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貧しいので褒賞目当てで王女様の婿取りコンペに参加したら陰謀に巻き込まれた王女様を救いました  作者: 舞波風季


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第38話 王女様は楽しみたい

(私たちの番……てどういうこと?)


 ダナエに言われるがままに演台に上ったリュアンは混乱した頭のまま大広間に居並ぶ人達と相対(あいたい)した。

 皆、興味津々といった顔で二人を見ており、隣の者とヒソヒソ話をする者もいる。


 ダナエが儀典官に目配せをした。


 ダンッ!


「ただいまより、ダナエ王女から重大な発表があります!」

 儀典官の声が大広間に響き渡る。


 ダナエはスッと背筋を伸ばし、自分とリュアンに視線を注ぐ人達を見回してから、ゆっくりと話し始めた。


「皆さん、今日はアルビオン王国にとって特別な日です。

 新たに王太子が選ばれ、今、婚約を発表されました。

 王国の未来は安泰です。

 私が心から尊敬し敬愛するお二人が、きっとアルビオン王国をさらなる発展へと導いて下さるでしょう」


(そうか、王女様は国内が混乱しないように……)


 キリアンがアルビオン王家の血を引くものであることはアルビオンの珠によって証明されたものの、その血が彼の両親のどちらから受け継いだものなのかは知らされていない。

 事実、デルド伯爵がキリアンの立太子に異議を唱えた。彼だけでなく、キリアンの立太子に不満を持つ者は他にもいるであろう。

 そしてその中に、現国王の娘であるダナエを担ぎ上げようと考える者がいたとしても不思議ではない。

 ダナエはそんな考えが意味のない愚かなことだと、言わば釘を刺しておこうとしているのかもしれない。


「そこで」

 ダナエは続けた。

「この素晴らしい日に、私ダナエも皆様にお伝えしたいことがあります」

 ダナエはそこで言葉を止め、隣に立っているリュアンを見た。


(一体、王女様は何を……?)

 明らかに何かを企んでいる顔のダナエを見て、リュアンは不穏な空気を感じた。


「皆さんご存じの通り、先ごろ私は婿取りコンペを催しました。

 そして、過酷な試練に参加者の皆さんは全力で挑んでくださいました。

 結果として試練は未達となってはしまいましたが、最後まで試練に立ち向かってくれたのが――――」

 ダナエはリュアンの方を向き手を差し出した。

「ここにいる、リュアン=サグアスなのです!」


(え?)

 派手な紹介をされたリュアンに視線が集まる。


「彼は残念ながら試練を達成することはできなかったので、私の婿になる権利を得ることはできませんでした。ですが、考えてみてください!」

 ダナエは目の前の人々に問いかけた。


「王太子が決まった今、将来私が女王になることはほぼ無いのです。

 となれば婿を取って未来の共同統治者に迎える必要も無いということです。

 そして、私はあることに気づきました。これは願ってもない好機であると!」


 大広間にざわめきが広がっていく。

(好機って……何の?)

 ますますダナエの真意が分からなくなるリュアン。


「それは、私が嫁入りができる立場になった、ということなのです!」

 ダナエが胸を張って高らかに宣言すると、大広間はどよめきの渦に包まれた。

「そして今、私の頭の中には嫁入り先の候補が既に決まっています!」

 そう言ってダナエはリュアンを晴れやかな笑顔で見た。


(え、ま、まさか……!) 

 やっとのことでダナエが言わんとするところをリュアンは悟った。


「そうです、婿取りコンペに最後まで諦めずに挑んでくれた人。そして、ある時は倒れかけた私を支え助けてくれた人。それが今ここにいるリュアンです!」


 ここでダナエは、リュアンに注目が集まるように一呼吸(ひとこきゅう)おいた。 

(うっ……!)

 ダナエの狙い通りリュアンに視線が集中する。


「私はリュアン=サグアスを私の嫁入り先の候補に決めました!」


 ダナエが高らかに宣言すると、大広間に拍手と歓声が沸き起こった。


(嫁入り先の候補……?俺が……?)


「ただし!」

 そう言ってダナエは人々を制するように掌を前に出した。

「私がリュアンの妻として、サグアス家の嫁として相応しいかどうかはもちろんのこと、リュアンが私の夫として、サグアス家が私の嫁入り先として相応しいかどうか、綿密に調査検討する必要があります」

(……?)

 何やら話の方向が変わってきたようで、リュアンだけでなく大広間の人々も(いぶか)しそうな表情になってきた。


「ですので、私が直接サグアス男爵領に乗り込んで、嫁入り審査をすることとします!」

 再びダナエは高らかに宣言したが、今度は先ほどとは違い、拍手もまばらで歓声も控えめだった。


「あら?」

 皆の反応に小首をかしげるダナエ。

「私、何かおかしなことを言ったかしら?」

 そう言ってリュアンを見るダナエ。

 なんと言えばいいのか分からず、困ってしまうリュアンだったが、不思議と彼の心の中は落ち着き始めていた。

「いえ、おかしくはないと思います」

「本当に?」

 さすがのダナエもやや自信が揺らいでしまったようだ。

(王女様もこんな顔をするんだな……)


 リュアン自身、縁談というものがどのように進められるのかほとんど知らない。

 とはいえ、今ダナエが皆の前で発表したような進め方は「通常のやり方とは違うのではないか」とは思う。

 だが、当のダナエが真剣そのものだということもリュアンは理解していた。

 今しがた彼女が発表したことも冗談などではなく、ダナエが心の底から望んでいることなのだ。

「はい、本当です」

 ダナエに答えるリュアンの表情は自然と和らいだものになっていた。

「よかった」

 笑顔でそう答えるダナエは、元通りの凛とした王女ダナエだった。


 婿入りコンペに参加し、断片的ではあるがダナエの人となりに接する機会を得たリュアンは、ダナエが求めるものが少しずつではあるが分かるようになってきた。


(楽しみたいんだな、王女様は……)


 婿取りコンペにしても、試練の達成というよりは試練に挑む者達を見たかった、できることなら自分も一緒に試練に立ち向かいたかった。

 それがダナエの本心だったようにリュアンには思える。


 そう考えると今回の『嫁入り審査』も言ってみれば方便で、実際はサグアス男爵領というダナエにとっては新たな環境に飛び込みたいというのが本心だろう。

 これまではルシーナ以外に友達と呼べる者がいなかったダナエにとって、新たな土地での新たな友人達との交流は胸が高鳴ることであるに違いない。


 ダナエは、リュアンを未来の夫として、恋愛対象の男性として見ているわけではなさそうだ。

 そう考えると、リュアンはホッとしつつも一抹の寂しさを感じるのだった。


「私からの発表は以上です!皆さん、この良き日を存分に祝ってください!」

 わき上がった拍手と歓声に手を振って応えると、ダナエはリュアンの手を取り、

「さあ、お料理を食べに行きましょう。私お腹ペコペコ!」

 と満面の笑みで言って演壇を駆け下りた。


 リュアンを引き連れたダナエは、キリアンとエマがいるテーブルに向かった。

「エマ、私たちはもう家族よね?」

 そう言ってダナエは激突するようにエマの腕にすがった。

「いいえ、まだ私とキリアンは婚約しただけですから」

 エマは穏やかな笑みでダナエに返した。

「ええーー?もう家族ってことでいいじゃない……あ、でも……」

「でも?」

「エマがキリアンに愛想を尽かしちゃうなんてこともあるかしら?」

 そう言ってダナエは横目でキリアンを見た。

「そうですねぇ……無いとは言えないかもしれません」

 エマが熟慮しているふうな顔で言った。


「ええーー!そんなことあるの!?」

 まさに青天の霹靂に撃たれたかのように蒼白になるキリアン。

「なあ、リュアン、なんとかしてくれよーー」

「ええ?そんなこと俺に言われても……」

「だってお前はダナエ王女の……なんだっけ?」

「嫁入り先審査対象よ」

 ダナエが補足する。

「そう、それ!」

 キリアンがパチン!と指を鳴らす。

 だがリュアンは、

「その嫁入り先審査対象にそんな力があるとは思えませんが……」

 といかにも自信なさげだ。

「つれないなぁーー」

 大げさにしょんぼり肩を落とすキリアン。


 そんな喜劇のようなやりとりを、ダナエはエマと一緒に楽しそうに笑いながら見ている。

 そうしているうちに、ルシーナやフィリパ、イルニエが集まってきた。


「私からお祝いしちゃおうかしら♡」

 イルニエはそう言うと、手に持ったステッキをくるりと回した。

 するとステッキの先から無数の小さい星が現れて、大広間を色とりどりの輝きで満たした。

「皆が楽しく幸せになーれ、ていう魔法よ♡」

 そう言ってイルニエはウインクした。


「素敵!ね、ルシーナ?」

 ダナエはルシーナの手を取って引き寄せた。

「はい……ダナエ様」

 控えめに答えるルシーナに、ダナエはこれでもかと言うくらい眩しい笑顔を返した。


(王女様、楽しそうだな)


 未だ、衰弱してしまっていた時のダナエの記憶が色濃く残っているリュアンは、活気に満ちた彼女の姿を目が眩む思いで見ていた。


(サグアスでも楽しんでもらえるようにしなきゃな……)

 そんな事を考えていると、

「リュアン、あっちに牛の(あぶ)り焼きがあるらしいぞ、行かないか?」

 とキリアンが誘ってきた。

「牛!?はい、行きましょう!」

(牛の肉なんていつぶりだ!?)

 胸に沸き立つものを感じて、リュアンは意気揚々とキリアンと共に牛の炙り焼きへと突き進んだ。


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