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貧しいので褒賞目当てで王女様の婿取りコンペに参加したら陰謀に巻き込まれた王女様を救いました  作者: 舞波風季


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第27話 冴えない貧乏男

 ゾーラは膝の上でギュッと両手を握りしめ、俯いたまま黙り込んでいる。


 そんなゾーラを優しい目で見ながらイルニエは言った。

「デリス王子は出会う女性すべてに優しい言葉をかける方だったから。あの時も私がそう言ったでしょ?」

「ち、違う……」

 ゾーラは小さく言って唇を噛み締めた。

 イルニエは話を続けた。

「それでね、デリス王子は既に決まっていた女性と結婚されたの」

太皇太后(たいこうたいごう)様ですね」

「ええ。その時は大変だったのよ。ゾーラが私のところに来て……ね」

 イルニエはゾーラを見たが、無言で俯いている。


「でも、まさか(まじな)いをかけてたなんて思いもよらなかったわ」

 そう言いながら、イルニエは隣のゾーラの肩にそっと腕を回した。

「自分と同じ思いを味わわせてやろう、なんて思っちゃったのね?」

「……」

 ゾーラは無言で頷いた。


(まじな)いはその時にかけたのよね?」

「そ、そうだ……」

「随分と長い間効いてるんですね、(まじな)いって……」

「術者が生きている間は消えないわ……」

 と言うと、イルニエはふと考えをまとめるように言葉を切った。


「ということは、ゾーラが術を解くまでは効いていた、ということよね」

「そうだが……何かあ、あるのか……?」

 何か答えを探しているかのような様子のイルニエにゾーラが聞いた。


「そうだとすると、元々今回のコンペでお婿さんが見つかる可能性はゼロのはずよね?参加者はみんな途中でやる気をなくしてしまうはずだもの」

「そ、そういうことに、なる……なのに……」

 ゾーラはリュアンを、長い前髪の奥からじぃーっと見つめていた。

「あ、あの、ゾーラ様……?」

 妖しい雰囲気を漂わせるゾーラに見つめられて、リュアンの不安と警戒が膨らんでいった。


「お、お前が最後まで……残ったのは、な、なぜだ?」

「え……なぜ、とは?」

「そうよねぇ、(まじな)いが効いてるなら諦めたりやる気をなくしちゃうはずだもの」

 イルニエもリュアンに問いただす。

「それは、自分の目的が……」

 そこでまた、リュアンは言葉に詰まってしまった。

 イルニエとゾーラはリュアンの答えを待っている。


「…………褒賞が目的だったから、だと、思います……」

 と、なんとかひねり出したという様子で答えたリュアンの表情は、なんとも自信がなさ気であった。


「そ、それでも……」

「そうよね、(まじな)いの負のオーラを受ければ、続けようという気持ちが失せてしまうはずよ、目的に関係なくね」

 ゾーラとイルニエは納得がいかないようだ。

「そういえば、ゾーラ?」

「な、なんだ……?」

「あの日、ほら、あなたが『失恋したぁーーっ!』て私に泣きついて来た時……」

「や、やややめろ……!」

 ゾーラは頬を真っ赤にしてイルニエの腕をつかんで止めようとした。


「あら、いいじゃない、ここまで来たらもう、ね」

「うう……」

 恥ずかしそうにするゾーラを見てリュアンが、

「あの……俺は聞いてもいいのでしょうか……?」

「だ、だめ……」

「もちろん、いいわよ」

 ゾーラの言葉にイルニエが被せて言った。

「でもあまり言いふらさないでね♡」

「い、言いふらしたら、お、お前に(のろ)いを……か、かけてやる……」

 ゾーラが凄みのある声で言った。


(まじな)いじゃなくて(のろ)い!?)

 リュアンの背筋に悪寒が走った。

「は、はい!絶対に誰にも言いません!」

「よろしい!」

「よし……」

 リュアンの宣誓?にイルニエとゾーラが答えた。


「でね、あの日、あなたがやけ酒を飲んでくだを巻いたでしょ?」

「う……か、かもしれない……」

 不承不承(ふしょうぶしょう)といった感じでゾーラが答える。

「その時にあなたが言ってたことを思い出したの」

「あたしが、い、言ったこと……?」

「そうよ、覚えてる?」

「あまり、よ、よくは……」

 ゾーラは記憶を手繰り寄せるように、床を見ながら考え込んだ。

「あの時にあなたがね『王家に生まれてくる女子なんて冴えない貧乏男とでもくっつけばいいんだ!』って言ったのよ」

「冴えない……」

 ゾーラの視線がリュアンに注がれる。

「そ、貧乏男」

 イルニエがあとを継いで、同じくリュアンに視線を注ぐ。

「え……え?」


「もしかしたらゾーラ、(まじな)いをかける時にそれを入れちゃったんじゃない?」

「うう……言われてみれば……そ、そんな気も……」

「これで分かったわ」

「うむ……」

「何が、ですか?」


「つまりね」

 そう言ってイルニエはやや胸を張って解説を始めた。

「ダナエ王女には、十五歳の誕生日以降、たくさんの縁談が来たと思うの。当然よね、未来の王国を背負って立たなくちゃいけないんだものね」

「確かに、そうですね……」

「で、その(ことごと)くがまとまらなかった、相手が王女様を敬遠したんでしょうね」

「そ、そうだ……と、思う」

「それで、半ばやけになった王女様が婿取りコンペをやることを思いついた。でも、勝ち残った人も途中で辞退してしまった。なのに……」

 イルニエは一旦言葉を止めてリュアンを見つめた。

「あなたは最後まで残って諦めなかった」

「そうだ……何かがお、おかしいと……思ってたのだ……」


 イルニエとゾーラは何らかの結論に達しているようだが、リュアンには二人が何を言いたいのか分からなかった。

「あの、どういうことでしょうか?」

 リュアンが聞くと、

「今回のコンペで冴えない貧乏男はあなただけだった、てことよ」

 とイルニエが当然でしょ、という顔で言った。

「……はい?」

「もうーーまだ分からないの?」

「すみません……」

「お、お前は……例外だったのだ」

「そうね。『男運が悪くなる(まじな)い』に『冴えない貧乏男とでもくっつけばいい』ってゾーラが付け加えちゃったから」

「お、お前には……負のオーラの影響がお、及ばなかった……」


「ということは……」

 リュアンはイルニエとゾーラの説明を聞いて、自分の頭の中でなんとか答えを見つけようとした。

「つまり……俺は(まじな)いの蚊帳の外にいた、ということですね……」

「あら、それいいわね、蚊帳の外って」

「……い、言いえて妙……」


 イルニエとゾーラと話をしているうちに、リュアンは複雑な気分になっていた。

 リュアンにとって今回の婿取りコンペは、あくまでも褒賞が目当てだった。 

 そもそも彼は、自分がダナエの夫になれるなどとは思っていなかった。

 だが、試練が進むうちにダナエを一人の女性として意識するようになってきたことも間違いない。

 そして、そういう自分を認める素直さをリュアンは持ってもいる。


「……でも、そうだとすると……」

 考えをまとめながらリュアンが言った。

「なあに?」

(まじな)いが解かれた今は状況が変わる、というか本来の形になるということですね」

 リュアンか言った。

「本来の形?」

「ええ、その……男運とか……」

 口ごもりながらリュアンが言った。

「あら、あなたは褒賞が目的なんじゃなかったかしら?」

 イルニエが悪戯(いたずら)っぽい笑顔でリュアンを見た。


「も、もももちろん、そ、そうです……そうなんですが……えと、その……」

 イルニエの言葉がクリティカルになったのは間違いないようで、リュアンはオロオロアワアワするしかないようだった。


「いいわねぇ、恋する魔女っ娘はこういうの大好物よ♡」

 楽しくて仕方がないといった様子のイルニエはそう言いながら、ゾーラの手に自らの手を載せた。

「私たちも応援してあげましょう、ね?」

 と、慈しむように微笑んでゾーラに言った。

「わ、分かった……そうする……」

 俯いたまま答えるゾーラの表情は長い前髪に隠されて分からなかった。


 だがその声音には、それまでに比べると僅かながら柔らかさが増しているようにリュアンは感じた。

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