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読切短編 扉の内側から

作者: 黛 文彦
掲載日:2026/05/19

 また新しいのが来た。


 扉が開いて、閉まる。その重さでわかる。今度は女だ。前に来ていた男より、扉の重さが軽い。鍵を差し込む動きが、少しぎこちない。新しい職場に来たばかりの人間に特有の、あの緊張した力の入れ方。


 嫌な予感がする。


 私はこの感覚を、何度も経験してきた。根拠がないわけではない。13という番号は、それだけで人間を変える。意識するな、と言われれば意識する。気にするな、と思えば気になる。最初から13番を避ける者、わざわざ選ぶ者、番号など見ていない者。どのタイプが来るかで、だいたいわかる。


 今日の彼女は、番号を見ていなかった。


 気にする者は慎重になる。気づかない者だけが、遠慮なく壊す。


 それが一番こわい。


 扉の内側に、前の利用者が貼ったシールの剥がし跡がある。さらにその前の誰かが彫った傷がある。もっと前の誰かがこぼしたと思われる染みが、底の隅に残っている。私はそれらをすべて覚えている。何年分もの、人間の不注意と感情と生活が、私の中に積もっている。


 最初の一週間、彼女は丁寧だった。


 鍵をそっと回し、荷物を整えて置き、扉をきちんと閉めた。最初の数日は、皆そうする。


 三週間目、扉の閉め方が変わった。


 少し乱暴になった。職場に慣れてきた証拠だ。緊張が解けると、力の入れ方は変わる。それ自体は悪いことではない。ただ、その重さは少しずつ残る。


 六週間目、彼女は初めて舌打ちをした。最近は、帰る時間も少しずつ遅くなっていた。靴音だけでわかる程度には、私は毎日を覚えている。


 鍵が引っかかったのだ。今日も、うまく回らなかった。古い鍵穴はよくそうなる。前の者もそうしていた。その前の者も。鍵穴のせいなのに、彼女は小さく舌打ちした。


 そして今日。


 彼女は扉を、強く叩いた。


 一回だけ。でも確かに。胸騒ぎは的中した——また、誰かが壊れ始める時期が来た、と私は思った。次の利用者が来るまでの間、私はまた一つ、内側に傷を残す。 こうして私の内側だけが、少しずつ人間に似ていく。


 人間は扉を叩くとき、中に誰もいないと思っている。


 いつだって。


 全員。

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