人じゃない・・・?
「えっ・・・」
希空と名乗ったそいつは、そんな素っ頓狂な反応を見せた。それもそうか。いきなり、そんなことを言われるのだから。
「ど、どういう、ことですか?」
「色々おかしな点がある。まず、あの飛来した何か。何故、俺が避けて、そのまま通りすぎるはずだった攻撃が、いきなり進行方向を変えたのか。そして、なんでお前を殺したはずなのに、また生き返ったのか。それと・・・。それが、決定的な証拠だ」
俺は、そう言ってそいつの体を指差した。
「俺は、そこそこの傷を与えたつもりなんだがなぁ。なんで、もう既に完治している」
さっき、こいつの心臓を刺してから薄々勘づいていた。こいつから溢れ出した血は、少しだけおかしかった。そこら辺にいる人間の血より濃く、触った感触、俺の血と似た感触を覚えた。故に・・・こいつは、普通の人間じゃない。異能力者か、それとも、ただ単に変わった血を持っているだけなのか・・・。だが、どちらにしろ、普通の人間じゃないことは確かだ。普通の人間が、俺の血と似たものを持つはずがない。だって、俺は一応異能力者なんだぞ?今は、異能力を封印しているだけであって、完全に消し去ったわけではない。だから、俺の血は異能力細胞も流れているのだ。
「っ・・・」
「言葉も出ないって言った感じだな」
反応から見るに、事実なんだろう。
「さぁ。理由を説明してもらおうか。何故、その傷は完治した?」
「そ、そんなの。私の治癒能力がたまたま高いだけじゃないの?ほ、ほら。特殊能力っていうの?よくあることじゃん。異様に足が速かったり、握力が強かったり・・・とかさ。その特殊能力の、治癒能力がただ優れていただけだよ」
その可能性も、なくはないだろう。だが、少なくとも分かったことがあった。人間は、特殊能力を覚醒させることが出来る。
「なるほどな。お前には感謝する」
「な、何に・・・?」
「まぁ、いい。それで、まだ戦うか?」
「・・・えぇ。私は、この試験に合格したいんです」
「それは、俺だって同じだな。じゃあ、立ち上がれ。再開するぞ」
俺がそいつにそう促すと、希空は立ち上がった。そして、ナイフを構える姿勢をとった。
「それじゃあ・・・行くぞ!!」
そうして、俺が動き出したことによって戦いが再び始まった。俺は、また一瞬で距離を詰めて、
「今度こそ、思惑通りには行かせませんよ?」
「やれるもんならやってみろよ」
そう言いながら、俺はナイフを構える。そして、思いきり振りかぶる・・・!!
<<カキーン>>
俺のナイフと、希空のナイフが衝突する音が響き渡った。
「変化球を加えてこないんだな」
「さっきの不意打ちが不発だったことで、貴方には不意打ちをしても無駄なんだなって思いました!!」
割と、思考が働いている。おそらく、同じように不意打ちを仕掛けていたら、こいつはそれまた大きな傷を負っていたことだろう。
「それに、どうせ貴方のことですから・・・!!不意打ちされるの一択だけを考えていたわけじゃありませんよね?」
「・・・やっぱり、お前は普通じゃねぇよ」
Fクラスに入学して、ましてや入学して1週間の生徒が出来る考察じゃない。
「ほんと、お前は何者なんだ?」
「答えは・・・まだ言う時じゃありませんね」
すると、お互いのナイフが弾けた。そうか。剣術も効かない。だったら、久しぶりにあれをやってみるか?それで、実力がバレなければいいけどな・・・。いや、でもどうせ。現代を生きるものが、『神』が存在することは知らないだろう。それは、おそらくこいつもその一人であって・・・だったら、
「おや?いきなりナイフを捨ててどうしたんですか?戦う気力がなくなっちゃいました?」
「いや、そうじゃない」
深呼吸をする。ほんとに、久しぶりだ。これを使うのは、あいつ以来だな。ゆっくりと、右腕を天にかざす。そして・・・
「ふんっ!!」
刹那、とてつもない風が押し寄せてくる。近くに栄えていたそこそこ背が高い木が、吹き飛ばされるほどの。
「うわっ!?いきなりなに!?」
その風が吹いた瞬間、あまりにも予想外のことだったからか、希空に隙が出来ていた。
「じゃあ・・・畳み掛けるぜ」
俺は、拳を固めて、次の瞬間。地面に思いっきり拳を振り下ろした。その衝撃で、辺りの土が大きく舞い上がり、一瞬にして視界を奪うほどに立ち込めた。
「決着だ。大切なことだから、しっかり言っておくぞ」
俺は、そいつの脳内に残るように、力を込めながら言った。
「お前じゃ、俺には勝てない」
そして・・・。
砂塵が解けると、希空は倒れていた。それも、流石のこいつでも治癒が難しいほどに傷が付いた状態で。
「ははっ・・・。2度目の敗北です」
「正直、お前の実力には驚いた。が、俺には及ばなかったな」
「まぁ、これで私は十分かもしれません。それじゃあ、殺してください」
「・・・」
「戦いは、貴方が勝ちました。バッジも、好きに持っていってください」
その瞬間、俺に躊躇いが生まれてしまっていた。それは、どう言った意味での躊躇いなのだろうか。俺が今、直感的に感じたことは、こいつを殺すのは勿体ないということ。だったら、だったら・・・。
「・・・。記憶だけは、消させてもらうぞ」
死なない程度に頭を叩いて、記憶がなくなるようにしておいた。
「とりあえず、俺の拠点に持って帰るか」
そうして、その戦いはようやく終わりを迎えるのであった。




