2人の巫女
村の水を司る龍神の生贄として生まれた双子の巫女の愛憎と悲劇の物語
遠い昔、その村は双子の女の子が生まれると、龍神に仕える巫女として神社の奥に屋敷を与えられ、村人から大切に育てられてきました。
そして、姉は『干の巫女』、妹は『水の巫女』と呼ばれ、雨にまつわる災害が起こるたび、巫女は龍神への供物、生贄として捧げられました。
これは、200年ほど前に生まれたとある双子の巫女のお話です。
彼女達には仲の良い男の子がいました。
神官の息子だった彼は同じ神社に住んでおり、彼女達の部屋へ行くことが出来たのです。同い年だったこともあり、3人はいつも一緒に遊んでいました。
そして16になる頃、妹の巫女と男の子は恋仲になりました。村の人達には内緒にしていましたが、姉のほうはそんな2人に気づいていました。
2人を前に叶わない想いを抱えて苦しむ彼女は、いけないことだとわかっていましたが、龍神様に祈りました。妹がいなくなるように、と。
その年は梅雨になっても雨が降らず、田畑は乾き、池は干上がり、皆が困っていました。いよいよ川の水も…となった時、妹ー『水の巫女』ーが村の神官から呼ばれました。
「明日、雨乞いの儀を行う」
「……承知いたしました」
震える声でそう答える巫女を遠くから見つめる若者の姿がありました。神官の息子です。屋敷の片隅で2人は泣き崩れました。
まだ死にたくない、死なせたくない、と考えた2人は、その夜双子の姉である『干の巫女』を薬で眠らせ、『水の巫女』として生贄に差し出すことにしました。
翌朝、神輿に巫女が横たわる中儀式は滞りなく進み、最後に村人達は神輿を担いで近くの崖へ向かいました。下には水がほとんど無くなった「龍神の滝壺」。
彼らが神輿を頭上に掲げた時、姉は目を覚ましました。一瞬で状況を察し、必死に訴えます。
「違っ…私は『干の巫女』……」
彼女の声は祝詞にかき消されてしまうのか、神輿は滝壺へと大きく傾けられ体が滑り落ちていきます。
「そんなことはどうでもいいんだよ」
彼女が最期に見たのは、神官と担ぎ手達の冷たい視線。神輿ごと『干の巫女』は崖から落とされました。
滝壺は真っ赤に染まり流れた血が川の水と混ざり合うと、空は真っ黒な雲に覆われ、雨が降り始めました。
数ヶ月ぶりの雨に村人から歓喜の声が上がる中、恋人達はきつく抱き合い儀式の成功を喜びました。
しかし、巫女の呪いか龍神の怒りか、今度は何日経っても雨がやみません。川が氾濫して田畑は水に浸かり、あちこちで山が崩れ始めた時、神官が妹の巫女に告げました。
「『干の巫女』よ。明日、晴れ乞いの儀式を行う」
「!」
自分は『水の巫女』です、と告げることは出来ません。夜が明ける前に神官の息子と2人でこっそり村を出ることにしました。
しかし、土砂崩れで道が塞がれており、2人は追手に捕まってしまいました。
「私は『水の巫女』です!信じてください!!」
村人は誰も耳を貸しません。神官の息子の抵抗も虚しく、儀式を行うことなく巫女は滝壺へと連れて行かれました。目の前には大量の水が落ちていく滝。そして崖の下には、ゴウゴウと音を立てて勢いよく流れる川がありました。
神官が祝詞を唱えた後、有無を言わさず滝壺に落とされた『水の巫女』の悲鳴は、豪雨と川の音にかき消されてしまいました。
「どっちの巫女だろうが、生贄になるなら村にとってはどうでもいいんだよ」
村人達は冷ややかな目で川を眺め、口々に言いました。
しばらくして雨が止むと、村人達はそれぞれの家に帰り、洪水の被害に遭った家の片付けをしました。
数日後。再び田畑を耕し始める村人の頭上にはジリジリと照りつける太陽がありました。
空を見上げて彼らは呟きました。
「ああ、次からは2人一緒に捧げんとなぁ」
おしまい。
締切間際に慌てて書いたので、乱文お許しください…