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婚約破棄劇場の傍観者達

作者: 東雲 翳月
掲載日:2026/06/12


楽しんで読んでいただけたら幸いです。

リアクション、ありがとうございます(*^◯^*)


※気になる箇所が見つかったら予告なく加筆修正する場合があります。ご了承下さい。


 




「アマルディア! 本日! 今、この時を持って! 貴様との婚約を破棄する!」



▼子爵令息は語る



 壇上にて声高に叫ぶ金髪碧眼の美男子は、この国の王位継承者、サイファ王太子だ。


 柔らかそうな金の癖毛は、シャンデリアの光を絡ませて煌めいている。でも、なぜだろう。寄せた眉間から山なりに跳ね上がる金の眉毛までもが輝いているんだけど。


 神々しい。綺羅綺羅だ。とにかく綺羅綺羅しい。知らなかった……金色の毛ってこんなに輝くんだな。なんかすげえ。


 だとしても。ちょっと光りすぎじゃないのか? なんだか襟元が濡れているような。


 あ、もしかしてヘアオイルを塗り過ぎたとか? だよね。うん、支度した側仕えが分量を間違えちゃったのかな? ていうか……塗っているのかもしれない、眉毛にも。たっぷりとオイルを。だって光ってるもん。眉毛もバッチリとツヤってるんだもん。


 ——いや引くわ。流石にやり過ぎ。眉毛は引くわ。


 (マジだ! テカテカじゃん!)




「聞いているのかアマルディア!」



 あらら。サイファ王太子、自分の台詞に酔ってドヤ顔してるよ。小鼻が膨らんでるじゃん。まあ、良くあるシーンだよな、これ。日本の書店やネットで溢れに溢れかえっていた断罪劇。右も左も断罪劇。「もうネタ切れじゃん?」ってみんな気付いているのにそれでも増える断罪劇。人と被っても王道だから何故か許される断罪劇。


 実はさ、俺、転生しちゃったんだよね。このメリカシア王国の子爵令息に。これもありがちパターン。王道一直線な設定だよね。だけど俺はこの転生先がどんな物語なのかわかんないのよ。だってあんまりにも多すぎるんだもん。こういう転生モノの断罪劇ストーリー。俺さ? ファンタジー好きで結構読んでたわけよ、マンガも小説も。商業化したのもプロのもアマの作品も、手当たり次第というかあれやこれやと暇つぶしにかなりの数を網羅したんだよね。あ、アニメもかなり見倒しました。はい。


 だからさ、わかんないんだよね。


 俺はどの作品に転生したんだ?


 似たような話を読みまくったら記憶混ざっちゃうじゃん? これ、どの小説ですか? 誰か教えて下さい。


 (知るかよーー!)


 いやね? ずっとずっと思い出そうと考えて生きてきたんだけど結局答えは見つからなくてさ。普通に子爵令息生活を堪能しながら平々凡々な人間関係の中で生活してきたのよ。なんつうの? 劇的な出来事なんて全く起きないわけ。だって俺、一人っ子だから意地悪な兄弟は居ないし、父親は真面目で優しい普通の人で、他所に子供なんか作ってないし。母親も優しくてとても元気。なんなら両親の夫婦関係はすこぶる順調。継母や連れ子が突然現れて虐待人生まっしぐら……みたいなドラマチックな事件は残念ながら起きませんでした。うん。今も普通に幸せ。


 で。ここにきて今、コレじゃん?


 俺の人生になんの関わりもない、雲の上の方々が急に始めた断罪劇。


 壇上には綺羅綺羅しい王太子。


 目の前には断罪されようとしている公爵令嬢。


 それを取り囲んでいる沢山の観覧者。


 その中に埋もれている俺。


 うん、俺。


 モブ確定、だよね?


 (モブーーーー!)


 ならば楽しまなきゃ損じゃない?


 この断罪劇。


 活字でもイラストでもマンガでもアニメでもない。目の前で、高貴な方々が繰り広げる正真正銘の断罪劇。


 結末はぎゃふんなの? 悲劇なの?


 それともハッピーエンドなの?


 教えてほしい、とにかく知りたい。


 ここは、誰が書いた物語の中なんだ?


 (誰が書いたんだよーーーー!)


 ちなみに俺、今までに何回「断罪劇」って言った?


 覚えてる? 覚えてないよね。


 正解は9回! 実は地味に数えてた。



 (数えてたのかよ!)




 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎





「——聞こえております。王太子殿下」




▼男爵令嬢は語る



 落ち着いた様子でお答えになられたのは、ガーネスト侯爵令嬢アマルディア様でございます。



 (よっ! 男爵令嬢ォ!)



 緩やかにまとめられたホワイトゴールドのお(ぐし)はキューティクル艶々で、全世界の女性がなりたい髪質No.1と言っても過言ではありません。本当に羨ましい限りでございます。


 前世である日本のドラッグストアに並ぶ——ありとあらゆるリン・シャンを総動員してケアしたかのような美しい仕上がり。どのようなお手入れをすればあんな素敵な髪になるのでしょう。ケラチン配合、ノンシリコンで保湿成分てんこ盛り、有名美容師お薦めな某メーカー限定品とかを使用するならこのクオリティに達する事が出来るかもしれませんね。ああ……戻れるものなら戻りたい。懐かしきあの国に。


 実は私、小説を書くのが三度の飯より大好物、という引っ込み思案な大学生でした。残念ながら文才はまったくありませんでしたが。色んな企画に応募をしましたが、かすりもしない素人作家でしたし。それでもやっぱり自分の作品には愛着を持っていました。物書きなら誰でも陥る思い込み——「読んでさえくれたら絶対に私の作品の素晴らしさがわかるはず!」という呪いに見事にかかった、いわゆるその他大勢の作家達の一人でした。


 あの日、授業が長引いてバイトに遅れたんです。今になって考えてみれば、遅刻確定でした。5分も10分もさして変わらないんだから開き直ってゆっくり行けばよかったんです。でも小心者の私は、店長に怒られたくない一心で走りました。


 雨に濡れた歩道橋を。


 下りの階段を。


 必死に駆け降りたら案の定、滑って転んで落っこちて——気がつきゃ転生、ぶったまげ……というオチでした。どの物語かわからない世界で、産声を上げていたのです。



 (おんぎゃーーーー!)



 本当に私は……子供の頃からいつもそうだったんです。オチがいつもツイてない——そんな人生だったんです。だから。自分がファンタジー世界の男爵令嬢に転生したのだと気付いた瞬間——目の前が真っ暗になりました。


 だってそうでしょう? 


 私、沢山の異世界転生モノを書いてきたからこそ分かるんです。転生者なんて最悪じゃないですか。ヒロインでも悪役令嬢でもモブでも——転生者にはもれなく波瀾万丈なイベントが盛り沢山、この身に降りかかるというのが鉄板でしょう?


 そのせいで苦しみまくる人生はテンプレじゃないですか。私だったらそう書きます。誰だってそう書きます。そうに決まっているじゃありませんか。





 ✳︎✳︎✳︎✳︎





「ならば、しかと私の言葉を受け止めよ。アマルディア、お前に私の隣に並び立つ資格はない!」


「あの……殿下、正直申し上げれば……殿下が仰るお言葉の意味を図りかねております。誠に勝手ながら——もう一度、お伺いしても宜しゅうございますか?」




▼給仕は語る




 首を傾げるガーネスト侯爵令嬢アマルディア様は微動だにしない。白金を結い上げた頸から肩にかけた曲線は何とも色っぽく、目が釘付けになった。


 おおっと危ない。グラスを取り落とすところだった。目の前に居る令嬢のドレスを汚そうものなら後からどんな叱責を喰らうことやら。まあ、今、会場中がこの劇的なシチュエーションに目を奪われているのだから、大丈夫っちゃ大丈夫だろうけど。


 トレーに空のカクテルグラスと飲みかけのワイングラスを載せ、ひとまず令嬢から距離を取る。一旦厨房へ引くか? いや、動けるような雰囲気じゃないもんなあ。


 それにしてもこの騒ぎはなんなんだ? 王族主催の余興かなんかか? いわゆる断罪、ってやつだよな。嘘だろ、公開処刑かよ。


 一国の王太子が公衆の面前で大声張り上げて女性に喰ってかかるなんて品性のかけらもない。王太子って偉いんだよな? パワハラしてどうするんだよ。コンプラ違反だぞ、誰か取り締まれ。女性相手に恫喝まがいの圧かけてどうするんだよ見苦しい。



 (コンプラコンプラ!)



 専制君主制度の弱点見たり、だな。トップがダメだと国が崩壊する典型だ。ん? ちょっと待てよ? まさかこの国、このまま滅びたりするんじゃないだろうな。いやいや勘弁してくれよ。転生先が崩壊するとか笑えねぇ。


 立憲君主制の日本だって国民が疲弊して先が危うかったんだ。どんなに素晴らしいシステムで国を構築しても、それを動かす人間自体が愚かならば意味がない、という事だ。死ぬほど勉強していい大学入って大物政治家の秘書にまで漕ぎつけたのに過労死。生まれ変わった先の王太子がこれだもんな。とかなんとか愚痴ったって所詮、この世界じゃオレは王宮のしがない給仕。運んで片付けるのが仕事なんだから。



 (おい、政治家の秘書! 話が固いぞーーーー!)



 それにしても……いい女だなぁ。アマルディア嬢。


 こう、凛としているというかスッとしているというか。日本にゃこんな凛々しくて清楚で品のある女性はなかなかいないよなあ。なんで婚約破棄なんて勿体無いことをしたいんだ? 




 ✳︎✳︎✳︎✳︎




「な……なんだと!? 私を愚弄しておるのか!?」


「いえ、そうではなく——」


「ああ、そうか。アマルディア……あまりの衝撃に現実を直視出来ないのだな?」


「ですから——」


「何度でも言ってやろう! アマルディア、私とお前の婚約は破棄だ!」



 (破棄だーーーーー!!!)




▼柱時計は語る



 おお……なんか今夜の舞踏会は荒れてるな。


 とりあえず、9時になったぞ。鐘鳴らそ。


ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん……。


 あ、やべ。鐘一個多く打っちまった。ま、いいか。



 (良くねえよ! ちゃんと動けーーーー!)



 おれ、時計。


 柱時計。


 王宮の大広間にどーん、って置かれてる柱時計。


 ——いや、設定おかしくない?


 (おかしーーーーーーい!)


 なんで転生した先が時計の人生なのよ。


 ほんと、誰が書いたの、この脚本。

 

 (しらねーーーよ!)


 学校から帰るだけの帰宅部。

 部活なんてだるい事しない。

 先輩、後輩の上下関係なんて面倒だし、そもそも熱苦しいのマジで勘弁。


 帰宅部って言ったって、毎日は意外とスリリングなんだからな。交通量が増える夕方は警戒が必要だし、散歩している犬が吠えてきて飼い主さんとプチバトルかましたくなるのを必死で抑えたり、途中にあるコンビニがオレの財布を毎日狙ってくるんだ。ちょうど喉が渇くタイミングバッチリの場所にあんだよな、あのコンビニ。マジ死活問題。


 で、ある日の帰り際、お決まりの交通事故、らしい。それで死んだ設定らしい。


 ——いや、もう少しひねれよ。あるでしょ、なんか、こう、もっと劇的なやつ。


 んで、目が覚めたら王宮で?


 オレはかちこち鳴っていた。


 そう、かちこち。


 なにこれ。なんかバチ当たったの?


 毎日真面目に帰ってただけじゃん。



 (徒歩ですかーーーーぁ? チャリですかーーーぁ?)



 人様にご迷惑を掛けた覚えはありません。


 ここってさ。


 舞踏会やパーティーや礼典や式典がない日は誰もいない。


 掃除しに来る使用人達が帰ったらずっと一人なんよ。


 さびしい……さびしくて死んじゃいそう。



 (えーーー、なんかかわいそーー! がんばってーー!)



 だから、今日は結構楽しい。


 なんか揉めてるじゃん。


 盛り上がってきたね、それにしてもあの王太子。


 エネルギー有り余ってんな。


 毎日良いもんばっか食ってるんだろうな。


 腹減った。あ、そうか。オレ時計だから食えねえんだわ。マジ最悪、この設定。


 こうなったら野次馬決め込むしかねえ!


 いいぞ、派手にやれ!


 (やれやれーーーーー!)





 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「何度でも言ってやろう! アマルディア、私とお前の婚約は破棄だ!」


「——破棄するもなにも……私は王太子殿下の婚約者ではございませんが」


「——やっとわかったか! 少しは身の程を弁えて……って、なにっ!?」


「そもそも……私達の間には一度たりとも婚約を結んだという事実はございません。他人も他人。全く、なんの、関係もないのでございます。それに準ずる取り決めも、条件も、誓約も何一つございません。一体何を根拠にそんな妄そ……こほん、想像を?」




▼子爵令息は語る2



 うおおお〜きたきたきた!!


 起承転結の承、の巻、か?


 この展開も記憶の中にあり過ぎる!


 どれだ!? 


 動け! 俺の脳細胞!


 引き出しの中にある数多の断罪ストーリーからこの話を探し出せ!



 (オタクぜんかーい!)



 それにしても……テカリ過ぎだってば王太子。


 メイク担当誰だよ、照明反射し過ぎて目が痛いって。





 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「ち、父上が仰ったのだ! 婚約者が出来た、と!」


「——はい?」


「アマルディアはいずれこの国の王妃となるのだ、と。だからお前もいつまでもふらふらせず、覚悟を決めてしっかりと向き合うように、とそう仰ったのだぞ!?」


「——国王陛下……が?」


「そうだ! 王命だ! だが、私はお前のような鉄面皮など好かぬ! 優しさのかけらも見えぬお前のような女と生涯を共にするなど……絶対に阻止したいのだ!!」


「……王命、でございますか……」




▼男爵令嬢は語る2



 うーん。


 少し展開がぎこちないですね。


 さすがに短時間で仕上げ過ぎたかしら。



 (そんなことないぞーーー!)



 会話のテンポ重視で書き過ぎてしまった感が否めない……あ、いえいえこちらの話です、お構いなく。


 翳りのある表情——アマルディア様のお声が震えていらっしゃいます。


 素晴らしい演技……いえ、ほほほ、間違えましたわ。


 切なさ滲むあのお顔……憂いを帯びた瞳。


 まるで——◯ラスの◯面、◯島マ◯もビックリな演技力! やだ、興奮しちゃう!


 ——っと、やっばい、つい本音が漏れちゃうわ!


 王太子殿下は引きつっていらっしゃるわ。


 付け焼き刃だものねぇ、かいちょ……んんんんっ!ゴホゴホ、あらやだ、ノドがイガイガしちゃいます。



 (ダダ漏れてるぞーーーー!)



 ここからの展開、みんな予測できるかしら……。



 (できなーーーーい!)



 反応が楽しみですわ。





 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「……王命、でございますか……」


「なんだ、今更そのような顔をしても遅いぞ! 私は決めたのだ! 私はお前との婚約を破——」


「何をしておる!!」


「ち、父上!! こ、これは、その、あ、あの……」


「——サイファ、ガーネスト侯爵令嬢、これは一体どういう事だ?」


「いや、ち、父上これは、です、ね……」


「——どういうもこういうもありませんわ……国王陛下」




▼給仕は語る2


 なんだなんだ? 

 アマルディア嬢は王太子の婚約者じゃなかったのか!


 へぇ、それは良かった!

 こんな奴が将来、国王なんかになったら転覆しちゃうぜ。その責任を一緒に背負わなくても良いだけで儲けもんだって。


 それよりも——国王登場、か。


 問い詰めたいね。

 おれは三時間ほど問い詰めてやりたいね。



 (説教タイムかよ!)



 なぜこんな阿呆に王位継承権なんか与えるのかを。


 国を憂えた次代に継がずしてどうするんだよ。


 派手に登場して威厳ぶちかましてるけど……おれは誤魔化されたりしないからな!


 お前達も考えろよ! 政治は遠いものじゃない!

 おれ達の生活の一部なんだぞ!!



 (そーだ! 選挙に行こう!)



 それにしても——国王相手に怯みもせず、言葉を発するアマルディア嬢、美しいな。


 給仕だけど、可能性探るのってあり?


 (ないないないない!)





 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「なっ……おまっ、お前!! 国王陛下の前で不敬であるぞ!? わ、私はっ! お前のそういう生意気な所も気に食わないのだ!! ち、違うのです父上! この場を設けたのには訳が——」


「だまらっしゃい!! 貴方になぞ話しかけておりません! お退きなさい!」


「な、なんだと!?」


「——陛下」


「う、うむ」


「私を愛していらっしゃるのではないのですか!?」


「な、何を申しておるのだアマルディア! お前、気でも触れたのか!? ち、父上、この女は頭がおかしくなったのです!」


「だから、お黙りなさい! 今は貴方の話など、どーーーーーーでも良いのです!! 国王陛下、この婚約は王命だったのですか!? 私を愛していると仰ったのは嘘だったのですか!!」



 (えええええええええ!?)




▼柱時計は語る2



 おーーーーーーーーーーーい!


 なにこの展開!


 いや、あんまりびっくりして秒針止まっちまったよ!


 誰かネジ巻いてくれ!!



 (だれかAED持ってこい!)



 え、不倫? 不倫なの!?


 最低じゃん、マジ最悪。


 オレ、柱時計だけど倫理観だけはバッチリあるからね! 帰宅部だけど。


 だからさ、誰だよこの脚本書いたの!


 お前ら知ってる?


 (知らなーーーーい!)


 そのパンフに書いてない?


 ちょ、こっそり教えろよ!


 おい、木村! 教えろって!



 (ちゃんとやれよ!)




 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「——な、なんだと!?」


「う、嘘ではない! 誰がそんな戯言を吹き込んだのだ!」




▼子爵令息は語る3



 いや知らない!


 俺の脳内図書館にはこんなストーリーは存在しない!


 正確にはないことはない!


 でも、こんな茶番劇は存在しない!



 (どっちだよーーーー!!)




 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎





「は——え? な、なん……ええ?」


「あんなに情熱的に——私に愛の言葉を囁いて下さったのが嘘だったなんて……陛下が欲していらっしゃるのはガーネスト侯爵家の後ろ楯だったのですね!? 陛下が愛していらっしゃるのは亡き王妃陛下なのでございましょう? それならそうと……初めから仰って下さいまし!!」



 (いいぞ! さとーさーーーーーん!)



▼男爵令嬢は語る3



 いいわ! 素晴らしいわ!!


 私のキャスティングに間違いはなかったわ!!


 佐藤さんっ!!


 あなたはこの高校の……演劇部の星よ!


 ああ……アマルディアはアナタの一部になったのよ!


 会場の皆さん! あなた方もそう思うでしょう!?



 (盛大な拍手が体育館に響く)



 それにしても会長、演技がくさいわ。


 セリフ、カミカミじゃないの!



 (会長ぉがんばれーーーー!)



 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「アマルディア! 嘘ではない! 私はそなたを心から……アマルディア!!」


「酷いですわああああああああ……」



アマルディア、下手へ退場。



「待て! 待つのだ!! 私はそなたを愛しているのだ! アマルディアァァァ……」


「ち、ちちうえ……え、ええ?」


サイファ王子、舞台中央に崩れ落ちる。

スポットライト、のち暗転。



 ナレーション

「相思相愛な国王陛下とアマルディアはこの後、ちょっぴり喧嘩して仲直り(はあと)。二人は幸せに暮らしましたとさ——おしまい」


暗転した舞台にサイファの叫び




「——は、ははうえぇぇぇぇ!?」




 ナレーション

 会場の皆様、これをもちまして寸劇、「断罪ですって? なにを仰ってるかわかりませんわ王太子殿下!」を終わります。最後に、盛大な拍手を持ってお送り下さい!




 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




 天誠高等学校文化祭「ステージの部」で一番の盛り上がりを見せたのは、有志で参加した寸劇だった。


 本来、その枠に参加する予定だったのは軽音部。だが、唯一のボーカルである盛岡君が文化祭直前に失恋。これまた唯一用意していた自作のラブソングを歌えない、という理由で不参加となってしまったのだ。


 ぽっかり開いた時間、この穴埋めをどうするか。


 生徒会長は悩みに悩み、苦肉の策で書記の鈴木君に丸投げした。


 困ったのは鈴木君。でも彼には頼れる友人が居たのだ!


 どうにかこうにか形にした寸劇。


 結果、突貫工事でねじ込まれたのにこの寸劇は大盛り上がり!


 体育館には拍手喝采の嵐が吹き荒れたのだった。



 



「いいぞーーーーー! 生徒会長ぉ!」


「佐藤さーん! 素敵ぃ!」


「金子! 金子! お前サイコー!」


「え、意外と面白かったよね」


「会長、頭、ベットベトwww」


「マジ、それな!」





 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎





 タイトル

「断罪ですって? なにを仰ってるかわかりませんわ王太子殿下!」


 ——すってんころりん男爵令嬢田中著


 キャスト

 アマルディア   ……佐藤(演劇部)

 サイファ王太子  ……橋本(生徒会長)

 国王陛下     ……鈴木(生徒会書記)

 どこかの子爵令息 ……石川(漫研部長)

 どこかの男爵令嬢 ……田中(脚本)

 その辺の給仕   ……奥村(政治オタク同好会)

 大広間の時計   ……金子(帰宅部)

 ナレーション   ……鈴木(生徒会書記•二役)


 -------


 ナレーション

ここはメリカシア王国の王宮広間。華麗なる舞踏会の真っ只中。だが今夜は……何かが起こる、そんな予感が現実となった舞台を——どうかご覧下さい。



——舞台中央、サイファ王子にスポットライト。


サ「アマルディア! 本日! 今、この時を持って! お前との婚約を破棄する!」


——下手に立つアマルディアにスポットライト。


ア「……(無言)」


サ「聞いているのかアマルディア!」


ア「——聞こえております。王太子殿下」


サ「ならば、しかと私の言葉を受け止めよ。アマルディア、お前に私の隣に並び立つ資格はない!」


ア「あの……殿下、正直申し上げれば……殿下が仰るお言葉の意味を図りかねております。誠に勝手ながら——もう一度、お伺いしても宜しゅうございますか?」


サ「な……なんだと!? 私を愚弄しておるのか!?」


サ「いえ、そうではなく——」


サ「ああ、そうか。アマルディア……あまりの衝撃に現実を直視出来ないのだな?」


ア「ですから——」


サ「何度でも言ってやろう! アマルディア、私とお前の婚約は破棄だ!」


ア「——破棄するもなにも……私は王太子殿下の婚約者ではございませんが」


サ「——やっとわかったか! 少しは身の程を弁えて……って、なにっ!?」


ア「そもそも……私達の間には一度たりとも婚約を結んだという事実はございません。他人も他人。全く、なんの、関係もないのでございます。それに準ずる取り決めも、条件も、誓約も何一つございません。一体何を根拠にそんな妄そ……こほん、想像を?」


サ「ち、父上が仰ったのだ! 婚約者が出来た、と!」


ア「——はい?」


サ「アマルディアはいずれこの国の王妃となるのだ、と。だからお前もいつまでもふらふらせず、覚悟を決めてしっかりと向き合うように、とそう仰ったのだぞ!?」


ア「——国王陛下……が?」


サ「そうだ! 王命だ! だが、私はお前のような鉄面皮など好かぬ! 優しさのかけらも見えぬお前のような女と生涯を共にするなど……絶対に阻止したいのだ!!」


ア「……王命、でございますか……」


サ「なんだ、今更そのような顔をしても遅いぞ! 私は決めたのだ! 私はお前との婚約を破——」


国「何をしておる!!」


——舞台上手より国王登場。(スポットライト)


サ「ち、父上!! こ、これは、その、あ、あの……」


国「——サイファ、ガーネスト侯爵令嬢、これは一体どういう事だ?」


サ「いや、ち、父上これは、です、ね……」


ア「——どういうもこういうもありませんわ……国王陛下」


サ「なっ……おまっ、お前!! 国王陛下の前で不敬であるぞ!? わ、私はっ! お前のそういう生意気な所も気に食わないのだ!! ち、違うのです父上! この場を設けたのには訳が——」


ア「だまらっしゃい!! 貴方になぞ話しかけておりません! お退きなさい!」


サ「な、なんだと!?」


ア「——陛下」


国「う、うむ」


ア「私を愛していらっしゃるのではないのですか!?」


サ「な、何を申しておるのだアマルディア! お前、気でも触れたのか!? ち、父上、この女は頭がおかしくなったのです!」


ア「だから、お黙りなさい! 今は貴方の話など、どーーーーーーでも良いのです!! 国王陛下、この婚約は王命だったのですか!? 私を愛していると仰ったのは嘘だったのですか!!」


サ「——な、なんだと!?」


国「う、嘘ではない! 誰がそんな戯言を吹き込んだのだ!」


サ「は——え? な、なん……ええ?」


ア「あんなに情熱的に——私に愛の言葉を囁いて下さったのが嘘だったなんて……陛下が欲していらっしゃるのはガーネスト侯爵家の後ろ楯だったのですね!? 陛下が愛していらっしゃるのは亡き王妃陛下なのでございましょう? それならそうと……初めから仰って下さいまし!!」


国「アマルディア! 嘘ではない! 私はそなたを心から……アマルディア!!」


ア「酷いですわああああああああ……」


——アマルディア、下手へ退場。


国「待て! 待つのだ!! 私はそなたを愛しているのだ! アマルディアァァァ……」


——国王、下手へとアマルディアを追いかけながら退場。


サ「ち、ちちうえ……え、ええ?」


——サイファ王子、舞台中央に崩れ落ちる。

——スポットライト、のち暗転。


 ナレーション

「相思相愛な国王陛下とアマルディアはこの後、ちょっぴり喧嘩して仲直り(はあと)。二人は幸せに暮らしましたとさ——おしまい」


——暗転した舞台にサイファの叫び



「——は、ははうえぇぇぇぇ!?」




 ——劇終。




 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「いや、田中、これってさあ……」


「なによ」


「これじゃただの中世風な昼ドラじゃんよ」


「うっさいわね。いいのよ、学園祭の寸劇なんだから! 少しくらい破天荒な展開とあり得ない結末で盛り上がりゃいいの!」


「うーん……」


「とにかく! コレが本筋! で、あとはこの顛末を周りで見ている傍観者達に独白してもらえば完成」


「え、だってこれ、みんなのセリフがないじゃんか」


「ばっかねぇ、素人の出し物よ!? セリフや演技なんて丁寧に作り込んでも覚えられる訳ないじゃない。各自の設定だけ頭に叩き込んでもらって、あとはぶっつけ本番でアドリブよ!!」


「あ、アドリブ!? いや、待て待て! どんだけテキトーなのよ! 絶対、舞台崩壊するやつじゃん!」


「大丈夫、大丈夫! 傍観者役はクセが強いの集めといたから! あとは任せた、委員長!」


「マジかよ……」


「多少のグズグズ感が出た方が味があるって! とにかく! 私の仕事はここまで! コレでも結構頭捻って書いたんだからね! 感謝しなさい。昨日は徹夜だったんだから! さ、今から転生した男爵令嬢の気持ちを作らなきゃなんないし!」


「かっ飛んでんなぁ……つか、お前、自分が舞台で己語りする為だけにこれ書いたんじゃないよな? なに言うつもりなんだか……大体、転生傍観者の独白劇とか……おれ、まとめるの絶対自信ない」


「だーいじょーぶだって何回言ったらわかんのよ鈴木! 失敗したなら失敗したでいい思い出よ! みんな楽しく好き勝手にやりゃいいんだって!」


「——へいへい。ま、文化祭実行委員会からの急な穴埋め要請だったし。衣装もなんとか借りれてキャストもなんとか決めて、おれらはこうやってすり合わせてって……ただでさえ忙しいってのに、こんだけ時間割いてるだけでも褒めてもらわにゃ割に合わん! あ、おれ、今から各学級の暗幕配りに行かなきゃなんねえのよ」


「あらま、大変ね。なら頑張って! こっちはみんなにコレ配って、役の作り込みだけはするように念押ししとくよ」


「あーーーー、まあ、頼むわ」


「ならね、鈴木」


「おう、またな。田中」








放課後の一コマ。

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