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貧しいので褒賞目当てで王女様の婿取りコンペに参加したら陰謀に巻き込まれた王女様を救いました  作者: 舞波風季


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第33話 国王の裁定

(俺なんかがいていいのかな、ここに……)


 今リュアンがいるのは、アルビオン王国王宮の玉座の間である。

 リュアンは緊張を通り越して畏怖で足が震えそうだった。

 もちろん玉座から一番遠く離れたところではあるが、玉座の間であることには違いない。

 リュアンの隣にはキリアンがいる。

(キリアンさんがいてくれてよかった……でもエマさんはどこに行ったんだろう?)

 エマはルシーナに付き添って行ってしまってここにはいない。


 今日は、アルビオン王国国王ヘレスによりゴロッツ公爵とタンドール男爵の罪状と処罰が言い渡される日だ。

 今、ゴロッツが玉座の前で両膝をついて裁きの時を待っている。

 アルビオン王国では、一般国民の犯罪は裁判により処罰が決定される。

 だが、特権階級である貴族の場合は、関係する部署に諮問したうえで国王が処断することとなっている。

 謁見の間に引き立てられたゴロッツ公爵は、取り立てて騒ぐわけでもなく、おとなしく玉座の前に両膝をついている。


 ゴロッツ公爵の罪状は、

 一、反逆罪

 二、奴隷取引罪

 三、詐欺罪

 四、脅迫罪

 五、誘拐及び監禁罪

 であった。

 ゴロッツ公爵は宰相グイナスが読み上げる罪状を、無言で床を見つめながら聞いていた。


「では処罰を言い渡す」

 国王ヘレスが玉座からゴロッツを見下ろして、重々しく言った。

「……」

 なおも無言のゴロッツ。

「公爵ゴロッツにおいては、爵位身分を剥奪し、領地をはじめとする全ての財産を没収の上、国外追放に処するものとする」


 国王の言葉が終わり、玉座の間を気味の悪い静寂が支配した。

 ダナエは玉座から少し下がったところに立ち、ゴロッツに鋭い視線を送っている。


「異議申し立てはあるか、ゴロッツ公爵?」

 宰相のグイナスが聞いた。

 国王から貴族に処分が言い渡された場合一度だけ異議申し立てができる。

 その場合は貴族院で採決がなされ、三分の二以上の議員から賛成が得られれば再度の捜査と審議を願うことができる。


「……ふ」

 しばらく無言でいたゴロッツの口から声が漏れた。

「何かね?」

 グイナスが問うた。

「いえ、国王陛下におかれましては、なんとも甘い裁定だなと思いましてね」

 そう言って顔を上げたゴロッツの顔には蔑むようないやらしい笑顔が浮かんでいた。

「控えろ!」

 グイナスが鋭く叫ぶように言って一歩前に出ようとした。

「よい」

 へレス国王が彼を止めた。その声は決して大きくはなかったが、重々しく周囲の者を威圧する強さがあった。


「この裁定を甘いと見るかどうかはお主の勝手だ」

 ゴロッツの小馬鹿にした発言にも眉一つ動かさず、ヘレス国王は落ち着いた声で言った。

 そしてその目は真っ直ぐにゴロッツを見据えている。

 ゴロッツも負けじと見返していたが、とうとう根負けして視線を外した。


「異議申し立てはないようだな。下がってよい」

 ヘレス国王が言い渡すと衛兵が二名駆け寄ってきて、ゴロッツを両脇から抱えあげて連行していった。


 ゴロッツが玉座の間から連行されて出ていくと、ヘレス国王はそれまでの威厳ある姿勢を緩めた。

「本当に……この玉座の座り心地は何とかならんものか」 

 とボヤいた。

「玉座は国王陛下の威厳を体現するものですので」

 グイナスがしれっとした顔で言った。

「お前も一度座ってみろ」

「滅相もございません」

 と、二人は軽口を叩き始めた。


「お父様」

 玉座の斜め後ろの席に控えていたダナエが、玉座の横に進み出てヘレスに呼びかけた。

「なんだい、ダナエ?」

 グイナスと話していた時とは打って変わって、ヘレスは娘に甘い父親丸出しの穏やかな声で答えた。

「私が口を出すことではないとは思いますが……」

 ダナエは控えめに話し始めた。

「構わないよ、言ってごらん」

「はい、あの……ゴロッツの裁定なのですが」

「ふむ」

「国外追放でよかったのでしょうか……もう少し、その、厳しくしたほうが、と、思ったものですから」

 ダナエは慎重に言葉を選びながら言った。


「もっともな意見だな、私も最初は同じように考えたからね」

「では、どうして……」

「今回の事件は、裏でガレアス帝国が関わっている可能性が高いからだ」

「ガレアス帝国が!?」

 ダナエの顔が真っ青になった。

「そうだ」

 そう言ってヘレスは、少し考えをまとめるように虚空を見つめた。

「おそらくこの先も、ガレアス帝国はわがアルビオン王国に陰謀を仕掛けてくるだろう」

「これからも……」

「その場合、帝国からすればゴロッツのような者は道具として使い勝手がいい」

「だとしたら、またゴロッツが悪巧(わるだくみ)をするのではないですか?」

「かもしれんな」

「そうしたら追放ではなく牢屋に閉じ込めるとか」

「ゴロッツが帝国の手先になって悪さをしでかすと分かっていれば、こちらとしても対処しやすいのではないか?」 

 ヘレスはダナエを試すように言った。


「対処……あ」

 ダナエもヘレスの考えが理解できたようで、曇っていた表情に明るさが出てきた。

「ゴロッツに監視をつけていれば、帝国とのつながりを(あぶり)り出せるかもしれない……」

「そういうことだ。とは言っても帝国もそのへんのところは当然警戒するだろうがな」

「当分は探り合いということなのですね」

「そうなるな。まあダナエとしては納得いかないところもあるかもしれないが」

 やや苦笑気味にヘレスが言った。

「今度捕まえた時はボコボコにしてやりますから!」

 と勇ましく微笑んでダナエが言った。


 そんな話をしていると、扉が開いて外にいた衛兵が扉脇に控えていた侍従に声をかけた。

 話を聞き終えた侍従は姿勢を正して玉座に向かった。

「タンドール男爵家の者が参りました」

「うむ、通しなさい」

 今までダナエと話していた穏やかな表情のままヘレスが言った。


 正面の大きな両開きの扉が開き、若い女性に導かれてタンドール男爵夫妻と思しき男女とルシーナが入ってきた。 


(あの人……)


 タンドール男爵家の者たちを導いてきた女性にリュアンは見覚えがあった。

 明るい茶色の髪を美しく結い上げているが、服装はドレスではなく、膝丈のサーコートに細身のズボンとブーツという衛兵の制服に近いデザインだ。


(あの人……エマさん!?)

 そう気が付いてリュアンはキリアンを見ると、彼はエマの凛々しい姿にすっかり見惚れてしまっているようだ。

(エマさんもああいう服を着ることがあるんだなぁ……)

 などと考えているうちに、玉座の前までタンドール男爵家の者達を導いてきたエマが国王に一礼して脇に下がった。

 そしてタンドール男爵夫妻とルシーナが国王の前で両膝をついてかしこまった。


「さて……タンドール男爵デイル、その妻エイネ、そして長女ルシーナ」

「「「はい」」」

 国王ヘレスの呼びかけに三人が沈痛な声で答えた。

此度(こたび)のそなた達の振舞い、見過ごすことはできない」

「「「……」」」

 三人は緊張に体を強張(こわば)らせている。

 ダナエは玉座の横に立って、じっと三人に真剣な眼差(まなざ)しを送っていた。


「反逆罪と奴隷取引罪、それがそなた達の罪状だ」

 ヘレスは重々しい声で言い渡した。

「「「……はい」」」

 三人は頭を深々と頭を下げた。

「ではそなた達の処分を言い渡そう」

「……」

「爵位を剥奪し、領地をはじめとする財産を没収のうえ国外追放に……」


「お待ち下さい!」

 処分を言い渡すヘレスをダナエが(さえぎ)った。

「なんだね?」

 ヘレスは横にいるダナエに視線を送った。

「タンドール男爵家の者はゴロッツ公爵に騙され、利用されていたのは明らかです!」

「確かに諜報部長からの報告ではそうなっていたが」

「しかも、投資詐欺にあって多額の負債を負っている状況です」

「ふむ……」

「そのうえ、三人の子を拉致されたうえ脅迫まで受けていました」

「そうだな……」

「なのに、タンドール男爵家の者があの極悪人のゴロッツと同じ処分だなんて、私は到底承服できません!」

 ダナエは畳み掛けるようにヘレスに強弁した。


「と言っても、彼らが罪を犯したことには変わりはない。処罰をしないわけにはいかないよ?」

 ヘレスは掴みかからんばかりの剣幕のダナエに困惑顔で言った。

「私が彼らの処分を提案します」

「ダナエが?」

「はい」

「で、もし、私がダナエの提案を承認しなかったらどうするのだ?」

「貴族院の審議にかけます」

「なんだと!?」

「正々堂々勝負しましょう、お父様」

 ダナエは不敵な笑みを浮かべて父であり国王のヘレスを見ている。


(なんか話がズレてきてるような……)

 二人のやりとりを聞きながら、リュアンは不思議な気持ちになってきた。

 タンドール男爵家の者の処罰の話が、ヘレスとダナエの親子対決のようになっている。


「分かった、とりあえずダナエの提案を聞かせてくれるかい?」

 ヘレスは小さく溜息をついて言った。

「もちろんです!」

 ダナエは勝ったも同然、自信満々といった笑顔で一歩前に出た。


「では、処罰を言い渡すわ!」

 もはや「案」という言葉すらつけないダナエ。

「タンドール男爵は爵位を格下げして准男爵にし領地と財産は没収。その代わりに負債も帳消(ちょうけ)しにします」

「「「……え?」」」

「そして、タンドール男爵デイルとエイネには強制労働の刑を科します」

「「「……!」」」

 強制労働という言葉の響きに三人は緊張で体を強張らせた。

「二人とも今後は王室の侍従として働きなさい。これは強制よ!」

「「は、はい……」」

 デイルとエイネは呆気に取れた表情をしている。


「そして、ルシーナ!」

「……!」

 両親に言い渡された予想外の処罰に言葉が出てこないルシーナ。

「あなたも強制労働の刑よ!」

「は、はい……」

「一生私のメイドとして働きなさい!そして、結婚したい相手が見つかった時は必ず私に報告すること、いいわね!?」

 そう言いながら人差し指でビシッとルシーナを指した。

「は……は……」

 ルシーナは返事をしようとしたが言葉にならず、下を向いて嗚咽した。

 タンドール男爵夫妻も声を殺して涙している。


「それから、人質にされていた三人の子供は王室が強制的に預かるわ」

 ダナエが言うと、

「ん?それは聞いてな……あ、いや、子供たちをどうするつもりだ?」

 と、歯切れが悪くなる国王ヘレス。

「今回のことを教訓に、タンドール家の子供達には高度な教育を施す必要があると思うのです、将来の王国のために!」

「ま、まあ、それはそうかもしれないが……」

「ルシーナの妹と弟の三名は王立寄宿学校に強制入学、強制勉学よ、いいわね!」

「「「はい」」」

 タンドール男爵夫妻とルシーナは声を合わせて頭を下げた。


「ということで、いかがでしょうか、お父様?」

 勝利を確信した笑顔で胸を張るダナエ。

「もう、決まってしまったようなものだが……まあ、手続きというものがあるからな、いったん預かりということにする」

 そう言うとヘレスは、横に立っている宰相のグイナスを見て、

「ということで、あとは頼む」

 と、どこか笑いを噛み殺しているかのような表情で言った。

「……かしこまりました」

 一瞬何か言いたそうな素振りをしたグイナスだったが、おとなしく頭を下げた。


 ダナエはこれ以上ないくらいの笑顔で、玉座の壇上から降りてくると、跪いている三人のもとに駆け寄り、

「さあ、これからのことを話し合いましょう、忙しくなるわよ!」

 と、言いながら三人を引き連れて意気揚々(いきようよう)と扉へと歩き始めた。

 そして、

「エマも一緒に来て!」

 と振り返りながら言った。

「はい」

 既に分かっていたかのように、エマは素早くダナエの後についた。


「よし、これにて本日の業務は終了!」

 晴れ晴れした顔でそう言うと、ヘレスは玉座から立ち上がり、控室へ続く扉へと大股に歩き始めた。


(国王様の裁定ってこういうものなのかな……)

 思っていたものとは随分違っていて不思議な気持ちになったリュアンではあった。

 だが、実質的にゴロッツ公爵の企みの被害者と言っていいタンドール男爵家にとっては、これ以上ないくらいの処断だとリュアンは思った。


(でも……王女様、すっかり元気になったみたいでよかった、本当に)


 何よりもそのことを嬉しく思いながら、リュアンは三人を引き連れていくダナエを見送った。



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