるといつもこうで、目立つ存在だった。
元原も笑顔になると、ドアを開く。
「ここが君達の仕事場。郵便番号ごとに、荷物というか、手紙を分けて欲しいんだ。できる?」
「やります!! この日のために、張り切って来たんですから」
郷田が鼻息を荒くすると、元原は「よし」と呟く。
「とりあえず俺がやるのを見てて」
簡単そうに見えるのだが、それは元原が慣れているからであり、郷田はごくりと唾を飲む。
ー初めてのアルバイト。少しでも自分で稼がないと。
自分のものは自分で買うのが教えの家なので、頑張ろうと腹に力を込める。
「やってみる?」
「もちろんです!! ね?」
2人に話しかけると、うなずいてくれる。
元原は立ち位置を変えると、勧めてくる。
「はい、やってみて。最初だけ見ていくから」
「やります…!! よーし!!」
腕まくりをする真似をすると、2人ともやる気のようだった。
元原はじっと3人を眺めてくる。
「若いっていいね。こっちまで元気になるよ」
「そうですか? えへへ」
褒められたと思いつつ、仕事を始める。
傷つけないように、手紙や葉書を持つと、仕分けていく。
ーあ。この仕事、私に向いている。
やってみると楽しく、郵便番号と住所を確認していく。
最初は硬かった動きが、段々とスピードアップし、慣れたようになる。
「おー、すごい。すぐ動けるなんて」
パチパチと元原は拍手をしてきて、3人に言ってくる。
「女子高生が来るって言うから、どんな娘達が来るのかと思ったけど、君達なら大丈夫だ。そのまま仕事を続けて」
「はい!!」
郷田は褒められたのが嬉しくて、郵便物を扱っていく。
アルバイトだからと手を抜くつもりはなかった。
ー人生初のお給料、もらうんだ。
わくわくしてきて、鼻歌を始めそうな勢いだった。
担当者の元原も良い人なようで、注意してくることはなかった。
ーイケメンだし。奥さんとかいるのかな?
ふと気になって振り返ると、元原と目が合う。
どうやら3人を眺めているつもりが、郷田だけを見ていたらしい。
2人は気づいていないのか、郷田だけが気づいてしまった。
ーえ? え? 何で、私?
不思議に思って見返すと、元原が話しかけてくる。
「やってみると単純でしょう? 楽しい?」
「楽しいです!! 仕事するのが、わくわくするというか…。初めてのアルバイトがここで良かったです」
「そう。他の2人は?」
「大丈夫です。順調です。ね?」
「う、うん。失敗しないようにしないと」
「失敗してもいいんだよ。まだアルバイトなんだから。怒られるとしたら、担当者の俺くらいのものだから」
「え? そうなんですか? 怖い人がいるとか…?」
「違う、違う。でも仕事中は厳しいかな」
ははと笑うと、元原は3人に言ってくる、
「俺も女子高生と一緒に仕事ができて嬉しいよ。後で連絡先を教えてくれる?」
「えっと。どうする?」
3人は顔を見合わせると、郷田が手を挙げる。
「はい!! 私が後で教えます。よろしくお願いします」
「分かったよ。じゃあ俺は離れるけど、後で見に来るからよろしく」
そう言うと、ふわりと香水の匂いがし、風が流れてくる。
元原はモデルなように消えていく。
いなくなると、すぐ友達が話しかけてくる。
「かっこよくて、優しい人だね。連絡先、教えるんだよね?」
「皆で教えようよ。学校の同級生よりも、大人でスマートだし」
3人はにやりと笑うと、仕事に戻っていく。
郷田は軽やかなリズムで、まるで踊るように動いていく。
ー私、将来が見えてきたかもしれない。
ふとそんなことを思い、仕事に集中していくのだった。




